「戦後最悪」の日韓関係に改善の兆し、徴用工問題を解決し正常化に向かえるか 尹徳敏・駐日韓国大使に聞く

 

インタビューに答える韓国の尹徳敏駐日大使

元徴用工問題などを巡る対立で「戦後最悪」とも言われた日韓関係。韓国の尹錫悦政権発足後、両政府間の対話が活発化し、関係改善の兆しも見えてきている。11月13日には約3年ぶりに日韓首脳の正式会談が行われた。両国に横たわる懸案を解決して、関係を正常化させることはできるのか。7月に着任した尹徳敏(ユン・ドクミン)駐日韓国大使が共同通信のインタビューに応じ、現状と展望を語った。(共同通信=岡坂健太郎、松本安二)

 ▽スピード感持って協議

 日韓関係改善に強い意欲を示す尹政権の下、徴用工問題の解決に向けた外交当局間の協議が加速している。尹大使は元慰安婦問題を巡る2015年の日韓合意が一部当事者の反発を招いたことを教訓とし、問題の解決策を巡り「国民的な共感」を得ることが重要だと述べた。
 ―尹大統領がこれほど日韓関係を重視する理由は。
 「韓国の国益、戦略的な利益がどこにあるかという問題だ。尹政権は、周辺国との関係が良好ではない状況で発足し、特に日本との関係は戦後最悪とも言われていた。尹政権は大統領選の時から韓国外交を正常化しなければならないと考え、韓米同盟と国際的な協力が大事だという基本路線があった。国際情勢が急激に変化する中、韓米同盟とともに韓米日の安全保障上の協力が重要で、韓日が対立するのは決して望ましくない。韓日関係の改善が必要だという認識があった」

11月13日、カンボジア・プノンペンで会談に臨む岸田首相(左)と韓国の尹錫悦大統領(内閣広報室提供)

 ―日韓関係ではこの間、どれほど成果を出せたと考えているか。
 「私が4カ月前に着任した時は、びっくりするほど日本社会が韓国に対して冷たくなっていた。私も長年、日本との仕事をしてきたが、こんな雰囲気は初めてだった。でも徐々に、徐々にといってもしっかり関係改善の方向に向かっているような気がしている。(9月に)ニューヨークで韓日首脳が会い、今回は(カンボジアで)正式な首脳会談ができて、日本側の雰囲気も変わりつつある。日本は徴用工問題が解決しない限り首脳会談はないという前提があった。今回首脳会談が開かれたのは、日本なりの評価があったからこそだと思う」
 ―その徴用工問題の状況は。韓国大統領府高官から「解決策が一つ二つに絞られてきている」との発言もあったが。
 「二つの側面がある。一つは韓国国内で、被害者側に丁寧に説明して意見を求め、国民のさまざまな世論も聞きながら慎重に進めている。外相が被害者に直接会うといったこともしている。2015年の慰安婦合意の経験があるので、国民的な共感をいかに形成するかが問題だと思う。もう一つは、日本とも外交当局で非常にスピード感を持って緊密に協議している。両国国民が納得できるような解決策を探るため、両国とも非常に力を入れてやっている。そういうことがあって、そうした発言があったのではないか」

9月2日、韓国南西部・光州で元徴用工の李春植さん(左)と面会する朴振外相

 ―韓国政府傘下の「日帝強制動員被害者支援財団」が原告に支給する案も解決策に含まれているか。
 「いくつか案があるようだ。国民的な共感を醸成する必要がある。今のところは、どれだとはっきり言うことはできない。今は被害者側と話し合い、国民的な共感をつくる段階とみたらいいのではないか」
 ―元慰安婦らへの現金支給事業を担った「和解・癒やし財団」の残っている資金を、徴用工問題の解決に使う案も報じられているが。
 「慰安婦合意は両国が苦労してつくった合意だった。財団が解散したのは残念だった。ただ昨年、文在寅前大統領が慰安婦合意は政府間の公式合意だと言ってくれて、慰安婦合意というものは有効だ。慰安婦問題を解決するための両国の良い道はできているのだから、それを活用しながら問題を解決していけるのではないか。ただ、癒やし財団の資金は慰安婦問題のための基金だから、それを別の問題に使うのはちょっとおかしい」
 ―徴用工問題で韓国が日本に求める対応は。
 「被害者側にしっかり説明したり意見を求めたりするプロセスが大事だというのが、慰安婦合意から得た教訓の一つだ。もう一つの教訓は、日本側の前向きな対応も非常に大事だということだ。これは被害者側と和解して傷を治癒する、一つのプロセスだ。2015年は慰安婦合意ができた途端、全てが終わったような感じだった。日本の政策決定者の『これで終わり』という感じの一言二言が、韓国国民の世論を悪化させ、結局あのような状況になった。韓国ができることをやる代わりに、日本もやることをしっかりやるべきではないかと思っている」
 ―具体的に、対韓輸出規制を解除するというような政治的なことなのか、あくまでこの問題に関する被害者への謝罪なのか。あるいは被告企業による直接の賠償なのか。
 「被害者側が最も求めているのは、そういうことだと思う。ただ、その中でどういう風に両国が納得できるような解決の道を探るかということだ。韓国側は被害者らの声を日本側にも伝えている」
 ―この問題は韓国の裁判所が日本企業資産の現金化を確定してしまうと非常に難しい局面になる。
 「最高裁が決定を先延ばししているところだが、いつまでそうするかは誰も分からない。だからわれわれとしては(猶予期間が)永遠に続くわけではないということを念頭に置いて話し合う、スピード感を持ってやることが必要だ」
 ―年内に決着できるか。
 「早い時期に解決できるよう願っているが、いろんな人たちが関わっているので、急ぎ過ぎても良くない。矛盾しているように聞こえるかもしれないが、慎重さを保ちつつも、スピード感も非常に大事だ」

