『ブラックアダム』基本解説! エジプト版シャザム? JSAはアメコミ最古参チーム? 筋肉スーツ不要のロック様!!

『ブラックアダム』© 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

『ブラックアダム』を一言でいえば、ドウェイン・ジョンソンが“ちょいワルなスーパーマン”を演じる痛快ヒーロー活劇です。マーベルではなく、バットマン系のDC。しかし2022年の春に公開された『THE BATMAN-ザ・バットマン-』のトーンとは真逆。あまり予備知識がなくても楽しめる作品となっています。

ブラックアダムはエジプト版シャザム?

ブラックアダムとは、もともとシャザム(『シャザム!』として2019年に映画化)のライバルとして登場しました。シャザムは6人のギリシア神話に由来する神々の頭文字(例えばSHAZAMのZはゼウスのZ)をつなげたマジカル・ワードであり、心正しき者が「シャザム」と唱えると神の力を持った超人に変身できる、というものです。

これに対しブラックアダムは、エジプト神話に由来する神々の頭文字で構成された「シャザム」(この場合のSHAZAMのZはエジプトの神トートの別名Zehuti)と発声することで変身。もともとテス・アダムという男が、善の魔法使いからヒーローとしての活躍を期待され“シャザム変身”してブラックアダムとなりましたが、彼はその力を持ったまま闇落ちしアンチ・ヒーローになったというわけです。

こうした設定からもわかるようにエジプト、中東が重要な舞台になってきます。今回の映画は中東の架空の国カーンダックが舞台。5000年前、カーンダックを残虐な王の圧政から救ったが、破壊神となってしまったため魔法の力を封印されたアダムが現代に蘇ったことで起こる大騒動を描きます。

ブラックアダムとJSAのバトルは見どころありすぎ!

ブラックアダムは飛行能力・怪力・不死身の体、そして電撃能力を持っています。そんな彼の復活を脅威と考えたアメリカ政府は、スーパーヒーロー・チーム<JSA(ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ)>を派遣。ブラックアダムの制圧に乗り出すのですが……。

前半はJSAとブラックアダムの戦い、後半は更なる脅威が現れJSAとブラックアダムが共闘と、ひとつの映画で様々なヒーロー映画の面白さを詰め込んだ作品となっています。JSAのメンバーは、翼を持つ鷹のようなアーマーを装着したホークマン、巨大化できるアトム・スマッシャー、風を操る竜巻娘サイクロン、そして神秘の黄金の仮面を被った魔法使いドクター・フェイトです。

ここでJSAについて軽く触れておくと、コミックでのデビューは1940年! アメコミ史における“最初のスーパーヒーロー・チーム”とされています。バットマンらの<ジャスティス・リーグ>の先輩にあたるヒーロー・チームですね。直訳すると「アメリカ正義協会」(笑)。今までDC原作ドラマの『ヤング・スーパーマン』(2001~2011年)や『レジェンド・オブ・トゥモロー』(2016~2022年)でもその存在が描かれていましたが、今回ついに映画デビューです。

ブラックアダム以外にもヒーローを登場させたい。しかしバットマンやワンダーウーマンだと新味に欠ける、ということで今回JSAを絡ませたのでしょうが、これが大正解。この4人のスーパーパワーとブラックアダムのパワーがそれぞれ異なっているため、ブラックアダムとのバトルは見どころが多い。また、サイクロンを除きJSAのメンバーは被り物系ですから、素顔のブラックアダムとの対決も絵になります。

ブラックアダムにJSAと、一気に5人のヒーローが本作でデビュー。DCユニバースはますます広がりそうです。

アメコミ・スーパーヒーロー映画が“アメリカの横暴”を描く

とにかく、これぞスーパーヒーロー映画! という娯楽大作ですが、ちょっと今までのヒーロー映画にはない“ひねり”があるんですね。

今回のお話はカーンダックの中だけで進みます。カーンダックは、あるテロ組織に支配されている国。アメリカも国連も、カーンダックのこういう状況に無関心でした。なのにブラックアダムが現れた途端、“アメリカ”の名を冠するJSAがいきなり干渉してくる。今まで散々ほっておいたくせに! 当然、カーンダックの市民はブラックアダムの復活を大歓迎というわけです。

MCUの『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2022年)もそうでしたが、アメコミ・スーパーヒーロー映画が“アメリカの横暴”を描くというところにメッセージ性を感じます。

ドウェイン・ジョンソンはこのキャラに惚れ込んで自らプロデューサーも務め、10年間も映画化企画を温めていましたが、そのノリが伝わってきます。凄味と共に、どこかユーモラスな塩梅はさすが。普通、ヒーロー映画はコスチュームに“詰め物”をして筋肉感を出すそうですが、ドウェイン・ジョンソンにはその必要がなかったそうです(笑)。ちなみに本作においてブラックアダムはいつもふわふわ浮遊しており、それがまた愛らしい。

『ブラックアダム』は、クリスマスやお正月に観るのにふさわしいエンターテインメント作品です。個人的には、サイクロンのキュートさにハートをぶち抜かれました。あ、エンド・クレジットの“おまけシーン”もお見逃しなく!!

文:杉山すぴ豊

『ブラックアダム』は2022年12月2日(金)より全国公開

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