<社説>子育て支援財源先送り 軍備より社会保障優先を

 政府は急速な少子高齢化に対応する「全世代型社会保障」について改革の方向性を示す論点を整理した。しかし改革の目玉に据える肝心の子育て支援拡充は財源確保が見通せず、財源論が来年以降に先送りされるのは確実な情勢だ。 岸田内閣の支持率が低迷し閣僚の辞任が相次ぐ中、国民や経済界の反発を招く恐れのある負担増に踏み込めないためだとみられる。

 一方で防衛力強化に向けた財源は「国民全体の負担」が必要だとして増税を提起する拙速な議論が先走りしている。物価高、新型コロナウイルス禍で厳しい生活の中でも子育てをしやすい環境を整備することの方が先である。子育て支援の具体策を早急に実施できるよう社会保障を優先した財源確保に改めるべきだ。

 岸田文雄首相は6月、子ども関連予算の倍増に向けた道筋を、来夏の経済財政運営指針「骨太方針」で示すと表明した。大勝した今年7月の参院選後は「黄金の3年間」と位置づけ、国民全体で議論を進めていくはずだった。しかし旧統一教会問題で強い批判が続いた上、物価高も重なり「議論できる状況にない」と判断したようだ。

 少子化はコロナ禍で加速し、今年の出生数は初めて80万人を割る可能性がある。岸田首相は9月、自身が本部長を務める全世代型社会保障構築本部で「危機的な状況だ」と指摘。育休給付の拡充や「出産育児一時金」の大幅増額の必要性を強調した。

 育休給付は子どもが原則1歳になるまで最初の180日は雇用保険から賃金の67%、それ以降は50%を受け取れる。ただ「週の労働時間が20時間以上」が条件のため、政府は対象者を広げ、仕事と育児の両立を支援したい考えだ。

 問題は財源だ。企業が負担する事業主拠出金が有力視されるが、防衛費が優先された結果、残った財源の選択肢が「拠出金しかなかっただけ」と打ち明ける政府関係者もいる。既に企業側から拠出金増額をけん制する声がある。政府関係者は「ウクライナ情勢を踏まえ安全保障施策が優先とした政府判断だ」と話すが、その判断が正しいか、疑問だ。

 日本は子育て支援への公的支出は他の先進国に比べて低い水準だ。国立社会保障・人口問題研究所によると、子育て政策を含む2020年度の家族関係支出は約10兆5千億円と、国内総生産(GDP)比では2.01%で欧州主要国の3%前後とは差がある。各国のデータがそろう18年度で見ると、日本は1.63%に対し英国は2.98%、フランスは2.81%、スウェーデンは3.46%だ。

 そんな状況の中、政府は憲法に抵触しかねない敵基地攻撃能力の保有を前提に、国民に負担を強いる増税に踏み込もうとしている。それこそ立ち止まって考えるべきで、子育て支援の財源論を先送りするのはおかしい。施策の優先順位を改めることを求める。

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