 ▽尹大統領の早期訪日に期待
 尹政権は日韓関係の改善に向け、両国首脳が相互訪問する「シャトル外交」の復活も目指している。シャトル外交は2011年12月に京都で行われた野田佳彦元首相と李明博(イ・ミョンバク)元大統領の会談で慰安婦問題を巡る応酬となり、以後途絶している。

安倍政権と韓国の朴槿恵政権による従軍慰安婦問題での政府間合意に抗議し、ソウルの日本大使館前で開かれた集会。中央は慰安婦被害を象徴する少女像=2015年12月30日

 ―尹大統領の訪日はいつごろ実現しそうか。
 「私としては早ければ早いほどいいと思うが、そこに至るまでは時間がかかるだろう。2011年の京都でのシャトル外交以降、韓国や日本での本当の正式な2国間会談は開かれていない。多国間会議の中での2国間会談は日本でもあったが。(多国間会議のサイドラインではない)正式な2国間会談を開くというのは、両国関係の正常化、本来の関係に戻るという象徴的な出来事だと思うし、実現することを願っている。今の調子なら思ったより早いうちにできるのではないかと期待している」
 ―文前政権は日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)をいつでも破棄できるという立場だったが、尹政権は今後どう運用していくか。
 「GSOMIAを大きな軍事協定のように思っている人が韓国には多いが、これは互いに情報を交換できるよう制度的に整えるもの。交換した情報を第三者には渡さないという協定だ。韓国はいろんな国と結んでいるし、日本も同じだと思う。その意味合いを大きく捉え過ぎて、韓国で問題になった。本来ならそんなに大きな問題ではない。ただ、GSOMIAがわれわれにとって重要なのは、やはり北朝鮮の核・ミサイル問題があり、それについてリアルタイムで情報交換するのは大事だからだ。今年に入って、北朝鮮が8発の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含め過去最多の60発以上の弾道ミサイルを発射していることを考慮すると、国民の安全のためにミサイルの飛行方向などの情報交換が必要な時期だ。協定を破棄するどころではない」
 ―日韓関係改善に向けて一番大きな問題は。
 「当面の懸案はやはり徴用工問題ではないか。国連には賛否を問ういろんな決議案があるが、韓国と日本は98%一致している。本来なら戦略的な利益の側面からは韓国と日本に違いはない。韓国と米国、日本と米国でも98%には届かない。中東政策などで違いがある。それなのにこの10年間、われわれは歴史問題ばかりで対立してきた。歴史を直視しながらも、未来志向的にさまざまな協力をしていく必要がある。ドイツとフランスも歴史的にいろんな問題があるが、彼らは問題が提起された際に争うことはあっても、政治・経済的には欧州連合(EU)を通じて統合しているし、北大西洋条約機構(NATO)として同盟国になっている。大きな枠では協力している。韓国と日本もそうした成熟した関係が必要ではないか」

