知りたい! ペンステ改装計画

パンデミックの収束とともに、ニューヨークにも本格的ににぎわいが戻ってきた。今週は30年越しのリニューアル計画で活気付くペンステーションに迫る。(取材・文/加藤麻美)


ウェストサイドの「へそ」

ペンステ、どう変わる?

ミッドタウンイーストの「へそ」はグランド・セントラル・ターミナル、ウェストの「へそ」に当たるのがペンシルベニアステーション(通称:ペンステーション)だ。

7番街と8番街、31丁目と33丁目に囲まれた一帯、マディソン・スクエア・ガーデンの地下とジェームズ・A・ファーレイ・ビル(旧郵政公社ビル)に広がる巨大なターミナル駅はパンデミック前の2019年時点で平日60万人以上が利用、西半球で最も交通量の多い駅として知られている。

21本の線路と11のプラットホーム、7本のトンネルでつながるペンステーションはニューヨーク市とボストン、フィラデルフィア、ワシントンDCおよびその中間地点を結ぶ全米鉄道旅客公社(アムトラック)のノースイーストコリダー線の中心に位置し、ロングアイランド鉄道(LIRR)とニュージャージートランジット(NJT)が運行。駅の構内からは地下鉄やバス、PATHトレインへの乗り換えもできる。

ペンステーションは、ペンシルベニア鉄道(1846〜1968年)がイースト・リバー・トンネルの開通に合わせて建造、今から1世紀以上前の1910年に開業した。「ボザール様式の傑作」とたたえられる華麗な駅舎だったが、同鉄道の経営悪化により63年に取り壊されてマディソン・スクエア・ガーデンの地下に移転。駅舎の取り壊しは国際的な物議を醸し、「ニューヨーク建築史上最大の汚点」と非難された。

ガラス天井のモイニハン・トレイン・ホール

リニューアル第一弾モイニハン・トレイン・ホール

ペンステーションのリニューアル計画は、故ダニエル・パトリック・モイニハン上院議員の発案により90年代から始動。うよ曲折を経てアンドリュー・クオモ前知事が受け継ぎ、2017年から実現にこぎ着けた。その第一弾として21年元旦に開業したのがペンステーションを拡張し隣接する旧郵政公社の建物を再開発した複合施設、モイニハン・トレイン・ホールだ。これは16億ドルを投入してアムトラックの線路を同ホールに移設したもので、LIRRやアムトラックの利用客はここから乗車する。前年12月には33丁目から同ホールへアクセスできる入口もオープンしている。

モイニハン・トレイン・ホールの総面積はペンステーションのコンコースを50%拡張した25万5000平方フィート。高さ92フィートのガラス屋根からはあふれんばかりの陽の光が差し込み、従来の薄暗く迷路のようなペンステーションとは対照的な雰囲気だ。設計はスキッドモア、オーイングス&メリル。惜しまれながら取り壊されたオリジナルのペンステーションへのオマージュともいえる見事な出来栄えである。

ベンステーション完成予想図

新駅はガラスの天井
地上1階建て

クオモ前知事の辞任に伴いキャシー・ホークル知事が昨年11月に新たに発表した計画は、前知事が21年4月に発表したエンパイア・ステーション・コンプレックス案を修正し、現在のペンステーションを総面積25万平方フィートの1階建ての施設に置き換えるというもの。これにより移動がよりスムーズになり乗客の動線に余裕が生まれる。

トレインホールには、先にオープンしたモイニハン・トレイン・ホール同様ガラス製の天井を採用し、現在のペンステーションとは打って変わった明るくモダンな雰囲気を演出。総面積はモイニハン・トレイン・ホールとグランド・セントラル・ターミナルのメインコンコースを合わせた大きさになる。

新駅では小売店などのアメニティーも充実させ、チケットや待合室、乗客の情報システムも統一。また、プラットホームにつながるエレベーターを11基、エスカレーターを18基増設し、駅の出入り口も従来の12カ所から20カ所に増やす計画で、地下鉄34ストリート/ヘラルドスクエア駅との地下接続も実現する。

モイニハン・フード・ホールで駅食べを堪能しよう!

