北朝鮮の核ミサイル開発財源は暗号資産窃取

朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・大量のミサイル発射の財源調達は北朝鮮サイバー部隊による暗号通貨へのハッキングと韓国従北朝鮮勢力による支援が主。

・法律や制度、人材不足によって韓国の仮想通貨取引所が対北朝鮮制裁を回避するマネーロンダリングの温床となっている。

・米FBI長官は北朝鮮のサイバー犯罪捜査を世界規模で行うと強調。

11月18日午前10時15分ごろ、北朝鮮は平壌順安(ピョンヤン・スナン)一帯から火星17と見られる長距離弾道ミサイル(ICBM) 1発を発射した。飛行距離は約1000キロメートル、高度は約6000キロメートル、速度は約マッハ22であることが探知された。北海道西南側の無人島、渡島大島西側約200キロ付近の排他的経済水域(EEZ)内に落下(着弾)した。

北朝鮮の各種ミサイル・ロケット砲発射は、9月25日から11月18日までに60発以上にのぼり、今年発射したミサイルの約6割を占めた。この間のミサイル発射は、明らかにこれまでの発射とは異なる様相を呈しているが、これは今年に入って策定された北朝鮮の軍事戦略先鋭化が関係している。

またこの例のない大量のミサイル発射の財源調達についても米韓の捜査当局によって解明されつつある。北朝鮮サイバー部隊による暗号通貨へのハッキングと韓国従北朝鮮勢力による支援が主要財源だという。ハッキングで北朝鮮が全世界から盗んで洗浄した疑いのあるドル資金は150億ドル以上と推定されている。

〇北朝鮮、暗号資産窃取で核ミサイル資金30%を充当

アン・ニューバーガー米国家安全保障担当副補佐官(サイバー・先端技術担当)は11月17日(現地時間)、「北朝鮮がミサイルなど悪意のあるプログラム(開発)資金の約30%をサイバー攻撃で充当していると見ている」とし、「これに対応して我々は同盟国と情報協力を強化し、暗号資産インフラを活用した違法な資金の移動を困難にするよう力を入れている」と強調した。

これに先立ち、ブロックチェーンデータの分析サービスを手がける米チェイナリシスは8月に報告書で、ラザルスなど北朝鮮のハッカー集団が今年だけで10億ドル規模の暗号資産を窃取したと分析した。米連邦捜査局(FBI)も、ラザルスが今年3月にブロックチェーンのNFTゲーム「アクシー・インフィニティ」をハッキングし、当時の価格で5億4千万ドルの暗号資産を窃取したと明らかにした。

韓国外交部の金健(キム・ゴン)韓半島平和交渉本部長も11月17日、北朝鮮の暗号資産窃取への対応を話し合う韓米官民シンポジウムで、「北朝鮮が今年上半期に31発の弾道ミサイル発射に4億~6億5千万ドルを使ったと推定している」とし、「北朝鮮は3月の1件のハッキングで上半期の弾道ミサイル費用を得ただろう」と指摘した(東亜日報2022・11・19)。

〇ランサムウェアなどによる北朝鮮の資金調達

11月15日(現地時間)、アレハンドロ・マヨルカス米国土安全保障長官は、連邦下院国土安保委員会開催の「米国に対する世界全域の脅威聴聞会」に提出した書面証言で、「北朝鮮は、ランサムウェア(ransomware)などを利用した暗号資産(仮想通貨)窃盗を通じて、この2年間だけで合計10億ドル(約1395億円)以上稼ぎ、大量破壊兵器(WMD)計画の資金とした」と明らかにした。

ランサムウェア攻撃とは、PCに保存されているファイルを暗号化して開けなくした上で、ファイルを元に戻すことと引き換えに身代金(ransom)を要求するサイバー犯罪だ。北朝鮮は「ラザルス」と呼ばれるハッカー集団などを通じてこうした犯罪を露骨に行っている。

マヨルカス長官は同日、「バイデン米政権は発足以降、核・弾道ミサイル計画開発の資金源としての北朝鮮のサイバー活動に注目してきた」と述べ、「2020年にはランサム要求額が米国だけで14億ドル(約1960億円)を超えた」と語った。また、この行為者たちが「自由民主主義はもちろん世界の多くの経済安保・国の安保を脅かしている」と指摘した。

