柿の木にモズ まるで武蔵の水墨画 冬告げる声、朝露の枯れ野を渡る

縄張りの枝に止まり警戒するモズ=岡山市北区新庄下

 古代吉備の繁栄を今に伝える造山古墳。周辺の陪塚(ばいちょう)の一つ、榊山(さかきやま)古墳(岡山市北区新庄下)に生えている柿の木に今月下旬、モズが止まった。

 そのシルエットに宮本武蔵の「枯木鳴鵙図(こぼくめいげきず)」が重なった。かつて私はこの水墨画を見て、モズの動きを想像した。

 体を丸め木を登り始めた尺取り虫にこれ以上近づくなと、くちばしを開き威嚇の声を上げる。そして、足元まで登ってきたこの虫をついばむことなく、羽を広げ万里一空に飛び立つ。

 それは、群れることを嫌い、安住することで魂が曇るのを恐れ、強き者にも、弱き者にも等しく宿るべき命を慈しんだ、武蔵その人の姿にほかならない。

 「キィッ、キキキーッ」

 朝露の枯れ野を渡るモズの声。冬がまた来る。

© 株式会社山陽新聞社