ランチタイムや仕事帰りに楽しめる店を一挙にご紹介。


横浜家系ラーメンの有名店
E. A. K. ラーメン
E.A.K. Ramen

モイニハン・フード・ホール店で提供しているメニュー全品。麺類は紙の丼を使用。持ち帰りしたい場合は、生麺とスープ、具材を分けて包んでくれる

1970年代に横浜で生まれた豚骨しょうゆベースと中太麺を特徴とする横浜家系ラーメンを世界展開する町田商店のニューヨーク3号店。ほどよいコッテリ感と食べ飽きない味を求める客で、11月上旬のプレオープン時から週末には行列ができるほどの人気。麺は場所柄、よりスピーディーに提供するために3号店用に開発したオリジナルの中細麺を使用している。ラーメンは定番のしょうゆ(13ドル80セント)、みそ(オー・ソー・ホット、15ドル80セント)、ベジ(グリーンハウスしょうゆ、16ドル80セント)、塩(ゼブラ、14ドル80セント)、中華そば(東京チキン、15ドル80セント)、まぜ麺(15ドル80セント)の6種類。煮卵やメンマなど追加のトッピングは10種類。味の濃さやスープの脂の量、麺のゆで加減の注文にも応じている。他に鶏の唐揚げやイカゲソ揚げなどのおつまみ7種類。チャーハンやタイガーシュリンプを丸ごと挟んだ、えびバンズもおすすめ。

市内にあるE. A. K. ラーメン3店を統括する角田清幸さん。「誰が食べてもおいしいと感じていただける日本の味をしっかり再現しています」

eakramen.com


チョプト
Chopt Creative Salad Company

好みに合わせてサラダやボウルが注文できるサラダ専門店。玄米やカリフラワーライスにチキンと野菜を組み合わせた温かいボウルやコブサラダやシーザーサラダなどのチョプトクラシック、カロリー控えめのライトなどのレディメイドは14種類。ドレッシングは27種類。
choptsalad.com


H&H ベーグルズ
H&H Bagels

1972年創業の老舗。ブロードウェーと80丁目にあった24時間営業の第1号店は「行列のできるベーグル屋」として有名に。「ユー・ガット・メール」「サインフェルド」「セックス・アンド・ザ・シティ」など数え切れないほどのテレビドラマや映画にも登場している。甘めのドゥが特徴。
hhbagels.com


アリドロ
Alidoro

1986年、ソーホーで創業したイタリアンサンドイッチの専門店。生ハムやサラミ、モッツァレラチーズなどを使ったサンドイッチは10種類。お持ち帰りにはイタリア風ドーナツのボンボローニを。イタリア家庭の朝の定番、ヌテラ入りのカプチーノをぜひ試してみて。
alidoronyc.com


バーガージョイント
Burger Joint

2002年に旧ルパーカーメリディアン(現トンプソンセントラルパーク)の「シークレットスポット」として大人気となったバーガーショップ。USDA認定のプライムアンガスビーフを毎日精肉、ハンドプレスで仕上げたパティーが自慢。ドラフトビールやワインもある。
burgerjointny.com


ザ・バー・アット・モイニハン
The Bar at Moynihan

フードホールの中心に位置する70席のバー。フードホール内の店でテイクアウトしたバーガーやサンドイッチもカウンターで食べられる。ドラフトビールが9ドル、カクテルが14ドルとこのかいわいのバーにしては良心的。水・木曜はDJが、金曜の午後2時からは生演奏が入る。
moynihanbar.com


デイビーズアイスクリーム
Davey’s Ice Cream

2013年、ブルックリン発祥のアイスクリーム店。ニューヨーク州の酪農家から仕入れた生乳のみを使用。地元フードブランドとのコラボ企画にも積極的で、グルメコーヒー店のバーチコーヒーを使ったフレーバー「ストロングコーヒー」が話題になった。フレーバーは10種類。
daveysicecream.com

ナヤ
Naya: Middle Eastern Counter & Grill

シャワルマ(羊肉や鶏肉を金属製の串に突き刺し回転させて焼いた肉料理)やファラフェルといった中東のファストフードを提供。3種類(ロール、ボウル、サラダ)の中から好きな食べ方を選んで、肉またはファラフェルとフムスなどのトッピングを選ぶ。
eatnaya.com


