増えてる「梅毒」、マッチングアプリやSNSでの出会いが原因なの? 過去最多の1万人超えの性感染症、専門家に聞いてみた

梅毒の病原菌「梅毒トレポネーマ」の電子顕微鏡写真(国立感染症研究所提供)

 性的な接触でうつる性感染症「梅毒」。今年報告された感染者数が累計で1万人を超えました。現在の調査方法になった1999年以降、年間で1万人を超えたのは初めてです。10年ほど前から減少した年もありましたが全体的に増加傾向で、昨年も8千人弱と最多を更新していました。性風俗産業の利用者や従事者でなくても感染者は見つかっています。過去にはインバウンド(訪日客)による持ち込みによって広がっているとのうわさもありましたが、今は国内で感染の連鎖が起きているようです。マッチングアプリや交流サイト(SNS)の広がりで出会いの方法が変わってきたことも影響しているのではないかという見方もあります。どのようなリスクがあり、何に気を付ければ良いのでしょうか。専門家に聞いてみました。(共同通信=村川実由紀)

 ▽男性では20~50代、女性は20代

 梅毒とはどんな病気でしょうか。原因は梅毒トレポネーマという菌です。性器や口などの性的な接触でうつります。妊婦が感染すると、母子感染して生まれた子が先天梅毒になり、発育不全や難聴につながることがあります。感染しておよそ3週間の「1期」は陰部や口などに赤み、しこりやリンパ節の腫れなどの症状が出ることがあります。痛みがないことも多いそうです。そういった場合にも他の人に広げる恐れはあります。数週間~数カ月後の「2期」は赤い発疹などの症状が全身に広がるなどの症状が出ます。適切な治療を受けないと数年後に臓器に影響が出て、死に至る危険性があります。

梅毒「1期」の口の病変(日本性感染症学会提供)

 報告された感染者数は2013、14年は千人台でしたがだんだんと増えています。
 患者はどういった人に多いのでしょうか。国立感染症研究所が10月に公表した「感染症発生動向調査で届け出られた梅毒の概要」によると、東京や大阪など大都市圏を中心に季節を問わず感染者は報告されています。年齢別では男性は20~50代と幅広く、女性は20代が多くなっていました。
 異性間の接触があったケースの方が同性間よりも届け出数が多く、右肩上がりとなっています。性風俗産業との関連を聞いたところ、男性の利用歴のある人、女性の従事歴のある人はやや多いものの、利用歴や従事歴のない人でもかなりの数が見つかっていました。

 この年齢層が意味することははっきりとは分かっていません。神戸大学の重村克巳准教授(泌尿器科学)は「梅毒は昔の病気、同性間、一部の職業の人にだけというイメージがあったかもしれません。今は特定の人にだけ起こる病気ではありません。社会的な問題として捉える必要があります」と話しています。

 ▽海外からの流入説とSNS関与説

 社会的な背景について大きく2つの説があります。インバウンドから広がっているという「海外流入説」と「SNS(やマッチングアプリ)関与説」です。
 海外流入説は日本より有病率が高い国からの旅行者が性風俗産業を利用して感染が広がったのではないかというものです。ただ新型コロナウイルス感染症の流行で水際対策が強化されてからも増えています。もし過去にそういうことがあっても既に感染者が年間1万人以上見つかっている今は国内で感染の連鎖が起きているのは明らかで、対策を急ぐ必要があります。

梅毒「2期」の手の病変(日本性感染症学会提供)

 少し古いデータではありますが、海外からの流入よりSNS関与説の方が有力なのではないかとの分析結果もあります。利根中央病院(群馬県沼田市)の産婦人科の鈴木陽介医師らの研究で、2017年の都道府県別の感染者数と外国人旅行者数の関係性を調べたところ、海外流入説を支持する結果は得られませんでした。人口当たりの外国人旅行者が多かったのは北海道、東京、山梨、京都、沖縄でしたが、東京以外の感染者数は他の県と比べてあまり高くありませんでした。さらに在留外国人などについても調べましたが明確な関係性はみられませんでした。
 一方、分析でマッチングアプリの利用率が高い都道府県と人口当たりの梅毒の感染者数には関係性がみられました。他にもマッチングアプリの利用とリスクのある性行為や性感染症の経験の関係性を示唆する研究はあります。

利根中央病院産婦人科の鈴木陽介医師=11月7日(本人提供)

 直接的な因果関係があるかどうかまで証明できたわけではありません。ただ鈴木医師はマッチングアプリやSNSを含むさまざまな方法で新しい出会いがあり、性的な接触をする場合には「感染するリスクが上がることは間違いない」とみています。「ある程度、梅毒が広がってしまったので普通の性行為やそれに似た行為で気づかないうちにかかる可能性がある状況です」と注意喚起しています。

 ▽予防にはコンドームの適正な使用を

 もし感染が疑われる症状が出たり、血液検査で感染が確認されたりしたらどうなるのでしょうか。治療には抗菌薬が使われ、飲み薬や注射薬があります。早期の梅毒なら1回で済む注射薬も新たに使えるようになりました。早期に治療すればほとんどの人が治りますが、例えば飲み薬は検査をして問題がないと判断されるまで数週間飲み続ける必要があります。途中で勝手に薬をやめたり、放置したりすると危険です。再発を繰り返す人もいます。

神戸大学の重村克巳准教授=11月4日

 予防にはコンドームの適切な使用が有効です。鈴木医師はかからないのが一番としつつ、「梅毒に限らず、性感染症への罹患の不安を感じたら、検査キットを使ってもよいので調べましょう。症状がある、相手が診断された場合は医療機関を受診しましょう」と呼びかけています。

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