きょうから秩父夜祭、待望の見どころは 大勢の客が集まる見込み 豪華絢爛な山車6基、秩父市中心部へ

秩父神社を出発して御旅所へ向かう下郷笠鉾=2019年12月3日午後7時ごろ、秩父市の本町交差点

 日本三大曳山(ひきやま)祭に数えられる、秩父夜祭(ユネスコ無形文化遺産)が12月2、3日に埼玉県秩父市で開かれる。全国各地の祭事も開催されていることから、例年に近い形で、豪華絢爛(けんらん)な6基の山車が市中心部を巡る。

 12月2日の宵宮は、通常通り、諏訪渡り神事を執り行う。同3日の大祭は同神社本殿での祭典は規模を縮小するが、御神幸祭、神社行列のコースや御神輿(みこし)、御神馬供奉(ぐぶ)は通常通り行う。秩父流鏑馬(やぶさめ)の奉納は自粛する。

 宮地屋台の総行事長、松田洋文さん(67)は「3年ぶりの祭りで活気づいているが、感染症の拡大が一番の心配。今年の祭りは『例年とは違う』ことを肝に銘じたい」と、気を引き締める。例年なら、打ち合わせや太鼓ならしの時に会合(飲み会)を開くが、今年は町会みんなで集まる場は設けない。

 同屋台は今年、秩父夜祭の見どころの一つである「屋台芝居」の舞台になる。松田さんは「土曜開催ということもあり、芝居が行われる秩父神社境内には、恐らく多くの人が集まる。警備の方の力を借りて、間隔の確保を心がけたい」と語った。

■原点の舞台で三段目「車引」

 今年は山車の曳(ひ)き回しと共に、屋台両袖に舞台を特設しての地芝居(秩父歌舞伎)も3年ぶりに復活する。秩父歌舞伎正和会は、演目「菅原伝授手習鑑 三段目吉田社頭車引之場」を、今年の当番町となる宮地の屋台で2日間にわたり上演。同会の坂本益義会長(73)は「夜祭の舞台は自分たちの活動の原点。各屋台町会の協力で伝統が維持できていることに感謝し、今回はわれわれの十八番(おはこ)の演目で会場を魅了したい」と力を込める。

 同会は戦後間もない1947年、「出徒遺家族慰問の夕べ」で歌舞伎を演じた秩父地域の人々が中心となって結成。今年3月で75周年を迎えた。活動の場は、秩父祭における「屋台芝居」にはじまり、椿森諏訪神社(同市上影森)、市内の農村歌舞伎舞台、関東圏内の各神社など幅広く、見物料金は取っていない。

 「われわれはプロではなく、本当に歌舞伎が好きな人たちで構成している。かつら、衣裳の手配や手入れ、舞台作り、演出など全て、自分たちで行う」と坂本会長は説明する。コロナ禍における体調管理も自己防衛を徹底。中学生から70代の現メンバー24人は、検温、消毒、マスク着用を心がけ、日々稽古に打ち込む。

 3年ぶりの夜祭公演は、秩父地方の歌舞伎で上演頻度が最も多い三段目車引。「原点に返るつもりで、歌舞伎を初めて見る人たちにも分かりやすい演目を選んだ。三つ子の兄弟(梅王丸、松王丸、桜丸)の所作が見どころ」と坂本会長は話す。

 宮地屋台での上演は、2日正午から愛宕神社(同市中宮地町28)境内で、3日は午後0時半から秩父神社(同市番場町)境内で行われる。3日午後4時からは矢尾百貨店(同市上町)で、同会の秩父歌舞伎公演が予定されている。

■屋台組み立て、準備万端に

 秩父市内の各屋台町会で11月27日、屋台(国指定重要有形民俗文化財)の組み立て作業が3年ぶりに行われていた。

 屋台や笠鉾(かさぼこ)を持つ6町会のうち、中町は午前8時から、町内の屋台収蔵庫に関係者約100人が集まった。くぎを一本も使わずに部材を組み合わせる昔ながらの工法で、土台に柱を立てて屋根を乗せ、極彩色の彫刻を麻縄で手際よく結んだ。

 中町行事長の新井宏さん(66)は「3年ぶりの作業に、みんなが苦戦するかと思ったが、体で覚えた長年の経験が生きて、スムーズに進んだ。感染者やけが人を出さないように、健康と安全第一で祭りを盛り上げたい」と話していた。

■腕をならし、高鳴る鼓動

 秩父夜祭を前にして、屋台と笠鉾(かさぼこ)を出す各町会の「太鼓ならし」が11月25日から本格的に始まっていた。

 太鼓ならしは祭り本番で、屋台と笠鉾の引き手を鼓舞する勇壮な屋台ばやしの練習。太鼓を鳴らすと同時に、太鼓の皮を馴(な)らし、たたき手の腕を慣らすことが由来とされる。

 笠鉾を持つ中近町会は、午後7時に秩父市内の中村町公会堂に集まり、5歳から70代までの約40人が笛や鐘の音色に合わせて、小気味よく太鼓をたたいた。感染症防止のため、例年より広い練習場を確保し、30日まで太鼓ならしを行う。太鼓の指導をする太鼓長の三沢勝男さん(55)は「換気や消毒、体温チェックを徹底し、全員が緊張感を持って練習に取り組んでいく」と話した。

 新型コロナ禍で3年ぶりとあって、たたき手たちは、太鼓の革の張り具合を確かめながら腕をならし、夜祭に向けて気持ちを高めた。

本番に備え、宮地屋台の回り舞台を確認する秩父歌舞伎正和会の坂本益義会長(手前)=11月27日午後、秩父市中宮地町
手際よく屋台を組み立てる中町のメンバー=11月27日午後3時半ごろ、秩父市中町
真剣な表情で太鼓をならす、たたき手たち=11月25日午後7時ごろ、秩父市の中村町公会堂

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