19億光年先のクエーサーから噴き出すジェットの最深部を捉えることに成功 アルマ望遠鏡など

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したクエーサー「3C 273」。左上に噴出したジェットの一部が写っている(Credit: ESA/Hubble & NASA)】

東京大学大学院理学系研究科博士課程の沖野大貴さんを筆頭とする研究チームは、「おとめ座」の方向約19億光年先にあるクエーサー「3C 273」の観測を行い、3C 273から噴出するジェットのこれまでにない最深部の構造を捉えることに成功したとする研究成果を発表しました。

クエーサーとは、銀河中心の狭い領域から強い電磁波を放射している活動銀河核の一種で、そのなかでも特に明るいタイプを指します。クエーサーの活動の原動力は、質量が太陽の数十万~数十億倍にも達する超大質量ブラックホールだと考えられています。

巨大で活動的なブラックホールのなかには、光速に近い速度のプラズマ流をジェットとして噴出するものがあります。ジェットは数十年に渡って研究され続けていますが、その形成過程は今も謎に包まれています。

研究チームは、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」をはじめ、世界各地の電波望遠鏡を結んだ国際的な観測網(※)による3C 273の観測を2017年に実施。ジェットの根元からわずか数光年というこれまで未知だった最深部から、クエーサーを宿す銀河そのものを越えたジェットの先端部まで、さまざまなスケールに渡るジェットの形状が詳細に調べられました。

※…国際ミリ波VLBI観測網(GMVA)とアルマ望遠鏡(ALMA)を組み合わせた「GMVA+ALMA」によるジェット最深部の観測と、欧米の「高感度VLBI観測網 (HSA)」によるジェット全体の形状測定を目的とした多波長観測を実施。

その結果、研究チームはクエーサーのジェットが細く絞り込まれている様子を初めて捉えただけでなく、ブラックホールの重力が支配する領域を遠く離れたところまでジェットの絞り込みが及んでいることを見出しました。このようなジェットの絞り込みは、より暗くて活動度も低い超大質量ブラックホールではこれまでに見つかったことがあるといいます。

【▲ 3C 273から噴出したジェットのさまざまなスケールでの観測結果を示した図。左:GMVA+ALMAの観測による最深部の様子(スケールバーの長さは2光年)、中央:HSAの観測によるより大きなスケールの構造(スケールバーの長さは40光年)、右:ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した3C 273(スケールバーの長さは8万6000光年)(Credit: Hiroki Okino and Kazunori Akiyama; GMVA+ALMA and HSA images: Okino et al.; HST Image: ESA/Hubble & NASA)】

今回の研究を主導したマサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所の秋山和徳主任研究員は、活動性がまったく異なる超大質量ブラックホールでも同じようにジェットが絞り込まれる理由は新たに浮上した謎だとコメント。また、今回の研究に参加した国立天文台アルマプロジェクトの永井洋特任准教授は、さらに高解像度の観測を行うことで、ジェットの形成メカニズムをこれまで以上に深く理解したいとコメントしています。

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文/松村武宏

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