紙芝居で伝える戦争と平和 ちんどん屋「かわち家」 “原爆が怖い”少年時代と重ね、一歩踏み出す

紙芝居を上演する河内さん=長崎市、長崎原爆資料館前

 ちんどん屋「かわち家」代表の河内隆太郎さん(51)=西彼時津町=が、戦争や平和を紙芝居で伝える活動を始めた。「原爆が怖い子どもたちに向けて紙芝居を作ってみないか」と提案されたのがきっかけ。自身も少年時代、原爆が恐ろしくて目を背けてきた。でも今は「戦争を無視できる時代ではない」。そう考え、取り組むことにした。
 今春。長崎市のイベントに出演した時、国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館の高比良則安館長から思いがけない提案を受けた。「原爆が怖くて一歩が進まない子どもたちがいる。紙芝居を作ってほしい」。そんな子どもたちの姿が、かつての自分と重なった。
 河内さんは西彼長与町出身。小学生の頃、学校で見た原爆アニメの凄惨(せいさん)な描写に気分が悪くなった。以降、戦争や平和に関する話題から距離を置いてきた。
 ただ、ウクライナでは戦争で命を落とす人がいて、悲しみや怒りに震える人がいる。「いつ日本に降りかかってくるかもしれない。怖くなくて、事実を伝えられるようなものを作れたら」。ためらう気持ちもあったが、一歩踏み出すことに決めた。脚本は小川内清孝さん、作画はマルモトイヅミさん=いずれも長崎市=が担当することになった。
 物語は架空のちんどん屋「ひまわり一座」を営む家族を中心に進む。戦争で大道芸が禁止され、家族の生活が変わっていく様子や長崎原爆の被害を描いた。史実を織り交ぜつつ、子どもが飽きないよう会話を増やし、イラストは明るいタッチにした。「世界中の大道芸や芸人たちが活躍できる平和な時代が令和以降も続くように」とのメッセージを込め、8月に完成した。
 10月29日、同市平野町の長崎原爆資料館前で初めて市民に紙芝居をお披露目。物語に関するクイズも用意して盛り上げた。観客は最初10人ぐらいだったが、通行人が次々に足を止め、終演時には40人弱が拍手を送った。
 愛知県から訪れた渡部綾美さん(38)は8歳と6歳、4歳の子どもが最後まで聞き入ったことに驚いた。「音楽と簡単な言葉で分かりやすく、入り込めたのかな」。夫五郎さん(47)は「方言で語られるので現実味があって子どもにも伝わったと思う」と話した。
 紙芝居は、戦争への悔しさをにじませつつ前向きなトーンで終わる。この結末を河内さんはとても気に入っている。「暗く終わるのではなく、心に平和が残る作品。修学旅行生など初めて平和に触れる若い人たちにも見てもらいたい」


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