不要な不動産を相続してしまったひとの希望の光…要らない土地を国が引き取る「相続土地国庫帰属制度」の解説と注意点

相続をきっかけにして、「家族から、自分には使い道もない、不要な不動産を相続してしまい、なんとか手放したい」という方が急増しています。

意外に思われるかもしれませんが、法律上、この「不動産を手放す」という手段は存在しませんでした。そのため、一度不動産を所有したら最後、どんな理由があろうとも新たな使い手が見つかるまで、子供や孫の世代まで、未来永劫所有するしか選択肢がありませんでした。

しかし、2023年から、「相続した不要な土地を、国が引き取る制度」が誕生します。これによって、”未来永劫、不動産を手放せない”という状況が大きく変わり、相続で困っている多くの方々にとっては、希望の光になると期待されています。

しかし、この制度の利用には注意点や例外も多く含まれており、誰でも気軽に「どんどん手放せる」制度でもない側面も持ち合わせています。この記事では、この制度の概要や、注意点についてご紹介していきます。


不動産を相続することと、時代の変化

一昔前には、不動産を相続するとなれば、資産価値の高い財産の継承ということで、親族間での”奪い合い”が起こることも多々ありました。しかし、今そのような対象になる不動産は、都市部のビルや住宅地といった一部に限られます。山林、農地、崖地、地方の空き家など、使い手がなく、資産価値を見いだせない不動産の割合が急増しており、それらの財産を相続したくないことから”押し付け合い”すら起こっているのです。

冒頭にも述べましたが、不動産の大きな特徴は、「譲り手が現れない限り、処分することができない」ことです。

トランプのジョーカーのように、不動産も、要らないからといって、誰かの手に渡らない限りは、粗大ゴミのように廃棄することはできません。

もともと不動産は、金(ゴールド)などと同様、持っていれば価値が上がり続けるもの/無価値にはならないものと信じられてきたため、”要らない不動産・価値のない不動産”が生まれるという概念自体がほとんどありませんでした。もちろん、相応の人口があり、商業が盛んな都市部の不動産であれば、今でもその考え方は当てはまるでしょう。

しかし、たとえば農業の衰退によって耕作放棄の農地が増えたり、過疎化によって地方の空き家が増えたりしていることは想像に容易く、社会的にも深刻な問題となっています。

当然、それらの不動産には1件1件所有者がおり、その所有者が亡くなれば、相続放棄をしない限り、相続人となる家族へ引き継がれていきます。そのため、なかには生まれも育ちも都市部であるのに「足を運んだことも無い、先祖の山を突然相続する」ケースも決して珍しくないのです。

こうして、不要な不動産を所有し、全く使い道もない財産に対して、固定資産税を毎年納め、倒木や土砂流出などによる所有者責任リスクを負い、手放すこともできずに困っている方が世の中には相当数いるのです。

写真:筆者の相談者が相続した“不要な土地”の一例。家庭菜園用地として分譲されたものの、現在は周辺一帯に雑草木が生い茂り、敷地の特定もままならない。

相続土地国庫帰属制度とは

相続土地国庫帰属制度は、2023年から開始される新しい制度です。この記事の執筆時点で、手続き方法など詳細が未決定・未公表の部分も多く残されていますが、簡単にまとめると以下のような制度です。

・相続した不要な不動産を、国が引き取ってくれる(所有者が国になる)
・引取には、国へ”負担金”を支払う必要がある
・引き取り対象外の不動産も存在する

ここで特筆すべきは、この制度は決して寄付や無償引取ではなく、「所有者が、国にお金を払う」点です。つまり、粗大ごみや家電の処分と同様に”持ち主が処分料を負担する”必要があります。

通常の不動産売買から考えると、売る側がお金を払うとは理解しがたい面もあるかもしれませんが、資産価値がゼロないしマイナスになっている不動産を、国が税金で維持管理をしていくという観点では、公平性の観点からやむを得ないといえるでしょう。なお、負担金の額は土地の種類により異なるものの、20万円からの設定が予定されています。

制度を利用できないケースも多い!?

一方、この制度には「利用できないケース」も多く規定されています。

この制度の前提である、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)では、以下のように定められています。

(1) 申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)

A 建物がある土地

B 担保権や使用収益権が設定されている土地

C 他人の利用が予定されている土地

D 土壌汚染されている土地

E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

(2) 承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)

A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地

B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地

C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地

D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地

E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

これを見ると、予想以上に利用できない不動産が多いのではないかという印象です。

たとえば、比較的多いケースと思われる、親が住んでいた地方の空き家は、「建物がある土地」という、表の申請却下事由Aに該当し、申請するにはまず建物を自費で解体して更地にする必要があります。そのためには、申請前の時点で百万円単位の出費が強いられるでしょう。また、申請許可事由Eの「境界が明らかでない土地」も、現実にはかなりの割合で該当してしまう可能性があります。これも、もし要件を満たすために測量や境界確定をするとなれば、数十万以上の費用がかかることが一般的です。

そのほか、申請が受理されても、その後不承認となってしまう可能性がある土地として、不承認事由Aの「一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地」については、大半の山林が不承認となってしまう可能性を示唆しています。日本の国土の3分の2が山林である中、ここで諦めることになる方も相当数出てくるのではないかと予想しています。

#結局、どんな土地が引き取り対象になる?
こうしてみると、NGな条件が多すぎて、逆にどんな不動産ならば制度を利用できるのかと思えてしまいます。

法務省では、「〇〇な土地はOK」という例示や明言は公表されていませんが、先に挙げた却下事由や不承認事由を参考に、消去法的に予想すると、承認が通りやすそうな対象は、以下のような土地は引き取って貰える可能性が高く、制度利用者にとってもメリットが大きいでしょう。

・耕作放棄状態の農地
・古家は解体したが、なかなか売れずに困っている更地

これらに該当する不動産も相当数あると予想されますので、制度の有効利用を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。

一方、現状では制度利用が難しい見込みである方も、何らかの代替制度ができないか今後の動向は注目すべき制度ですし、是非これを機会に、ご自身にかかる相続不動産の総チェックや、制度内容の把握を進めることをお勧めします。

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