家族や客との距離ぐっと近く…移住先の福井で見つけたゆったりした時間 夫婦でオープンした洋菓子店に笑顔咲く

カウンターのDJブースで接客する石橋大輔さん(右)と妻の咲江さん(右から2人目)=福井県越前市新堂町の「ブルーム」
店で流すレコードを選ぶ大輔さん
できたてのケーキを手にする咲江さん

 川向こうに田畑が広がる福井県越前市新堂町に今年10月、小さな看板が目印の洋菓子店「bloom(ブルーム)」がオープンした。できたてのタルトやチーズケーキ、プリンなどが並ぶショーケースの隣には、大きなターンテーブル。好きな歌手のレコードを持参する高齢の女性や、父親の影響でレコードに興味を持った男子中学生らも訪れる。

 店を切り盛りするのは、石橋大輔さん(45)=大阪府出身=と、妻の咲江さん(35)=福井県鯖江市出身。以前はともに大阪で、大輔さんはセレクトショップを20年間営み、咲江さんはパティシエとして働いていた。

 ブルームは、もともと繊維会社の事務所だった空き家を改装した。レコードの音のように温かい店をつくろうと、木製の家具をそろえ、食器棚やレコード台などは手作りした。思いを詰め込んだ空間で、咲江さんがケーキを作り、DJの経験のある大輔さんは来店者のリクエストに応えてレコードを選ぶ。

 新型コロナウイルス禍の前は「福井への移住は考えたことがなかった」と大輔さん。「新たな環境で、家族の時間も大切にしながら長く愛される店にしていきたい」。夫婦の第2章は、レコード盤のようにゆっくりと回り始めた。

 大輔さんは、大阪の繁華街で20年間、音楽やアートに関連したストリート系の海外ブランドを扱うセレクトショップを経営していた。品ぞろえは外国人客にも人気だったが、新型コロナウイルス流行後の入国制限や外出制限で大きな打撃を受けた。

 休業を余儀なくされ、鯖江市にある咲江さんの実家で過ごした。4歳の息子がのびのびと成長していると感じた。祖父母や親戚ら、大輔さんや咲江さん以外の人と関わる時間が増え、大阪での3人暮らしとは違う姿が見られた。

 セレクトショップを経営する中で、「はやりに流されるのではなく、自分の好きなものを長く続けていきたい」という思いが募っていた。いつかは店を持ちたいという咲江さんの夢も知っていた。「自分のやりたいことはやりきった。今まで支えてもらった分、これからは妻や息子を支えていきたい」。店を閉め、福井への移住を決めた。

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 新たな土地で、夫婦の好きなものを来店者と共有しようと、レコードが聴ける洋菓子店を開き、店名の「ブルーム」は咲江さんの名前から付けた。

 「まさかこんなに早く店を持つと思わなかった。私のケーキ作りに対する情熱に懸けてくれたことがうれしい」と咲江さん。「できたて」のおいしさを大切にしようとケーキは作り置きせず、シュークリームは皮のサクサクを味わってもらいたいと注文が入ってからクリームを絞る。「まだまだ慣れないことも多いが、作りたいものを形にできるやりがいがある」

 「隠れ家的なお店にしたい」と、宣伝はインスタグラムだけ。口コミで広がり、遠方から車で訪れてくれる人がいる。郊外でも商品力とアイデアがあれば勝負できると感じている。

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 「大阪にいるときは、仕事でどうしても家族の時間を削っていた」と大輔さん。親戚や咲江さんの地元の友人、地域とのつながりに安心感や居心地のよさもある。

 セレクトショップには立ち寄るだけの人も多かったが、ブルームではケーキを買ったり、店内で味わってくれたりする人の笑顔が広がっている。BGMは、若い世代が多ければテンポのいいR&Bを流し、年配の人がいれば心地いいジャズをかけるなど、雰囲気に合わせて選んでいる。

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 大阪では感じられなかった、ゆったりした時間の流れ。家族とも来店者とも距離がぐっと近づいた今の環境を、「とてもやりがいに感じる」と笑顔で話した。

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