マリア像受け入れ“迷走” 南島原の市民団体、募金足りず 市に支援求め市議会へ請願

聖マリア観音像の移設作業に取り組む親松氏(右)と関係者=南島原市南有馬町

 「政教分離」を巡り、かつて南島原市で論争を巻き起こした「聖マリア観音像」の受け入れが“迷走”している。約7年前、官民で受け入れを目指したが、「行政と宗教の分離を定めた憲法に反する」という市民の反対で頓挫。昨年から市民団体が受け入れ募金を始めたが、像を移設した後の今年秋、約5千万円の資金不足が発覚。1日開会の定例市議会に市民団体が財政支援を求める請願を提出する事態に陥っている。
 島原の乱(1637~38年)の舞台となった原城跡を一望する南有馬町白木野地区。今夏、作者の親松(おやまつ)英治氏(88)のアトリエがある神奈川県藤沢市から像を移設し、約2千平方メートルの私有地に立つ鉄骨造りの展示室に“安置”した。
 受け入れ主体の一般社団法人「南島原世界遺産市民の会」(石川嘉則代表理事)は移送・設置などの費用を約1億円と試算し、寄付を募っているが、11月末現在で約4300万円。事務局によるとギャラリーや管理室、売店、駐車場などの工事費約5千万円が不足し、11月に予定していた報道向け公開も延期した。
 そこで、同会は1日、市に財政支援を求める請願を市議会に提出。市議会総務委員会で近く審査する。「私費も投じたが、想定した事業費の半分にも満たない。国宝クラスの作品だけに必ずや本県、南島原市の活性化につながるはず。会も努力を続けるので市民の力をお借りしたい」。石川代表理事は、像を生かした地域活性化を訴える。
 しかし、市民の視線は厳しい。50代の男性会社員は「市が整備中の自転車歩行者専用道路や世界遺産センターなどの公共事業を抱えている上、少子高齢化で財政は苦しい。公費を投入するべきではない」、40代主婦は「民間でやる、というから拍手した。工事費だけではなく、人件費や固定資産税などの管理費も相当かかるはず。そんな状況で事業を始めるなんて見切り発車では」と冷ややかだ。
 市内のある寺院は長崎新聞社の取材に「沈黙」を貫いているが、別の仏教関係者は「市長自ら(受け入れを辞退し)沈静化させた。事と次第によっては行動に移す」と市の財政支援に反対する構えだ。
 市は親松氏の寄贈申し出を受け、2015年、移送費用など約2800万円を予算化したが、市民から「政教分離に反する」との声が上がり、松本政博市長は「(政教分離に)反しないが、市を二分する懸念があり、混乱を避けたい」と受贈を断念した経緯がある。今回の請願提出で「政教分離」論争が再燃する恐れもあり、松本市長は「請願が出たばかり」と言及を避けた。


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