走行距離課税やNISA拡充が検討されている「税制調査会」とは?税金の法律が変わるプロセスを税理士が解説

2023年度に向けた税制改正の議論が国会で本格化してきている、というニュースを聞いて「最近、走行距離課税とかが話題になったけど、新しい税金のことはよくわかりません」という方もいるでしょう。

税金の法律は、さまざまなプロセスを経て変わっていきます。まだ決まったものでも、いますぐ変わるものでもないのです。今回は税金の法律が変わるプロセスについて、お笑い芸人で本物の税理士、税理士りーなが解説していきます。


税制改正の流れ

税金の制度・法律は毎年変化しています。税金の制度改正のことを「税制改正」と言って、経済社会の変化に対応するために毎年行われているのです。

この法律改正は「税負担の公平性を維持」するために、毎年行われるものとされています。税金はみんなに公平に負担してもらうものでなければいけないから、不公平がないように、経済や社会の状況、国際情勢など環境の変化に合わせて変えていこうね、ということです。毎年変えていくものですが、内閣が勝手に変えるものではありません。

まずは毎年8月ごろ、業界団体などから集めた意見を各府省庁が「要望」としてまとめ、財務省と総務省に提出します。これは財務省が国税を、総務省が地方税を所管しているためです。

その内容を踏まえながら、「税制調査会」というところで12月頃までに、どうやって変えていこうかという話し合いが行われます。この「税制調査会」は「政府」の税制調査会と、各党の税制調査会があり、なかでも「与党」の税制調査会が中心となって、税の法律をどのように変えるかを決めていきます。

まず「政府」の税制調査会は、要望が出る前、4月ごろから外部の有識者などのヒアリングなどを定期的に進めながら、中期・長期的にどのような改正が必要かということを議論します。この政府税制調査会は、30人以内の専門家によって編成されていて、メンバーを見ると大学教授の方が多いようです。

専門家を中心とした政府の税制調査会の見解と、各界から集めた要望を踏まえて、与党(自民党と公明党)の税制調査会メンバーにより、法律の立案が進められます。これがちょうど10〜11月になるため、このタイミングで「走行距離課税」などが話題にあがっているということです。

税制改正大綱とは

なお、現在のように与党の政党が2つある場合は、双方の意見を擦り合わせる「与党税制協議会」があるそうです。この与党税制調査会で、今年の税制改正はこんな風にしよう、というのがある程度決まり「与党税制改正大綱」というのが作られます。「大綱(たいこう)」とは、事柄の根本となる骨組み、つまり、法律の改正の元となる骨組みを作るということです。「おおづな」と読んでた、ですって?

与党税制調査会が作った「与党税制改正大綱」を踏まえて、与党が作った「税制改正の大綱」が閣議に出されます。閣議で決定した「税制改正の大綱」にをもとに、国税の改正法案については財務省が、地方税の改正法案については総務省が作成し、通常国会に提出されます。

国会では、衆議院と参議院のうち、まず先に改正法案が提出された議院において審議され、本会議に提出された後に両方の議院で可決されれば成立となります。この衆議院と参議院の審議は、それぞれ衆議院なら「財務金融委員会」、参議院なら「財政金融委員会」または各議院の総務委員会で審議をされてから、各本会議にかけられます。一方の議院で可決され、もう一方の議院でも同様に可決されると、改正法案は成立し施行されることになるのです。

例えば2022年度の税制改正大綱に基づいて作成された「所得税法等の一部を改正する法律案」は、2022年1月25日(火)に国会に提出され、3月22日(火)に成立、3月31日(木)に公布されました。早いものは翌日の4月1日(金)から施行されました。

なお、2023年度の税制改正要望では、下記などが出されています。

NISAの抜本的拡充等(金融庁)

生命保険料控除制度の拡充(金融庁)

自動車関係諸税の課税のあり方の検討(国土交通省)

詳細や他の要望を知りたい方は財務省「令和5年度税制改正要望」、ならびに総務省「令和5年度 税制改正要望」をご覧ください。

走行距離課税が話題になった背景

冒頭の走行距離課税は、この「自動車関係諸税の課税のあり方の検討(国土交通省)」の議論の中で、10月26日(水)に開催された政府税制調査会の総会で発言があったようです。まだ議事録が公開されていませんが、内容としてはこのままでは自動車関連の税収減少が続き、道路の維持費が確保できないとして、自動車の利用に対して課税することで、税収を確保しようというものです。以前からこれについて着手が必要との意見もあったようですが、議員からSNS拡散があったことなどもあり、今回大きく話題にとりあげられました。

自動車税はこれまで、排気量に応じた課税を行ってきました。このため、排気量の少ないハイブリッド車や電気自動車(EV)が普及することで、現在の税制では自動車関連の税がこの先どんどん減少することが明らかなのです。また、燃費性能の向上などでガソリン税についても減収が続くことが予測され、若い世代の自動車離れも手伝って、道路の維持費を賄うことができない、という危機感があるのです。

このため、車の「保有」に対して課税してきた自動車税の代わりに、「利用」に対して課税してはどうか、という案があがったということです。「利用」つまり、走行距離に応じた課税も検討が必要であるというものです。

しかし、交通網が十分整備されていない地方の負担が大きくなることが明らかな上、運送コストに上乗せされることですべての物流の影響するため、さらなる物価高となる懸念もあり、多方面から反発が大きいのです。

この「走行距離課税」についても、もし本格的な検討が始まると、今回解説したプロセスを経て法律となっていくレールに乗せられることになります。一部の方の負担だけが増えて「なんて……嘆かわしい!」という事態にならないよう、公平性の確保の理念に基づいて十分な議論がされ、より良い制度になることを願います。

税制改正は、私たちの生活に大きく影響するので、今後どう動いていくのか、その動向に注目していきましょう。

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