2015年12月、慰安婦問題解決に関する政府間合意の発表を終え、握手する岸田外相(左)と韓国の尹炳世外相=ソウルの韓国外務省

 ―成熟した関係をつくるために、われわれがやるべきことは。
 「韓国と日本の間の不幸な歴史というものは、まだ100年たっていない。被害者も残っている。その記憶が日本ではほとんど薄れているが、韓国ではいまだに残っている。韓国は35年間の植民地支配があって、それから建国した。当時の人の多くは日本国民として生まれた人で、韓国語を禁止された世代だった。国としては新しい大韓民国としての道を歩むため、日本の痕跡を消す必要があった。若者にもきちんと近代史について教えている。ただ日本の場合は、そこが白紙のようになっている。安倍晋三元首相は、未来の世代に謝らせ続けてはならないということをおっしゃった。そこに両国の食い違いができている。歴史問題は一度で全てを解決することはできない。解決するためには和解して被害者を治癒して、その問題を引き続き記憶して教訓として残すことが必要だが、日本では法的な問題で全て終わりという感じがする。この問題はまだ被害者も残っているし、人としての問題だから、もう少し和解のプロセスというものを日本の方々にも分かってほしい。昔はきちんと教科書にも入っていたものが、今は段々なくなっている。歴史修正の面があるのではないかと思っている」

 ▽北朝鮮の目標は「制裁なしの核保有国」
 北朝鮮が今年に入り弾道ミサイルの発射を異例のペースで繰り返している。研究者出身で、北朝鮮情勢を含む安保問題に精通する尹大使は、北朝鮮が核実験に踏み切った後、米国などに対話を持ちかける過去のパターンを繰り返すと予測した。

羽田空港に到着した韓国の尹徳敏・新駐日大使(右から3人目)=7月16日午前

 ―北朝鮮は尹政権が提案した「大胆な構想」を拒否し、対話の意思もない。今後、北朝鮮の核・ミサイル問題にどう取り組んでいくか。
 「われわれは北朝鮮と30年以上交渉してきたが、パターンがある。北朝鮮は核兵器を開発する過程で必要なことであれば、全てやってしまう。ミサイル発射や核実験を全てやって、軍事的な緊張を高める。その時は絶対に対話に応じない。緊張がものすごく高まった後に、突然対話を米国などに持ちかける。われわれとしては、いいのではないかということで対話を始める。そうすると緊張局面が緩和されて、いいムードになる。そうしていろんな合意ができたが、北朝鮮は一度も守ったことがない。その繰り返しだ。今ちょうど繰り返しているのは2017年のパターンだ。当時もいろんなミサイルを発射してから水爆実験を実施し、ICBMを発射して、それから突然、米朝や南北の首脳会談を行ったいきさつがあった。今度もまったく同じパターンで、恐らく最後の最後までやってしまうと思う。技術的な問題をテストして、ハードウエア的なものは全部得て、軍事的な緊張局面を作りながら、そこを活用していきなり融和的な対話に出る可能性がある。ここが最後の勝負どころだと北朝鮮は思っているかもしれない。彼らは核は保有するが国際制裁を受けないパキスタンのような地位を米国との直接交渉で得ようとする。北朝鮮は開城の南北共同連絡事務所を爆破したり、韓国政府に対して厳しい言葉を飛ばしたりしたわけだから、今のところいくら新政権が良いジェスチャーを示したとしても(対話には)応じないと思う。ただ、最後の段階で米国と何かをしようとする時には、必要だったら日本や韓国にまた手を伸ばす可能性は十分あり得る。彼らは食料など経済的な問題があるから、日本にも接近する可能性、特に拉致問題などで日本に融和的な態度に打って出る可能性は十分あり得ると思う。ただ今は、彼らは緊張を高める時期だから、時間がかかるかもしれない」

 韓国の尹徳敏駐日大使と面会する横田早紀江さん(左)=9月9日午前、東京都港区(内閣官房拉致問題対策本部事務局提供)

 ―全てやってしまうというのは7回目の核実験も含めてか。
 「彼らなりの準備が整えば、すると思う。ただ、技術的な問題があって準備ができないと核実験はできない。米国や韓国の強硬な立場に北朝鮮が反発してやるんだという風に書かれるが、北朝鮮はそうじゃない。自分たちが必要なことは全部やってしまう。その日にちを調整しながら、最大限政治的な利益を得るために活用するだけのことであって、彼らの最終的な目標は『制裁なしの核保有国』になることだ」
 「韓国のみならず日本、米国も対話に関してはいつでもできるとはっきり示す必要がある。一方で平和と安定を保つために、抑止力(強化が必要だ)。われわれが弱い立場では北朝鮮と核の交渉はできない。きちんとした抑止力があってこそ、中長期的に問題を解決するための交渉ができる」

