<金口木舌>コザに生きる物語

 売れないロック歌手、夢と恋に破れた傷心の女、自暴自棄になり闇ポーカーに大金をつぎ込む女、闇社会と癒着する刑事。県内で先行上映が始まったコザ(沖縄市)を舞台にした映画「10ROOMS」に登場する主人公たちだ

▼くせが強い人物たちは、実は葛藤や心の傷、無力感を秘め、それでももがきながら生きている。「基地の門前街」として沖縄戦後史の矢面に立ってきたコザを舞台に光を放つ作品だ

▼プロデューサーの神山繁さんはコザで街づくりに長年携わってきた。「地域を発信する映画は当たり障りのない内容が多いが、コザが好きな人たちは失敗や葛藤が好き。街そのものが浮沈を経験してきた」と神山さん

▼作品は暴言やバイオレンスなシーンも飛び交うが、笑いや涙もあり疾走感のある展開。人の表も裏も、あらゆる個性も包み込んできたこの街に、しっくり来るのかもしれない

▼人物ストーリーを通し、沖縄、日本、米国の関係も静かに問い掛ける作品。強者との葛藤に悩みながら前に進もうとしてきた沖縄の姿もそこにある。

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