「勝ちにいく」新たな目標と挑むHonda R&D ChallengeのFL5型タイプR。30周年の記念日に決勝へ

 11月26〜27日に三重県の鈴鹿サーキットで開催されるENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook 第7戦『SUZUKA S耐』。今季最終戦ということもあり、チャンピオン争いに焦点が集まるレースだが、一方で注目のニューマシンもデビューする。ST-2クラスに参戦するHonda R&D Challengeが投入する新型ホンダ・シビック・タイプR『Honda R&D Challenge FL5』だ。

 Honda R&D Challengeは、本田技術研究所と本田技研工業の従業員有志で立ち上げられた自己啓発チームだ。モータースポーツに関心をもつ有志が集まり、“ヒトづくり、クルマづくり、モータースポーツの発展”へ貢献することを目指している。

 そんなチームは2019年にスーパー耐久への挑戦を開始したが、もともと会社のサポートがないまま、年に一度のスポット参戦というかたちで活動が続けられてきた。しかし2021年は6戦中4戦の参戦を実現し、さらにドライバーも務める木立純一チーム代表、柿沼秀樹シビック・タイプR開発責任者が「この活動をやることが、ホンダに大切な将来の人材育成に繋がる」とアピール。本田技術研究所から認められてサポートを得られることになり、今季は初めてのフル参戦を実現した。

 それまで「正直に言えば、仕事ではないので甘えがあった。そんな雰囲気のなかで細々とやっていた(柿沼開発責任者)」活動が、会社からのバックアップを得たことで、「我々のコンセプトはこれだと掲げ、何に向かってやっていくかをメンバーに向けて発信していった」と活動のギアを上げ、毎月のように準備を進めながら戦ってきた。「今年はこの活動を始めて以来、いちばん激動のシーズンだった」という一年となった。

 こうして始まった2022年のHonda R&D Challengeの活動のなか、チームが新たにターゲットに掲げたのが、11月27日のスーパー耐久第7戦鈴鹿の決勝日だった。この日は、1992年11月27日にタイプRシリーズの初めてのモデルである、NSX-Rが発売されてから30周年にあたる記念日。ここに、FL5型新型シビック・タイプRをデビューさせようと計画したのだ。この計画は第5戦もてぎの際に、柿沼開発責任者から明らかにされた。

 とはいえ、Honda R&D Challengeは先述のとおり従業員有志の自己啓発チーム。仕事を終えた後にシーズンを戦っていたFK8シビック・タイプRの次のレースに向け準備しながら、FL5の車両製作を行うという苦労を経てのデビューとなった。第7戦に向け、「なんとか作り上げよう」と、実質4ヶ月で作り上げられた。

 こうして、もてぎでのシェイクダウンを経て迎えた第7戦では、予選日まで大きなトラブルもなく順調なすべり出しをみせた。さらに11月26日の予選では、Aドライバーの石垣博基が2分17秒980を記録し、ST-2クラスのトップタイムをマーク。石垣は「明日決勝はありますが、とても良い走りをみせたことで、みんなの頑張りが報われたと思います」と喜びをみせた。

 さらにBドライバーでは木立代表が2分20秒053を記録し、合算ではST-2クラス4番手につけた。「めちゃくちゃ安定していて、思いどおりにコントロールできます。先代とは違いますね」と大いに手ごたえを感じている様子だった。11月24日の特別スポーツ走行から総じてタイムも良好であることも、違いを感じさせている。

 Honda R&D Challenge FL5は、市販のシビック・タイプRからはサスペンション、ダンパー、ブレーキシステム、さらに安全のためのロールケージ、ボディ補強等はしているものの、エンジンはノーマルのまま。あくまで量産車でのチャレンジであり、「量産もサーキットで走りやすいですが、それがちゃんと受け継がれています(木立代表)」という。

 柿沼開発責任者も「量産モデルの進化の度合いが、ちゃんとモータースポーツのフィールドでも確認することができました。ではここからどうやって強く、速くしていくかがこれからの大きなテーマです」という。

「先代モデルでスーパー耐久に量産車小改造のレースカーで参戦し、そこで得た知見を最新のタイプRに落とし込んでいます。それによって土台が上がっていますし、先代のFK8をスーパー耐久に投入することで素性を明らかにし、足りないところを次に繋げる狙いがありました」と柿沼開発責任者。

「今回のFL5は、新しく作ったモデルで『レースに勝ちにいく』のが目標です。先代で3年間やってきたことと、同じことを続けても意味がありません。一段上のギアに入れて、『勝ちにいく』のが次のステージへのマインド。ここがHonda R&D Challengeとしての活動の意義ですね」

 迎える11月27日──タイプR誕生30周年の記念日、Honda R&D Challenge FL5はいよいよ5時間の決勝に挑む。ロングランのデータはまだないが、「目標は表彰台です。そのくらいのポテンシャルは十分あると思います」と木立代表は力強い意気込みを語った。ST-2クラスは長年の熟成を経て速さをみせるミツビシ・ランサー・エボリューション、スバルWRX STI、そして今季クラス全勝の強さを誇るトヨタGRヤリス勢が参戦するクラスだ。

 強力なライバルを相手に、武藤英紀をゲストドライバーに迎えたFL5シビック・タイプRがデビュー戦でどんなポテンシャルをみせてくれるのか非常に楽しみなところだ。モビリティリゾートもてぎで開催されるホンダレーシングサンクスデーにも、この様子は届けられるという。

2022スーパー耐久第7戦鈴鹿 Honda R&D Challenge FL5
2022スーパー耐久第7戦鈴鹿 Honda R&D Challenge FL5
2022スーパー耐久第7戦鈴鹿 Honda R&D Challenge の武藤英紀と木立純一代表
2022スーパー耐久第7戦鈴鹿 Honda R&D Challenge の武藤英紀と柿沼秀樹シビック・タイプR開発責任者、石垣博基
2022スーパー耐久第7戦鈴鹿 Honda R&D Challenge FL5

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