太平洋戦争末期の「近海丸」事故 絵巻物と朗読で伝える 長崎市立三重小の保護者ら

式見ふるさと祭りで披露された絵巻物=長崎市、旧市立式見中

 太平洋戦争末期、長崎市小江町沖で渡海船「近海丸」が沈没し、273人が犠牲になった事故。市立三重小などの保護者らが、9年前に同校の児童が事故を題材につくった絵巻物を朗読で伝える活動に取り組んでいる。
 「近海丸」(26トン)は1944年12月24日午後1時ごろ、三重から式見を経由し、大波止に向かう途中で沈没。定員の約4倍にのぼる338人と食料などの荷物を載せており、荒波を受けて転覆したとされている。乗客の約8割が犠牲になった大事故にもかかわらず、記録や資料が少なく、広く知られていなかった。
 2013年、同校の教諭が校内の二宮金次郎像の土台部分に漢文が書かれているのを発見。児童や同僚などと解読し、地域の人から話を聞くなどして事故のあらましを把握。受け持つ3年1組の児童23人と絵巻物にまとめた。

9年前に三重小の児童が描いた絵巻物の一場面(渡部さん提供)

 絵巻物は、当時の三重村の様子や沈没の瞬間などを描いた六つの構図に分かれており、それぞれ幅2.4メートル、高さ1.6メートル。絵は、児童が物語の状況を想像し、地域の石やれんが、すみを粉にして溶いたもので和紙に描いた。その年の11月、学習発表会で上演したが、以降、絵巻物は三重小に保管されたままだった。
 OBや民生委員、保護者らでつくる「三重小・畝刈小図書ボランティアグループ」は20年、地域の公民館まつりで絵巻物を使った読み聞かせを披露した。より物語に入ってもらえるよう、オリジナルの伴奏を付け物語に厚みを持たせた。
 現在は、三重小の高学年の児童を対象に毎年読み聞かせが行われ、公民館の講座などでも上演されている。さらに、今月3日に開かれた「式見ふるさと祭り」では同事故で約100人が犠牲になった式見地区で初めて披露。活動は広がりを見せている。
 同グループの中心メンバーの渡部絵美さん(42)は、次男木蓮さん(17)が当時、絵巻物の製作に関わった。「(絵巻物は)9年たっても使えるくらい丈夫で、地域の宝物。朗読活動を通して、地元の悲しい歴史を伝えることに加え、児童や保護者と地域のつなぎ目にもなれたら」と語った。
 26日に学校関係者らで開く三重小の150周年記念式典では、6年生が絵巻物を使って発表する。また、二宮金次郎像を地域の寄付でグラウンドを見渡せる場所に移転。事故で亡くなった三重小の児童15人などを追悼する。


© 株式会社長崎新聞社