飼料高騰が酪農家を直撃 経営努力ではどうにも…円安で拍車

価格が高騰している配合飼料を手にする森さん=11月上旬、那須塩原市青木

 牛の餌の価格が高騰し、栃木県内の酪農家が苦境に陥っている。新型コロナウイルス禍に端を発する物流の混乱やロシアのウクライナ侵攻、急速に進んだ円安が複合的に価格を押し上げているためだ。生乳の販売価格引き上げでは到底埋まらず、「経営努力ではどうにもならない」と廃業を検討する農家も出るほどの事態となっている。県などが緊急支援に乗り出しているが、窮地の出口は見えない。

 生乳生産量全国2位の栃木県を支える酪農産地、那須塩原市。「尋常ではない上げ幅」。同市青木の酪農家森弘一(もりこういち)さん(47)は牛舎でうなだれた。120頭を飼う。「夏から毎月赤字。多いときで月100万円ですよ」。

 価格高騰の影響が大きいのは、イネ科の植物などを乾燥させた粗飼料とトウモロコシなど穀物を含む配合飼料だ。コロナ禍以前の2019年秋と比べ、いずれも約1.7倍に上がった。

 飼料を販売する「雪印種苗」(札幌市)によると、中国などによる穀物類の大量買い付けに加え、コロナ禍により海運など物流が安定せず、20年秋から値上げ基調となった。

 ウクライナ侵攻で穀物類の供給が一層乱れ、急激な円安が値上げに拍車を掛けた。同社は「経験のない深刻な事態。価格を下げられる見通しは立てにくい」としている。

 那須塩原市青木、小針勤(こばりつとむ)さん(48)、和泉正行(わいずみまさゆき)さん(40)も経営は危機的だ。小針さんは「えさ代だけで1日8万5千円も増えた」と嘆く。11月には乳業メーカーへの生乳販売価格が1キロ当たり10円上がったが、和泉さんは「とても賄いきれないほどのコスト増だ。廃業を考える農家もいる」と明かす。

 那須町豊原丙の斎藤章(さいとうあきら)さん(60)は「非常に厳しい状況に耐えていくために、酪農家同士で精神的なつらさを共有していくことも必要になる」とする。

 県は6、8月の補正予算で、計9億7千万円を飼料代の補助など緊急支援に当てた。那須塩原市も農家1戸あたり最大10万円を支援しているが、効果は限定的で市の担当者は「市町レベルの支援で解決できる規模を超えている」と指摘した。

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