【角田裕毅を海外F1ライターが斬る:第21/22戦】悲惨だったブラジルにめげず、リーダーのポテンシャルを示した最終戦

 2022年、アルファタウリの角田裕毅は、F1での2シーズン目を戦ってきた。昨年に続き、エディ・エディントン氏が、グランプリウイークエンドを通して角田の動きをくまなくチェックし、豊富な経験をもとに、彼の成長ぶり、あるいはどこに課題があるのかを忌憚なく指摘する。今回は2022年F1第21戦ブラジルGP、第22戦アブダビGPについて振り返ってもらった。

──────────────────

 F1が長いシーズンを終えた。最終戦は重鎮すべてが顔をそろえる特別な一戦であり、もちろん私も招待を受けた。この人生のなかでドライバー、チームオーナー、スポンサーハンター、ドライバーマネージャー、TVパーソナリティなどありとあらゆる仕事をこなしてきた私は、F1でも特別なステータスを持つ、エリートのひとりなのだ。

 さて、今回は角田裕毅に私から名言を授ける今年最後の機会になる。私はブラジルには行かなかったが、遠くから週末に起こることを事細かに観察していた。スプリント・フォーマットについて意見を言わせてもらうと、あれは時間と金とテレビの放映時間とパーツの無駄遣いでしかない。私も忍耐力を無駄に使わされた気がする。これについてはまだまだ言いたいことはあるのだが、ひとまず本題に戻ろう。

 起きたことを細かく並べていると「要点をお願いします」と編集担当から言われてしまうので、角田のブラジルGPについて端的に表現しよう。こう言っちゃ悪いが、「とにかく悲惨」だった。その話をすると、結局スプリント・フォーマットの批判になるのだが、しばらく我慢していただきたい。

2022年F1第21戦ブラジルGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 スプリントの週末は、FP1がうまくいかないと、そこで終了。その後に挽回することが不可能で、週末がその時点で終わってしまう。予選前にマシンはパルクフェルメ状態になり、基本的に何もできなくなるからだ。アルファタウリはFP1でピエール・ガスリーのマシンはいい状態に持って行けたので、彼の週末は最悪なものにはならなかった(それでもノーポイントだったが)。一方、可哀想な裕毅は、マシンのセットアップの関係でタイヤをうまく温められず、週末を通して手も足も出なかった。FIAのタイミングシステムの問題も、彼に追い打ちをかけた。サーキットごとの形状やそのコントロールラインの位置の違いに対応できなかったシステムのせいで、裕毅はセーフティカー出動時にリーダーたちと同一周回に戻ることが許されなかったのだ。もろもろ考えあわせると、彼にとってブラジルGPの週末は、最悪としか言いようがない。

 だが、「転び方ではなく、立ち直り方が大事」とよく言うではないか。そういう視点で、私はアブダビでの角田を見ていた。実際彼はどうだったか。週末を通して、チームメイトより速く、2023年にチームをリードしていく力があることを示した。角田はアブダビ予選でQ2に進み、Q3入りは逃したものの0.15秒というわずかな差だった。レースではトップ10入りを望める位置で奮闘したが、最後のスティントでチームがソフトタイヤを履かせるというギャンブルをした後、終盤5周にタイヤがなくなってしまい、9位争いをしているリカルドとベッテルには追いつけなかった。

2022年F1第22戦アブダビGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 グリップがあるときには冷静に堅実な走りをし、大きなデグラデーションにもうまく対応して、ミスなく走った。彼は今年一年を通して大きく成長した。フレンドリーだが感情の起伏が激しいガスリーに代わって、来年チームメイトになるのは、F1ではルーキーではあるもののレースの経験が豊富で、知的で政治的な動きを得意とするニック・デ・フリースだ。だが、角田には新チームメイトの横で力を発揮する準備ができていると思う。

 記録上は裕毅にとって良いシーズンだったようには見えないだろう。ガスリーが23ポイントを稼いだのに対して、裕毅は12ポイント。予選結果の比較でも、12対9でガスリーの方が上だった(裕毅が予選でノータイムだったサウジアラビアを除く21戦で比較)。しかし2022年シーズンのなかで彼が見せた成長を見ると、来年に大きな期待を持つことができる。

 実は角田は私のコラムを読んで参考にしていたのではないか、と密かに思っている。もしそうなら、2023年もこの調子で成長していくために、オフの間に私と契約する気になってくれたのではないかと思うが、どうだろう。

2022年F1第19戦アメリカGP 角田裕毅(アルファタウリ)とチームメンバーの集合写真

────────────────────────
筆者エディ・エディントンについて

 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちがあるのはバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。

© 株式会社三栄