新大工町ファンスクエア誕生・『市場』 「市民の台所」時代に合わせ進化

ジョイフルサンが導入した会計システム。買い物カートにスマホを置き、商品をスキャンする。レジ待ち時間を短縮できる=長崎市、新大工町ファンスクエア

 新複合施設「新大工町ファンスクエア」1階の「新大工町市場」のルーツは、戦後の食糧不足を背景に長崎市が1949年に開いた公設市場にある。63年、地元の協同組合が払い下げを受けた。その後、老朽化した施設の再建を検討していたところ、長崎進出を模索していた佐世保玉屋と目的が一致。新築したビルは百貨店と市場が同居する特異な形態となった。長崎玉屋がいったん閉店した後も、同市場は2017年まで営業を続け、約70年にわたり住民の食卓を支えた。
 5年ぶりに再開した同市場。「市民の台所」としての原点を保ちつつ、時代に合わせて進化した。
 フロアの約半分を占めるのはスーパー「ジョイフルサン」。長崎市と近郊で12店舗を展開するジョイフルサンアルファ(同市)の長信一治社長(47)は「10年後、20年後を見据えた次世代型店舗」と位置付ける。最新のデジタル技術を導入。スマートフォンで買い物と同時進行で会計ができるほか、顔認証で来店ポイントを付与する。長信氏は「今はネット通販でどこでも物を買える時代。リアルの店舗にはエンターテインメント性が求められる」。
 既存のジョイフルサン新大工店(来年5月閉店)は「お客さまとの距離が近い」(長信氏)地域密着を強みとする一方、来客専用駐車場がなかった。新店舗は、地下と国道向かいのビルを合わせて約150台分を確保した。上階のマンション住民に加え、遠方客も取り込む構え。高価格帯「成城石井」ブランドなどで客層の拡大を図り、既存店の1.5倍程度の集客を見込む。
 フロアのもう半分は「味彩横丁」の愛称で12のテナントが並ぶ。創業95年で公設時代から店を構えてきた「川虎かまぼこ」の川口浩平社長(46)は「初めて出店した場所なので思い入れがあった。絶対戻ろうと思っていた」。ちくわを焼き上げる機械を客に見えるよう設置。かつて実演販売をしていた時期があり、「焼きたてがおいしかった」と懐かしむ声に応えた。「昔を思い出してくれるとうれしい。当時を知らない若い人も温かいうちに味わって」
 カフェ・洋菓子「アントノアール」の店内も、調理場の仕切りを低くし、喫茶スペースから見えるようにした。オーナーシェフの萩田実氏(55)は「ライブ感を演出し、お客さまと作り手の距離が近い店にしたい」と話す。
 味彩横丁のテナント会長も務める萩田氏は、今後について「横のつながりを密にして、1階エリア全体で人を呼べるようにしないといけない」と、テナント同士で協力し、集客力や回遊性を高める仕掛けの必要性を意識している。


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