【考・九州男児】「クッキングパパ」作者うえやまさんが語る

 大きな顎が印象的なこわもてで、寡黙。福岡・博多が舞台の人気料理漫画「クッキングパパ」の主人公、荒岩一味(かずみ)の印象は九州男児そのものだろうか。だが、家族のため、毎日料理を作る姿は正反対のイメージ。作者のうえやまとちさん(68)=福岡県福津市=は、どのような思いで主人公を描いてきたのか―。

 連載開始は1985年。家事や育児に取り組む男性は少数派だった。「家事をやる男はダサいと言われるが、かっこいい」。そんな先を行く発想から生まれた荒岩は、家事や育児に励み子どもにも優しい父親。「見てくれだけ九州男児」のイメージだったという。

 日常的に家庭や職場で料理の腕を振るうストーリーに、連載前は当時の編集者から「単身赴任や妻の病気という設定が自然では」との提案も。「男が毎日料理するのに、理由がいる時代だった」と振り返る。

 「妻が作った」「買ってきた」と隠していた荒岩が、周囲に料理することを明かしたのは、なんと連載開始から10年ほどたってから。「90年代後半になり、社会の空気が変わった」という直感があった。

 作品初期には、アンケートで上位だったイメージ通りの「九州男児キャラ」も登場する。多忙な新聞記者で家事が苦手な妻虹子の父だ。手際よく夕飯を用意する荒岩に驚き、ぼやく。 「男は台所ばウロチョロせんと言われとったばってんがの。そんかわり女は育児炊事洗濯…家庭ばしっかり守るとが常識やったたい」

 午後8時に飲み会から帰宅した虹子に「いくら仕事とは言え、女が酔っぱらって帰ってくるとはなにごとかっ」と激怒。実際に女性読者からも手紙が届いた。「酔っぱらって旦那より遅く帰るなんて、ひどい」。「男は良くても女はだめ。女性でもそう考える人が多かった」と語る。

 そんな義父に、荒岩は語る。「お義父さんの時にはそれが一番お互いの力を出せたんですよ」「今、わが家はそんな意味でこれが一番いい型なんです」

 いろいろな家庭の形があっていい―。ずっと変わらないメッセージだ。作中で「男性も料理すべきだ」とは表現せず、家事や育児のポジティブな面から読者の背中を押そうとしてきた。

 うえやまさんに九州男児のイメージを聞くと「がんこだけど、優しくてかあちゃんを大事にしている人がほとんど」。夜は「飯、風呂、寝る」という昔ながらの九州男児でも、「その家庭が良いなら、それで良い」と、うえやまさんと荒岩が重なる。

 一方で家事育児への不参加は、地域性より育ち方を要因に挙げる。家事の一切を母親が担う家庭で育ち、自立する経験もなく結婚したら…。「奥さんがしてくれて当然と思ってしまうのでは」。両親と一時別居したことから家事をするようになった高校時代を振り返る。それは当然、九州に限ったことではないはずだ。

 作中で「九州男児」の言葉は使ったことがないうえやまさんだが「荒岩こそ九州男児なのかも」。163巻まで続く人気漫画が先取りした、新たな九州男児像。定着する日は来るのだろうか。

(西日本新聞・黒田加那)

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