「えぇ、こんなに安くていいの?」
【写真を見る】「こんなに安くていいの?」2万円が実質3000円のバスツアー 行政が推進する旅行支援使う「静岡の食を訪ねる旅」気になる中身
参加者がみな、驚くのは、静岡県が推進する「ガストロノミーツーリズム」のバスツアーのランチメニュー。
本来なら、2万円の日帰りバスツアーですが、県からの委託費が1万円、さらに2022年10月から再開された「全国旅行支援」を使って4000円割引で、支払いは6000円のみ。これだけではありません!県内各地で使える地域共通クーポン3000円分もつくため、実質3000円のツアーに。しかも、その中身が「価格破壊」だと話題になっています。「SBS NEWS DIG」編集部員が、この御殿場コースのツアーに同行、その内容とツアーの狙いを探りました。
11月15日午前8時45分、JR静岡駅南口に停車したバス。検温や手指消毒、新型コロナワクチンの接種歴などの確認後、ツアー参加者がバスに乗り込みます。この日は、静岡県「ガストロノミーツーリズム」モデルツアーの御殿場コースの開催日。
「ガストロノミーツーリズム」とは、その土地の気候風土が生んだ食材、習慣、伝統、歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的とした観光のことです。
<静岡県スポーツ文化観光部 観光政策課 白鳥孝太郎主任>
「旅にガストロノミー(食文化)を組み入れて、観光支援だけでなく、飲食業や生産者の支援にもつながるということで予算4000万円のモデル事業を取り組むことにしました」
そのひとつが、「価格破壊」ともいわれる今回のツアー。この日の行程は…
①御殿場のネギ畑の見学
②イタリアンレストランで地元食材を使った料理の昼食
③ミニトマト農家によるファーマーズマーケットの案内
④全国醤油品評会にて農林水産大臣賞を受賞したことのある老舗醤油醸造元の見学
⑤御殿場高原ビールでの自由時間
と、朝の8時45分から夜の7時半までの盛りだくさんの内容です。
まず、向かったのは御殿場市内のネギ畑。ここで、生産者の「おざわ農園」の代表者から説明を受けます。御殿場でも、耕作放棄農地が増えていて、少しでも地元のためになるようにと、JA職員から農家に転職し、御殿場の冷涼な気候を利用して糖度12度という高糖度のネギの生産にたどり着くまでのストーリーを聞くことができ、農場見学に加えて、食と地域の背景を学ぶことができました。
お待ちかねの昼食は、「ふじのくに食の都づくり仕事人」に選ばれた黒羽徹シェフのイタリアンレストラン「桜鏡」(御殿場市)での豪華なランチコース。そもそも、この「桜鏡」では、通常のランチが6000円からなので、ここでの食事だけでも、今回のツアー代金をオーバーしていることになります。
しかも、今回のツアーのための特別料理を一品一品、黒羽シェフ自ら食材についての話を交えて説明してくれます。デザート2品を含め、全部で9品のフルコース料理で、実質3000円のバスツアーではありえない質とボリューム。
「天城シャモの団子のスープ」や御殿場名物の「馬肉のカルパッチョ」、「モクズガニを使ったパスタ」、「駿河湾の魚介と箱根西麓野菜の包み焼き」などなど、地元の食材を使った豪華料理に参加者も大満足の様子。
<ツアー参加者>
「食べきれないと思ったけど、あまりに美味しくて全部食べちゃいました」
「静岡県産でも知らない食材があって、その背景も勉強になったので、より食に関心を持っていただきました」
ファーマーズマーケットでは、花やミニトマトを納入している農家「セリザワ マルシェ」の代表者から御殿場でのオススメ野菜や肉、加工品を教えてもらいながらの買い物を楽しみ、続いて創業85年の醤油醸造元「天野醤油」(御殿場市)では、普段なら見ることのできない醤油のもろみの入った樽を見学します。
<天野醤油 天野栄太郎社長>
「うちは小さい蔵ですが、富士山の恵みの仕込み水を使って丁寧に醤油を作っているので、そういうところを見てもらえてうれしいですね」
塩水の代わりに醤油で醤油を仕込むため、一般的な醤油の倍近くの期間をかけて製造するという再仕込み醤油の製法を聞きつつ、樽の中から浮かんでくる気泡を見つめる参加者たち。
<参加者>
「(蔵に入った瞬間に)醤油のいい香り!」
「微生物が生きていて、じっくり丁寧に醤油が作られているのがわかった」
お土産で醤油のセットをついていて、ここでもお得を実感です。
イルミネーションが始まった御殿場高原ビールでは、ビール醸造についての話を聞いた後、買い物タイムが設けられ、地域共通クーポンを使ってお土産を買う参加者もいました。
無駄なくツアーを満喫している様子。バスが静岡駅南口に着いたのは夜8時前。お土産を持ってバスを降りた参加者は…。
<参加者>
「本当にこんなに安くていいの?ってびっくりするくらい」
Q.同じようなツアーがあったら参加したい
「掛川コースも申し込んだけど、キャンセル待ちみたいで残念。来年もあったら絶対行きたい」
委託業者のしずてつジャストライン運行企画部地域交通課の吉林史仁課長に、今回のバスツアー誕生の背景や今後についてうかがいました。
<しずてつジャストライン 地域交通課 吉林史仁課長>
Q.今回のバスツアーの背景は
「実はコロナ禍前から、新しい旅行の形・あり方として地元の食文化や地元密着のコンセプトを考えていたが、新型コロナの影響で売上が急落し、新たなコンセプトを早急に立ち上げなければならない状況だった。実際に観光バスについては、まだ、コロナ禍前と比べると半分程度にしか戻っていない中で、地元の食文化を盛り上げたいという弊社のコンセプトと静岡県の『ガストロノミーツーリズム』のコンセプトが合致して、今回のツアーが可能となった」
Q.モニターツアーも半分が終わったが手応えは
「これまでの参加者のアンケートでは、全員お得だったとの意見を頂いているのでありがたい。喜んでいただいている表情もみているので、手応えは十分あった。ただ、今回は静岡県からの委託だからこそできた価格なので、本来の『ガストロノミーツーリズム』といった意味では、地元の食文化やそれとともに努力している人たちの姿を見て、適正価格でも多くの人が参加してくれるようになるとうれしい」
この「食と観光で静岡を楽しむガストロノミーツーリズム」、12月9日発の3万円が2万2000円+地域クーポン券3000円の宿泊コース(浜松)はまだ、残席があるといいます。(11月25日午後6時現在)