企業の倒産傾向、増加しているのはコロナだけが原因ではない?

創業後10年生存できる企業は全体の1割程度しかないといったデータがあるほど、生き残っていくことは難しいことです。経営が悪化した時、会社の倒産やその可能性を、どのように捉えればよいのでしょうか?

弁護士の福西信文 氏の著書『「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方』(合同フォレスト)より、一部を抜粋・編集して「会社のたたみ方」の全体像について解説します。


近年における「倒産」の傾向とは

倒産について、近年の動向を確認しておきましょう。

新型コロナウイルス感染症の影響による倒産は増えている

2020年初頭からは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、飲食業や旅行業、その他の関連事業者をはじめとして業績不振が続いています。コロナ後の社会情勢や経済については読めないことが多く、いまだに先行きは見通せない状況です。そのため、市場でも不透明感が漂っています。

一方で、倒産件数についてはむしろ堅調に推移しています( 図表1 )。ただ、休廃業・解散も含めた件数はほぼ右肩上がりで伸びており、コロナ禍における政府や自治体、金融機関などによる支援策がどこまで機能するのかは未知数です。東京商工リサーチによると、2021年における休廃業・解散・倒産の合計数は4万4377件。倒産の7倍以上の企業が休廃業しているとのことです。

図表1 休廃業・解散、倒産件数の年次推移

内訳としては、10年以上20年未満の企業が21.6%と最多で、業績20年未満トータルでは全体の48.2%です。このように、近年では業歴の浅い企業の倒産が増加傾向にあるようです。また産業別では、飲食業や宿泊業、非営利的団体などを含む「サービス業他」の件数が1万4071件と最多で、建設業、小売業などが続いています。

気になるのは、「宿泊業」が、前年比20.5%の増加(243 件→ 293 件)を記録するなど、コロナ禍による影響が出始めていることでしょう。休廃業・解散した企業の社員数は12万6550人を記録し、前年比26.4%の増加です。実に12万以上の人が転職や離職を余儀なくされています。

事実、新型コロナウイルス関連倒産の件数は徐々に増加しています。帝国データバンクによると、2022年2月末時点で約3000件にまで伸びており、業種別では「飲食店」(474 件)、「建設・工事業」(328 件)、「食品卸」(148 件)、「ホテル・旅館」(127 件)、となっています( 図表2 )。ちなみに、その多くが破産を選択しています。

図表2 新型コロナウイルス関連倒産数(業種別)

では、より広い視野で倒産について俯瞰してみると、どうなるでしょうか。まず、中小企業の「業況判断DI」(前期に比べて業況が「好転」と答えた企業の割合から「悪化」と答えた企業の割合を引いたもの)、にリーマン・シックや東日本大震災でも一時的な落ち込みが見られたように、コロナ禍における売上の急減が大きな影響を及ぼしています( 図表3 )。

図表3 企業規模別業況判断DIの推移

倒産が増えているのはコロナだけが原因ではない

倒産を選択する企業が増えている理由は、外部環境の変化だけにとどまりません。少子高齢化の影響もあり、後継者不足による休廃業も増えています。なかでも、負債総額1000万円未満の倒産件数がここ数年で増加しており( 図表4 )、こうした傾向は今後も続いていくかもしれません。2020年度は、新型コロナウイルスによる影響を受けて前年比23%増を記録しましたが、2021 年は政府や自治体の支援策により減少しました。

資金繰り難や赤字体質、債務超過の原因について考えてみると、人件費の上昇や人流の変化、経済状況の悪化や景気後退による販売不振などが挙げられ、この先も厳しい状況が続くと思われます。とくに先行きが見通しにくい飲食業をはじめとするサービス業や宿泊業の中には、倒産を選択する企業も増えてくると予想されます。

こうした傾向を踏まえ、倒産の質やその中身、あるいはフェーズそのものが変わりつつあると言えそうです。

図表4 負債総額1,000万円未満倒産件数の推移

会社のたたみ方の全体像(再生・清算・休眠)

倒産に関連するそれぞれの手法について詳しく見ていく前に、これまでの話を踏まえて、会社のたたみ方の全体像を確認しておきましょう。

世間のイメージと法的手続きの違いを理解する

本書第2章ですでに説明したように、会社をたたむ手続きには 「私的整理」「法的整理」 の2つがあります。

また、法的整理に該当する倒産処理手続きについても、大きく 「再建型」「清算型」 に分けることができます。再建型の手続きとしては、 「民事再生」「会社更生」 があり、清算型の手続きとしては 「通常清算・特別清算」 (以下、併せて「清算」といいます)と破産法に基づく 「破産」 がその代表となります( 図表5 )。

