国産で初めて新型コロナウイルス感染症の飲み薬を厚生労働省が緊急承認した。
塩野義製薬の抗ウイルス薬「ゾコーバ」で、感染症の流行時に新しい医薬品を迅速に使えるよう新設された緊急承認制度の適用第1号となる。
軽症者でも服用でき、感染の収束が見通せない中で治療の選択肢が増えるなら望ましい。
ただ、症状改善の効果は限定的とみられ、緊急承認の期限は1年だ。どのように活用すべきか、見極めていく必要がある。
飲み薬はこれまで、米国のメルクとファイザーの製品が特例承認で使われてきた。ゾコーバは重症化リスクの有無にかかわらず使えるのが特徴だ。
政府は100万人分の購入契約を結んでおり、供給を開始した。国産により安定確保が期待される。患者の自己負担はない。
だが、どの患者にも使えるわけではない。
12歳以上が対象だが、妊婦は除外される。高血圧や高脂血症の薬など併用できない薬が36種類ある点も要注意だ。これらの制約事項について、患者に丁寧に説明することが重要になる。
発症から3日目までに投与する必要がある。政府は重症化リスクの低い人には自主検査、療養を促しており、適切な投薬ができるかが課題だろう。
使用判断は、限られた効果との兼ね合いにもなろう。
臨床試験(治験)では、鼻水や喉の痛み、せき、発熱、倦怠(けんたい)感の5症状について、消えるまでの期間を約8日から約7日に1日短縮できたとしている。
中間段階の治験データでは、頭痛や吐き気などを含む新型コロナの12の症状を総合的に改善する効果が認められなかった。7月の時点では承認が見送られ、その後、評価項目を5症状に絞った経緯がある。最後まで承認に反対する専門家がいたという。
国産の新薬開発力を育成する見地も大切だが、投薬は命に関わる。
抗ウイルス薬は安易に投与すると薬が効かないウイルスが出現する恐れも指摘される。幅広い投与は慎重に考えるべきだろう。
緊急承認は、期限内に有効性が確認されなければ取り消される。国や塩野義には、副作用も含めた情報公開が求められる。
スピード重視で審査を簡略化した緊急承認制度が妥当なのかを判断する点からも、利用実態を検証していくことが欠かせない。