花は好きですか?
野に咲く花も、一輪挿しも、花束も見ているだけで心が和みますよね。
鮮やかな色でもドライフラワーのようにくすんだ色味でも、心も空間も華やかにしてくれる力がある花。
そんな花を扱う「宮原生花店(みやはらせいかてん)」は倉敷市水島にある店です。
取材をとおして、花の魅力がより深まると同時に、社会の変化にあわせて店頭に並ぶ商品も変わると知りました。
奥深い花の世界を紹介します。
宮原生花店の歴史
宮原生花店は、1968年に水島で創業しました。
高度経済成長期を生きた先代が「これから先、精神的な豊かさをひとびとは求める時代が来るだろう」と考え、一から華道を習い、夫婦で荷車を押しながら花を届けたそうです。
花を売るのと同時に華道の教室を開いていました。
しかし華道の先生に花を売りつつ、自身も教室を開くことで商売がぶつかるときがくると思い、教えるほうを縮小するように。
現在は二代目社長である宮原一夫(みやはら かずお)さんが店の切り盛り。
華道用の他、切り花や鉢植え、ドライフラワー、ハーバリウムなど扱うものは多岐にわたります。
花関連のノベルティグッズの作成から販売や会場の装飾・装花まで、さまざまなサービスも。
教室は華道から形を変えて、ハーバリウムとフラワーアレンジメントで展開しています。
2019年には、「宮原生花店」だと生花のみを扱うようにとらえられるため、屋号として残しつつ社名を有限会社MIYAHARAに。
では、宮原生花店の商品やサービスの一部を紹介しましょう。
幅広い商品を取り扱う花屋
お客さんに求められるものを足していき、今ではさまざまな商品を取り扱っています。
鉢植え
花屋と聞いて、思いつくのは鉢植えや切り花ではないでしょうか。
鉢植えは日当たりがいい場所に置かれています。
▼屋外の鉢植え。取材が10月だったので、ハロウィン商品がありました。
屋内は明るい場所に緑の鉢植えが。
家にひとつ緑があるだけで、癒されそうですね。
見事な胡蝶蘭(こちょうらん)も。
開店祝いのときによく見かける花ですね。
宮原生花店の胡蝶蘭を求めて遠方からお客さんが訪ねてくるのだとか。
切り花
切り花は低い温度での管理が必要なので冷蔵庫に保管されています。
冷蔵庫を使用すると、花を長持ちさせ、水を腐りにくくする効果があるそうです。
▼供花用の菊。葬儀などに使われます。
▼色鮮やかな洋花。花屋のイメージはこれらのカラフルな花ではないでしょうか。
ドライフラワー
近年、若いひとの間で人気になっているドライフラワー。
成人式で頭の花飾りや結婚式のブーケにドライフラワーを用いるひとが増えているそうです。
雑貨屋の商品として並んだり、カフェでさりげなく飾られていたりすることも増えました。
需要の高まりを受け、宮原生花店では専用の乾燥室を買ったそうです。
花びらが開いてしまい、かつては捨てる運命だった花もドライフラワーにすることで新たな付加価値を付けられるように。
資源を大切にする取り組みにもなっているそうです。
ハーバリウム&ソープフラワー
色鮮やかなハーバリウムもあります。
プリザーブドフラワーやドライフラワーをガラス容器に入れて、専用のオイルに浸したものなので枯れる心配がありません。
自分用はもちろん、ギフトにも喜ばれるアイテムです。
最近は病院に生花の持ち込みをできないところが多いそうですが、プリザーブドフラワーなら問題ありません。
▼倉敷市船穂産のスイートピーが入ったものもありました。
ハーバリウムのように、他にも枯れない花があります。
ソープフラワーという、石けんで作られる造花です。
見た目はまるで生花のようですが、石けんなので枯れる心配がありません。
花に関するサービスを提供
宮原生花店では販売だけでなく、花に関するサービスも展開しています。
サービスの一部を紹介しましょう。
教室
ハーバリウムとフラワーアレンジメントの教室を開いています。
教室は建物の2階に。
世界にひとつだけのオリジナル作品を作るのは楽しいでしょうね。
自分が作ったものって格別ですよね。
▼ハーバリウムの素材
作品を自宅に飾ったり、プレゼントしたりすると心が豊かになりそうです。
形も色彩も豊かな花を扱うと、センスも磨かれていくでしょうね。
記念に残したい花を加工
専用の乾燥室を購入したことで、ドライフラワーに関するサービスも提供できるように。
記念に残したい花をお客さんが持ち込んで、加工してもらえます。
短時間で乾燥させるので、きれいな形を保てるそうです。
エターナルフラワーという技術でも花を加工できます。
生花よりはヴィンテージ感のある色合いですが、まるで生きているような仕上がりです。
特別な加工により、つるんとした質感まで残っています。
ドライフラワーとプリザーブドフラワーの中間のような見た目といったら伝わるでしょうか。
印刷やデザイン業、ノベルティ作成も手掛ける
花屋では珍しく、印刷やデザイン事業も手掛けています。
「想いを誰かに伝える」という面では花と同じとのこと。
チラシやポスター、名刺といった紙媒体やのぼりやタペストリーなどの布印刷もしているそうです。
企業用にオリジナル商品も作っています。
ハーバリウムが入ったボールペンのノベルティです。
こんなかわいいボールペンをもらったらうれしくなりますよね。
他にもさまざまなノベルティを作っているそうです。
