【記者解説】敵基地攻撃能力、増税提起…防衛力強化に前のめり 有識者会議報告書

 政府が設置した「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」がまとめた報告書は、防衛力強化に前のめりな内容となった。国民的議論が尽くされたとは言えず、政府が有識者会議の報告書のみをよりどころに、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や増税にまい進すれば、拙速との批判は免れない。

 有識者会議が開かれたのは4回にとどまり、発足から報告書の提出までにわずか2カ月足らずだった。安全保障政策の根幹に関連し、国民の間でも意見が分かれるはずの反撃能力の保有について異論が出なかったというのは不自然だ。政府は、保有に慎重な見方をする有識者も任命する必要があった。

 過去に米軍基地問題で政府が設置した有識者会議も同様に「結論ありき」や「追認機関」との批判を浴びてきた。今回も委員10人の選定が偏っており、結論ありきの会議となった可能性がある。

 さらに、沖縄を含む南西地域に関しては、現時点で民間利用に限定されている空港や港湾を自衛隊・海上保安庁も使えるように整備することが報告書に盛り込まれた。

 万が一、有事となった場合、自衛隊や海保が利用できる条件が整っている空港や港湾は攻撃対象となり得る。

 拙速な議論で安保政策を大きく転換させて防衛費を増大させれば、周辺国を刺激する恐れがあり、偶発的に衝突が起こる危険性も高めている。 (明真南斗)

© 株式会社琉球新報社