〇韓国の取引所はマネーロンダリングの温床

韓国に仮想資産取引業界を規制できる法律や制度が整っていない上、仮想資産を追跡する人材が不足し仮想資産追跡プログラムもないことから、韓国の仮想通貨取引所が対北朝鮮制裁を回避するマネーロンダリングの温床となっている。

韓国国会政務委員会に所属する与党、「国民の力」の尹漢洪(ユン・ハンホン)議員は10月12日、仮想資産取引分析業者である「チェイナリシス」に基礎調査を依頼して得た結果を朝鮮日報が明らかにした。

チェイナリシスは世界で仮想資産関連データを最も多く保有しているとされ、米国連邦捜査局(FBI)、欧州刑事警察機構(ユーロポール)などと協力しており、韓国も警察庁サイバー捜査局が2016年から協力関係を持っている。

尹議員によると、北朝鮮のハッカー集団の電子財布から仮想資産が韓国の取引所に流入し、その具体的な金額まで把握されたのは今回が初めてだという。流入は2018年から4年間で5246万ドル(約73億5000万円)相当と見られている。

尹議員の事務所は「基礎調査であり、確定的なものではないが、(規模が)拡大する可能性も排除できない」と話した。今年4月、韓国軍幹部がビットコインを受け取る見返りに軍事機密を漏えいしようとして摘発された事件もあり、今回の調査結果は「氷山の一角」にすぎない可能性もある。

尹議員はまた違法の疑いがある外国為替送金が約17兆ウォン(約1兆7300億円)あることも判明したと述べ、さらにタイで北朝鮮に仮想通貨が発行され、北朝鮮に流れるようにう回送金されたとの認識を示し、実態の究明を金融監督院に求めた。

尹議員は「文在寅政権では、違法な外貨送金、仮想資産関連の資金の流れを一切調査もせずに放置したため、こんな結果が出た」と指摘した(朝鮮日報2022/10/12 )。

〇米FBI長官、北のサイバー犯罪捜査を世界規模で行うと強調

最近クリストファー・レイFBI長官は下院国土安保委員会聴聞会で、北朝鮮のサイバー犯罪とスパイ活動が急増していると報告した。

レイ長官は、「最近中国、ロシア、イランに集中してきたために北朝鮮への監視がおろそかになった」と述べた上で、「最近北朝鮮は、ハッキングなどサイバー攻撃を通じて、資金調達活動はもちろん、米国と主要友好国に対してスパイ活動も大きく増加させている」と明らかにした。2019年にはサイバー攻撃で20億ドルを盗み、今年の4月にはオンラインゲームを通じて6億ドル相当の暗号貨幣を盗んで現金化したと指摘した。

レイ長官は、「北朝鮮は制裁によって資金確保が難しくなったことから、金融機関と暗号貨幣を集中的に攻撃して資金を調達しているが、この過程で外国人が米国のサイバー犯罪に関わるケースが出ている」とし、該当人物に関する捜査を活発に行っていると語った。そしてこうした犯罪者は引き渡してもらい米国で責任を追求すると強調した。

米国で裁判にかけられれば国籍に関係なく最高懲役20年の刑に処せられる。すでに暗号貨幣イーサリアム開発者バージル・グリフィスは、北朝鮮で暗号通貨の講演を行い犯罪に関わったとして懲役63ヶ月と罰金10万ドルを課せられ、現在刑務所に収監されている。

FBIと米ニューヨーク南部連邦検察庁によるイーサリアム開発者バージル・グリフィスへの捜査書類には、韓国前大統領の文在寅や現在「共に民主党」党首を務める李在明らの名前も上がっている。特に注目されているのが、李在明の裁判費用を肩代わりしたと言われている下着会社「サンバンウル」だ。

サンバンウルは、北朝鮮前統一戦線部部長の金英哲らへの賄賂など北朝鮮に大量の外貨を渡した事実があり現在捜査を受けているが、「仮想通貨発行」を通じた北朝鮮支援疑惑も指摘されている。利敵行為として国家保安法で処罰される可能性もある。

疑いを持たれている韓国前大統領の文在寅や現在「共に民主党」党首を務める李在明などは、犯罪の証拠が明確になれば韓国よりもよりきつい刑がある米国でも裁判を受けることになるだろう。

トップ写真:北朝鮮のミサイル発射に関するテレビ放送を視聴する人々。(2022年10月28日 韓国・ソウル)

出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images

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