新大工町ファンスクエア誕生・『商店街』 変わらない人の温かさ「信頼で勝負する」 

新大工町ファンスクエア前の広場で10月に開かれたハロウィーンイベント(写真左)、新大工町ファンスクエアの壁に描かれた漫画

 「新大工町はポテンシャルが高いよ」。2014年、長崎市新大工町で「喜助うどん」を営む児島正吾氏(45)は、地元の再開発事業でコーディネーターに就いた森ビル都市企画(東京)の山本和彦社長(故人)にこう言われ、驚いた。
 商店街にとって、集客の要だった旧長崎玉屋の閉店決定の衝撃は大きかった。めっきり人通りも減り、店主らは不安や危機感を募らせていた。ところが、東京・六本木ヒルズなどを手がけた再開発のプロいわく「国道沿いにある交通の要衝」なのがメリットだという。児島氏は「外からの視点は違う」と感じた。

 再開発準備組合理事長に続き、本組合の副理事長に就任。山本氏の言葉を信じ、奮闘した。ただ、新型コロナウイルス禍や長崎駅周辺再開発との競合で「新大工町ファンスクエア」1階のテナント交渉は難航。まちの価値を上げる必要性を改めて痛感したという。
 商店街ではそのために、さまざまな努力をしている。市民との距離を縮めるため、店主らが商売で培った技術や知識を無料で伝授する「まちゼミ」は14年に始まり、16回目を数える。実行委員長の松尾康正氏(49)は「(客に)『次はいつあるの』と聞かれることが増えた。店同士の交流、活気につながっている」と手応えを話す。
 同町商店街振興組合が運営する夏祭りなどのイベントはいつも盛況だ。今年のハロウィーンは地元の中学生が企画や運営に加わり、新たなつながりも生まれてきた。同組合青年部の井上正文会長(45)は「いかに周りを巻き込み魅力を伝えられるか。地域と一体の商店街になりたい」。
 商店街関係者で唯一、再開発組合に参加した児島氏は、住民や店主らの意見を反映させようと奔走。100年以上前から同町が長崎くんちで奉納する「曳壇(ひきだん)尻(じり)」の披露やイベントができる広場をビル前に整備したのは成果の一つだ。
 中でも思い入れがあるのが、ファンスクエア1階の壁に描かれた漫画。同町で生まれ育った青年が一度離れるが、地域のぬくもりに触れて再び戻るストーリー。「主人公はこのまちのみんなに当てはまる。読んだ若者がここで頑張りたいと思ってくれたら」と願う。
 「うちの商店街は安さや品ぞろえ、便利さじゃなく、信頼で勝負する」と児島氏。同町商店街振興組合の古賀重朗理事長も「素晴らしい店はなくても、触れ合える素晴らしい人がいればいい」と理想を描き、言葉を続ける。「再開発を機に原点を見つめ直す。(市民の)生活の中心、コミュニティーの場として」。変わりゆく「ふだん着のまち」の中で、変わらない人の温かさが道しるべになっていた。


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