多様な花木やサービスを展開する宮原生花店。
宮原明身(みやはら あけみ)さんと、宮原克典(みやはら かつのり)さんに話を聞きました。
宮原明身さんと宮原克典さんにインタビュー
華道の先生へ花を売るところからスタートした宮原生花店。
扱う花木やサービスを足していき、今では多種多様な事業を展開しています。
店を切り盛りする宮原明身さんと、宮原克典さんにインタビューしました。
時代の変化で、求められる花も変わる
──開業の経緯や店の歴史を教えてください。
宮原明身(敬称略)──
前身は、母が花を売りつつ、初代の父が華道家だったので、華道を教えるところからでした。
そして1989年に法人化し、有限会社宮原生花店となり、のちに華道の先生へお稽古花を提供できるようにしました。
1994年に今の店舗ができて、私の代で小売をしながらギフト用の花も売りました。
バブル期には結婚式が派手になり、卓上の装花が求められるように。
しだいに生け花からフラワーアレンジメントに移行したので、教室を開きました。
フラワーアレンジメントが広がってくるのが今の時代の様式に合っているのかと。
住宅から床の間がなくなり、家が洋風になると器がガラスになって、剣山(けんざん)に生けることも減りましたね。
宮原克典(敬称略)──
昔は花嫁修業で生け花を学んでいましたけど、それもなくなりました。
宮原明身──
時代の流れで求められるものが変わって、華道の先生が買えるお花屋さんがなくなってきているんです。
華道は伝統文化ですし、なくすわけにもいかないので「華道の先生が買いに来る花屋」であることはぶらさずに続けています。
サービスは減らすんじゃなくて、足していくって感じです。
華道をベースにフラワーアレンジメントを足して。
お客様のニーズがいろいろと変わってきていますので。
一時期ガーデニングをするのがブームだった時代もありました。
そのときは、扱う苗も多かったですね。
カゴのなかにポットの苗を寄せ集める、寄せカゴがよく売れましたね。
だんだん共働きになって、みなさん忙しくなるとお庭に花を植えないようになって。
ガーデニングって季節ごとに植え替えが必要で、そこまで手をかけられないかたが増えました。
昔は庭に花があふれていましたが、今はシンボルツリーと花が少しある時代に。
私たちは、今は何が求められているのかを知って、順応していかないといけません。
コロナ禍でも需要が変わってきて、ステイホームするなかで、家に花や緑があるといいよねという志向になりました。
贈答としての花から自宅や自分用へと変わってきているように感じます。
そこで花のサブスクリプション(定期的に花を届けるサービス)を始めました。
花の魅力
──宮原さんにとって、花の魅力とは?
宮原明身──
花にはすごく力があると思うんです。
花を見ているときは、すごく心が穏やかで平和ですよね。
家に一輪花があるだけで、つぼみが咲いたなどの変化に気付けて気持ちが穏やかになると思います。
花をもらったひとも贈ったひとも幸せになれるんじゃないかと。
贈るひとの気持ちも届くと思うんです。
当店では、大切な花が長持ちするように「思いやりカード」と名付けた延命剤をお付けしています。
思いやりカードがあれば、水換えをしなくても1週間から10日、花が持ちますよ。
花に触れる機会を増やしたい
宮原明身──
小さい頃に花に触れていたら、人生が変わると思っています。
私は小学校5年生対象に花について教える、花育(はないく)に力を入れているんです。
男の子も女の子も非常に感受性が高くて、「花っていいな」って感じてもらえています。
今まで花屋に足を運んだことのない子は、きっとこの先も花に触れる機会がないと思うんですよね。
宮原克典──
昔のように家に庭があって、花を植えている家が少なくなっているなかで、子どもたちが花に触れる機会が減りましたしね。
宮原明身──
花の良さを人生の早い段階で触れてもらえたらうれしいです。
一度花に触れる体験をすると、花屋に足を運びやすくなるんじゃないかなと。
花のある暮らしを広げたいですね。
花育で生徒が家に花を持って帰ることがあるんですが、「家族みんなが喜んだ」という感想をもらいます。
私が「花の力を感じてみてください。花は、みんなを平和にしますよ」と言った意味がわかった、という感想も。
映像で見るのと実際に花に触れるのとでは大きな違いですよね。
まずは1本、触れて観察してもらいたいと思っています。
宮原克典──
もらったものを残したいからドライフラワーにしたいひとなど、いろいろなルートから花に触れる機会があると思うんですよね。
花へのいろいろなアプローチに対応できる花屋にしていきたいですね。
おわりに
さまざまなチャレンジをして、ひとびとが求めるものを提供し続ける宮原生花店。
失敗をすることもあったそうですが、次に何ができるかと常に考えサービスを展開してきました。
時代により、提供方法が変わっていますが、ひとびとが花に求めるものは同じではないでしょうか。
贈ってももらってもうれしくなりますし、見ているだけで心が穏やかになります。
この先も花の力は変わらずにひとを幸せにしてくれるでしょう。
取材をとおして、宮原生花店は企業理念の「花には水、人には愛」とあるように、花への愛情とひとびと心の豊かさや幸せを願っている店だと気付きました。