 ▽日米韓協力は「新しい段階」に
 北朝鮮がミサイル発射を繰り返す中、日米韓3カ国は11月13日にカンボジアで開いた首脳会談で、北朝鮮ミサイル情報のリアルタイム共有や北朝鮮制裁の調整などをうたった共同声明を採択した。声明には拉致問題や、台湾海峡の平和と安定も盛り込まれた。

日米韓首脳会談に臨む岸田首相(右手前)、バイデン米大統領(奥中央)、尹錫悦韓国大統領(左端)=11月13日、プノンペン(代表撮影)

 ―今回の日米韓首脳会談の意義は。
 「日米韓3カ国の首脳会談は以前もあったが、今回の会談は新しい段階に入ったと思う。以前は北朝鮮に対する対応、安保協力を主に話し合ったが、今回は安保問題のみならず、地域やグローバルの課題、技術やサプライチェーンの問題に至るまで、包括的な協力を目指した。個人的に注目したのは、北朝鮮に拘束された韓国国民に関して、米国と日本の首脳が解放を一緒に言ってくださったことだ。そこは今までと全然違うパラダイムだ。今まで韓国は北朝鮮に拘束された国民の問題を見過ごしてきた。日本の拉致問題に協力してあげるというフレームだった。今回しっかり自国国民に関する支持を米国と日本に求めたということは、人権問題においてこれまでとは異なる尹政権の立場だ。ほかにも経済安保に関する対話など、3カ国で包括的に緊密な協力ができるようになった」
 ―日韓はそれぞれ米国との同盟国である一方、経済的にも文化的にも中国と近い。日本では習近平体制に対する警戒感が強まっている。権威主義を強める中国にどう対処していくべきか。
 「われわれとしては、中国は隣の国だから、仲良く過ごすのが宿命だ。ただ、中国が台頭することによって、この地域にいろんな課題が出てきている。そこはきちんと協力しながらやるべきだし、韓国だけ、日本だけで中国を相手にするのは非常に難しい状況になりつつある。21世紀は東アジアの時代だとよく言われるが、今は全然そういう状況ではない。韓国には日中韓協力事務局もあるが、本来の3カ国協力で共通の課題を発掘していく必要がある。われわれは互いに米国の同盟国で韓米日の協力もあるが、中国との直接のつながりも必要だ」
 ―台湾問題で米中が激しく対立している。その渦中に日本も韓国もいるわけだが、安保面での中国との向き合い方は。
 「韓国も中国とは西海(黄海)を巡って中間線や海域の問題があり、安全のための話し合い、制度化が必要だ。なるべく中国が国際協力の枠の中で役割を果たすよう促す必要もある」
 ―日米韓の安保協力に対中けん制という役割もあるか。
 「そこは対中けん制ということだけではないと思う。もっと広い意味で、地域の安定を保つためのものだ。たとえば台湾の平和と安定というのは、韓国にとっても日本にとっても大事なことだ。軍事的な側面のみならず、いろんな面で台湾の平和と安定を保つためにわれわれは協力する必要がある」
 ―今回の新たな日米韓の協力枠組みを韓国国内でどう定着させていくか。
 「ご存じのように韓国は民主主義の国なので非常に多様な考え方の人がいる。意見の一致は大変困難な状況だ。しかし今の世の中で韓国が平和と繁栄を保っていくためには、今の道(日米韓協力の深化)が一番合理的な道だ。韓日関係をこれほど悪化させて果たして何がいいだろうか」

インタビューに答える韓国の尹徳敏駐日大使

 ―日米韓首脳は北朝鮮制裁の調整を確認したが、国連安全保障理事会の制裁でできるものは出尽くしたような状況で、中国やロシアが抜け穴にもなっている。具体的に何ができるか。
 「対北朝鮮の非核化政策はまだまだ先は遠いと思われる。北朝鮮は今年に入って既に60発以上の弾道ミサイルを撃ったとも言われる。これは開発ではなく、実戦に使用するための運用テストだ。韓国、日本、太平洋上にある米国の基地は全て射程内で核攻撃できるようになった。(開発が)残っているのはICBMだけかもしれない。その中でどうするかという問題だ。米国の要人が核軍縮の話をしていたが、そういう主張は受け入れがたい。(事実上の核保有国として)認めるような印象を与える発言をしてはいけない思う。一つは、非核の抑止力や米国の核の傘などいろんな組み合わせで、北朝鮮に対してこの地域に効果的な抑止力をつくる必要がある。もう一つは、北朝鮮との対話の必要性は常にあるが、制裁の枠組みを崩してしまえば、もはや対話はできない。北朝鮮が核を持つ限りはコストがかかるんだと、制裁なしの核保有国になることはできないんだということをはっきりさせる必要がある」

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