会社を辞める時に企業型DCはどうなる?「DC難民」にならないために必要な手続きをFPが解説

転職が珍しくなくなった今、転職時に企業型DCがどうなるのかを知っておくことはとても重要です。なにも知らずに放置すると自分自身が不利益を被るので、今回はその手続きについて詳しく解説します。


そもそも企業型DCとは?

企業型DC(企業型確定拠出年金)は企業年金のひとつです。企業年金とは、自社社員のために会社が独自に設定する福利厚生で、代表的なものとしては他に確定給付企業年金(DB)があります。

企業型DCは、会社が従業員に対して給与とは別に掛金を拠出します。この掛金は、従業員の老後資金として積み立てられ、従業員自らが運用します。一方、確定給付企業年金(DB)は、従業員の退職時に備え会社が資金を運用し準備します。

どちらも退職金の一種だと思って差し支えありませんが、いわば企業型DCは前倒しで受取る退職金、それも自分で運用し60歳まで下ろすことができない退職金とも言えます。

60歳まで下ろすことができないというのが企業型DCの最大の特徴で、これは企業型DC制度がある会社を辞める際も「資金を引き出せない」という意味です。従って会社を辞める際は「ポータビリティ」といって、自分自身で次の制度に「持ち運び」ます。

例えば、企業型DCを導入している企業に入社したとします。すると「企業型DC」という貯金箱を渡され「毎月会社からこの貯金箱にお金を入れるから、それを自分で運用してください」と言われるイメージです。そして、会社を辞める時は「これはあなたの貯金箱だから、これをもって退職してください」と言われるようなものなのです。

さあ、転職する時にあなたの手元にある貯金箱は、どうしたら良いのでしょうか?

会社を辞めたので、もうこの貯金箱にお金を入れてくれる人はいません。あなたは退職後6ヵ月以内にこの貯金箱をなんとかしないといけないミッションが課せられるのです。

もし、放置したまま6ヵ月が経過するとどうなるのか? 貯金箱は「国民基金連合会」という国の機関に吸収されてしまいます。その後は、運用をされることもなく、ただただ手数料が毎月差し引かれ残高が減る憂き目にあいます。これを「自動移換」と言います。

ある日気がついて「その貯金箱は私のモノだ」と主張しても、引き受けるのにも費用がかかります。企業型DCでの加入期間が10年未満で放置期間の方が長ければ60歳になっても老齢給付の受給要件を満たせず、受け取りを延期しなければならないこともありますし、自動移換期間は加入期間と認められないので、受け取りの際に退職所得控除の計算対象にもなりません。まさに「良いとこなし」の状態です。

実際、会社を辞めた後に企業型DCをどうしたら良いのか分からずに放置し、みすみす自分の資産を減らしている人たちが世の中にはたくさんいて「放置年金」「DC難民」と称され問題になっています。

iDeCo口座を持つことがベスト

企業型DCのある会社を辞めたら、企業型DCの貯金箱はもう使えませんから、iDeCoの貯金箱を新たに作りそちらに中身を移し換えます。企業型DCとiDeCoを併用していたという方は、保有中のiDeCoの貯金箱に企業型DCの貯金箱の中身をすべて入れる作業をします。この資金を移動させる作業のことを「移換」と言います。

移換に際しても知っておきたい注意点があります。それは「現金化」するという点です。例えば企業型DCでは投資信託での運用をしていたとしましょう。しかし、それらの商品は移換のタイミングですべて売却され現金として移換されます。

仮に移換のまさにその時、○○ショックが起こり、マーケットが大きく下落したとしましょう。あなたの投資信託も影響を受け、結果的に転職前の残高より大きく目減りしたお金がiDeCoに移換されてくることになります。

実際、「移換時には必ず現金化される」ことを知らずに「資金が目減りした」という方も少なくありません。現金化されるのは制度上仕方がないことですが、自己防衛としては転職を考え始めた時には自分自身のタイミングで投資信託などを売却し、定期預金など元本確保型に資金をスイッチングしておくことが考えられます。これにより、釈然としないまま資産が売却されて目減りするということは避けられます。

すでにiDeCo口座を併用で持っていた方は、運営管理機関に企業型DCからの資産移換を希望する旨を伝えれば手続きが行われます。資金移動には少し時間がかかりますので、入金を確認したら、あらためてどの商品で運用をするのかスイッチングしていきます。ある程度まとまったお金が移換される場合は、一気に投資信託を購入するのではなく、スイッチングを数回行って買い付けを実行する時間分散が有効です。

新たにiDeCo口座を作る場合、次の勤め先から事業主証明書をもらわなければ口座開設が終了しないので、求職期間中が長引く場合はいったん第1号被保険者としてiDeCo口座を開設し、資金を移換するという事も検討に値します。その後、就職が決まればまた第2号被保険者への変更手続きをします。

あるいは、微妙なタイミングで6ヵ月が経過してしまった場合、就職先から事業主証明をもらった上で、運営管理機関に以前の企業型DCが自動移換されている旨を伝えるとiDeCoに資金が移換されてきますから、焦らずに適切な手続きを行いましょう。

これまでの改善の歩み

避けるべき自動移換ですが、2017年のiDeCo大改正後は、iDeCoの加入資格対象者が拡大したことによって、自動移換は自分自身が適切な手続きを知っていれば、陥らなくても済む落とし穴になりました。

というのも、以前は第3号被保険者には加入資格がありませんでした。従って、iDeCo(当時はこのニックネームもついていませんでしたが)に資産を移換したとしても、加入資格がないため積み立てを継続することができず、運用指図者にしかなれませんでした。するとそこにモチベーションを感じず、そのまま放置した人も少なくありませんでした。

また転職を繰り返すと、企業型DCからiDeCo、iDeCoから企業型DCと移換を繰り返さなければならず、それが面倒といつしか放置という人もいました。当時は企業型DCとiDeCoの併用加入が認められなかったので、そうならざるを得ない環境でした。2017年になり、企業型DCに加入しながらiDeCoの口座を持ち続けることができるようになりましたが、2022年の9月までは、原則加入が認められなかったので、やはり運用指図者にしかなれなかったので、iDeCo併用加入が認められるようになったという改正はとてもメリットが大きいのです。

さらに、企業型DCもiDeCoも含め加入者データをとりまとめている記録関連機関も「名寄せ」といって、自動移換者データと新規加入者のデータを突合する作業をしています。例えば、かつて自動移換された資産を持ちながら、転職先で企業型DCの加入者になったとか、自動移換された自覚もないままiDeCoに新規加入をした人が対象です。日本には記録関連機関が4社しかないので、そこが協力しあって自動移換者が1人でも自分の資産を受け取れるようにと努力してくれているのです。

企業型DCの場合は「会社の制度」であるがゆえに、自分が確定拠出年金に加入しているということをあまり自覚していなかったり、せっかく会社で有利な制度があるのに無関心だったりという方も少なくありません。もちろん転職時は何かと忙しく、企業型DCの手続きにまで手が回らないということもあるでしょう。けれども自分のお金です。やはりしっかり自覚を持って適切な対応をしましょう。

また、もしDC難民になっている方がいれば、今からでも遅くはありませんから、ぜひ手続きをしてください。自動移換については、特定運営管理機関という窓口があり詳細が記載されたウェブサイトもありますし、コールセンターもあります。

【自動移換者専用コールセンター】
03-5958-3736 ※平日 9:00~17:30

確定拠出年金は制度上、まだまだ改善が望まれるところも多々ありますが、「転職」をデメリットにしないためには、自分自身で「現金化」に備えることと、「自動移換」されない手続きを行う、この2点が重要ポイントとなります。

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