図表5 会社のたたみ方の種類

つまり、会社の倒産手続きは、「 (1)会社を清算するか、再建するか 」「 (2)裁判所を通した法的手続きを用いるか、用いないか(私的に整理するか) 」という観点で分けられるということです。一般的に「倒産」という言葉からイメージされるのは、これらのうち清算や破産であり、場合によっては「倒産=(法人)破産」と思っている人もいるかもしれません。

もともと法律用語には、一般に使用されている言葉とは異なる使われ方をしていたり、別のニュアンスが含まれていたりするものがあります。そのため、「会社をたたむ」と言った場合でも、必ずしも(法人)破産を意味するわけではない点に注意が必要です。個人でも法人でもそうですが、あくまでも破産は、債務処理におけるひとつの選択肢にすぎません。ただ、倒産と破産のイメージがセットになっていることから、「会社をたたむ」という選択に対して、後ろ向きの印象を抱いている方も少なくありません。そのため、「会社をたたむ」という選択肢そのものから目をそらしてしまい、いたずらに時間だけが経過してしまうこともあります。その結果、ぎりぎりのタイミングで弁護士のもとを訪れる人もいるほどです。

そこで、間違った理解をそのまま引きずってしまわないよう、ここで簡単に認識をそろえておくようにしましょう。まず、清算型と再建型の違いは「 会社をなくすか、残すかの違い 」です。厳密に言うと、前者のみが「会社をたたむ」ことになるわけですが、再生型の手続きに関しても、業績が悪化しており、経営が傾いている点では同じです。

「通常清算」「特別清算」「破産」の違い

では、清算型における「通常清算」「特別清算」と「破産」の違いはどこにあるのでしょうか。

詳細は後述しますが、ここでも簡単に説明します。

通常清算は、会社の残っている財産をすべてかき集めれば負債を返せる場合に選択できる清算手続となります。この手続きに裁判所は関与しません。

特別清算は、清算の遂行に著しい支障がある場合や会社が債務超過の可能性がある場合に選択できる余地のある清算手続となります。たとえば、現時点では債務超過であるが、各債権者と個別に和解して負債をカットしてもらうか、あるいは債権者の多数決(債権者集会に出席した債権者の頭数の過半数かつ総議決権額の3分の2以上の同意が必要)により負債をカットしてもらうことによって、株式会社の資産ですべての負債が完済できるのであれば、株式会社を清算することができます。たとえるなら、特別清算は、債権者との交渉を通じて行われる〝和解手続き〟と言えるかもしれません。ただし、株式会社しか認められない手続なので、持分会社(合同会社・合名会社・合資会社)などは特別清算の手続きがとれないことに留意する必要があります。また、特別清算は、裁判所に申立てをする必要があります。

最後に、破産は会社が債務超過(または支払不能)の場合に選択のできる清算手続となります。債権者と交渉することなく、〝強制的に〟会社をたたむ手続きになるため、ネゴシエート(交渉、折衝)はありません。そのため、破産のほうが強引に手続きを進めていく印象が強く、利害関係者に対しても迷惑をかけやすいと思われているのかもしれません。

ちなみに、破産というと「自己破産」という言葉を想起する方も多いのではないでしょうか。「自己破産」という言葉は、一般に個人破産のシーンで使われることが多いため、「自己破産=個人の破産」と誤解している人もいます。しかし、法人の破産においても、債務者が破産を申し立てる場合には「自己破産」と表現するように、個人か法人かを問いません。

つまり、自己破産とは、個人か法人かにかかわらず、債務者から申し立てる破産のことです。一方で破産は、債権者からも申し立てることができ、これを「債権者破産」と呼びます。ただし、債権者破産の場合、申立てに際して、債権の存在および破産手続き開始の原因となる事実を疎明(証拠をあげること)しなければなりません。

具体的には、破産手続開始の原因となる事実を疎明するべく、債務者の資産と負債を明らかにする必要があります。しかし、債務者が資産や負債の情報を提供してくれるとは限らず、実務上はハードルが高いとされています。そのため、本書においては、債務者が自ら申し立てる自己破産を中心に解説しています。

※参考「破産法18条」

第1項 債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。

第2項 債権者が破産手続開始の申立てをするときは、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。

補足として、「事業を停止させる」という意味合いにおいては、再生や清算以外にも「休眠」というものがあります。休眠は特殊な状況でなければ使う意義がなく、また赤字や債務超過で用いることは難しいため、本章の最後(本書136ページ)に別枠で紹介しています。

著者:福西 信文

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