〈詳報〉奄美女性刺殺に無罪判決 状況証拠に「合理的疑い残る」 検出されたDNA型、指紋の付着は「事件より前に残した可能性も」 鹿児島地裁

無罪判決が言い渡された鹿児島地裁206号法廷=28日、鹿児島市山下町

 鹿児島県奄美市名瀬小俣町で2019年6月、1人暮らしの女性=当時(87)=が刺殺された事件で、殺人と住居侵入の罪に問われた住所不定、無職男性(24)の裁判員裁判判決公判が28日、鹿児島地裁であった。中田幹人裁判長は「証拠上、被告を犯人と認定するには合理的疑いが残る」と述べ、無罪(求刑懲役20年)を言い渡した。

 男性は初公判で無罪を主張した以外は黙秘を続け、現場から検出された男性の指紋とDNA型が殺害の状況証拠と認められるかが争点だった。

 判決理由で中田裁判長は、テーブルと女性の肌着、タオルケットの付着物から検出されたDNA型や、玄関扉と冷蔵庫から採取された指紋の大半を男性のものと認定。指紋の付着状況などから時期は判断できないとし、「事件より前に金品を得る目的で侵入し、付着物を残した可能性を否定できない」と指摘した。「犯行日時と近接した時期に被害者に接近しており、被告が犯人でなければ合理的説明ができない」との検察側主張を退けた。

 当時無職で金品目的とした動機は「動機がないとは、いえないことを示すにとどまる」と述べた。検察側が「犯人として自然な行動」とした携帯電話による事件報道前の「奄美 事件」「奄美 事故」などの検索に「犯人でなくても十分に考えられる行動」と犯人性を疑問視した。

 指紋、DNA型の偽造・混入の可能性に言及した弁護側主張は「故意や過失によるものとは想定しにくい」と否定した。

 事件は19年6月16日、女性が血を流して死亡しているのを親族が発見して発覚した。右鎖骨上部などを刃物のようなもので複数回突き刺すなどして殺害したとして県警は同年9月、コンビニでの強盗未遂罪で公判中だった男性を殺人と住居侵入容疑で逮捕した。強盗未遂罪は執行猶予付き有罪判決が確定した。

■判決内容を精査

 鹿児島地検の桑田裕将次席検事 長期間の審理に臨まれた裁判員の皆さまに敬意を表す。予想外の判決であるが、判決内容を精査し、上級庁とも協議した上、適切に対応したい。

■コメント控える

 鹿児島県警捜査1課 判決が確定していないので、コメントは差し控えたい。

【関連表】奄美女性刺殺事件 裁判の争点
中田幹人裁判長

© 株式会社南日本新聞社