マグノリアベーカリー
Magnolia Bakery

テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」に登場して一躍有名になったカップケーキの店。日本人には若干甘すぎるが、なぜかリピートしたくなる味。イチオシはクリームバニラプディングにバナナとワッフルを混ぜ込んだクラシック・バナナ・プディング。
magnoliabakery.com


ママン
Maman

2014年にソーホーでオープンしたフレンチベーカリー。南仏とニューイングランド地方を感じさせるインテリアが特徴。現在はチェーンで24店舗を展開。ペストリー、キッシュ、サラダ、スープ、サンドイッチなど。ポーションが少なめのキッズメニューもある。
mamannyc.com


ジェイコブズピクルス
Jacob’s Pickles

ピクルスに合うファストフード(フライドチキン、マック&チーズ)とクラフトビール、ソフトクリーム(ビーガン)を提供。キッチンで毎日焼き上げるビスケットにフライドチキンを挟んだ南部風サンドイッチが有名。シグネチャーのピクルスも販売(11月10日取材時は開店準備中)。
jacobs.picklehospitality.com


グルメショップ

●ベスビオ
Vesuvio
イタリアンベーカリー

vesuvio-bakery.com


●ソースピッツエリア
Sauce Pizzeria
ピザ

saucepizzeria.com


●バーチコーヒー
Birch Coffee
グルメコーヒー

birchcoffee.com


●スリーズブリューイング
Threes Brewing
クラフトビール

threesbrewing.com


●プレスドジューサリー
Pressed Juicery
フレッシュジュース
pressed.com


●ブルーボトルコーヒー
Blue Bottle Coffee
グルメコーヒー
bluebottlecoffee.com


詳細はサイトをチェック!
moynihantrainhall.nyc

●ヨーヨースシ
Yo Yo Sushi
すし
yosushi.com

●パストラミクイーン
Pastrami Queen
パストラミサンドイッチ
pastramiqueen.com

●ラ・エスキーナ
La Esquina
メキシカン
esquinanyc.com


意外と知らない⁉ ペンステとグラセンの隠れた物語

アテネのアクロポリスやバチカンのサンピエトロ広場などのローマ建築から想起して設計されたというオリジナルのペンステーション(以下、ペンステ)は、世界最大の公共施設として、また到着と出発の待合室を別々にした世界初の駅の1つとして1910年に誕生。威風堂々としたボザール様式の駅舎は経済都市として急成長するニューヨークを象徴する華々しい存在だった。

オリジナルのペンステーション

第二次世界大戦が終わり旅客輸送量が激減するとペンシルベニア鉄道は経営悪化と老朽化が進む駅舎の維持不能を理由に54年、ペンステの航空権を不動産開発業者に譲渡。一般市民や建築家、ニューヨークタイムズなどが大規模な取り壊し反対キャンペーンを展開したが63年、無残にも取り壊され、その5年後に迷路のような地下に移転した。これが現在のペンステである。第2のペンステについてエール大学の建築史家ビンセント・スカリーは「新しい駅は屈辱的で困惑させられる。一方は神のように街に入り、もう一方はネズミのようにこそこそと入ってくる」とオリジナルのペンステと比較してこき下ろした。この出来事への反省が契機となってニューヨーク市は65年、建築、歴史、文化的に重要な建物や場所をランドマークや歴史地区に指定し保護するランドマーク法を制定、3年前から組織されていたランドマーク保存委員会(LPC)に強力な権限を与えた。

ちょうどその頃、グランド・セントラル・ターミナル(以下、グラセン)も危機にひんしていた。ランドマーク法制定の3年後、破産に直面した親会社ニューヨークセントラルはペンシルベニア鉄道と合併し、ペンセントラル鉄道を設立。新会社はペンシルベニア鉄道が初代ペンステで行ったようにグラセンを取り壊して高層ビルに建て替えることを提案したが、67年にグラセンを市のランドマークに指定したLPCはこの計画の検討を拒否。75年にメインコンコースを取り壊して55階建てオフィスタワーを建築する計画が再び浮上した際もジャックリーヌ・ケネディ・オナシスをはじめとした著名人、一般市民を巻き込んだ取り壊し反対の一大キャンペーンが繰り広げられた。78年、米最高裁は再開発計画を禁止。メトロポリタン交通局(MTA)によって95年から始まった段階的なリニューアル計画を経てグラセンは見事に再生。ペンステが救ったグラセンは来年、建造110周年を迎える。

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