「習近平は退陣せよ」中国抗議デモと江沢民氏の死去|和田政宗 中国でゼロコロナ政策に対する抗議デモが拡大するなか、闘病中だった江沢民・元国家主席が亡くなった。独裁体制が盤石となった習近平国家主席は、毛沢東も成し遂げられなかった台湾統一に向けた動きを着々と進めている――。

天安門事件以来の〝抗議デモ〟

中国でゼロコロナ政策に対する抗議デモが拡大している。首都・北京に加え、上海、広州、武漢など10以上の都市に拡大し、規模も大きくなっている。抗議デモにおいては、「封鎖はいらない、自由が欲しい」「PCR検査は不要、食事が必要」とのシュプレヒコールが上げられている。

そして、上海のデモでは大勢の人たちが、「習近平は退陣せよ」「共産党は退陣せよ」などと叫び、何人もが警察に逮捕された。これらはSNSで拡散され、警察官が拘束時にデモ参加者に暴行を加えている様子も明らかとなっている。さらに、習近平国家主席の母校・北京の清華大学など50超の大学でも抗議活動が行われたと香港メディアなどが伝えている。

事の発端は、11月25日にウイグルの中心都市ウルムチの高層マンションで起きた火災である。この火災では10人が亡くなったが、ロックダウンによって避難経路が封鎖されていたため逃げられなかったとの情報がSNSなどで広がった。これにより中国国民は、厳しいゼロコロナ政策によって犠牲者が出たと考え、政府に反感を持ったのである。

翌26日にはウルムチで抗議デモが起き、ロックダウンの解除を求めるなどした。そして、全国各地に抗議デモは広がり、体制批判も加わっていった。

習近平国家主席や共産党への批判はこれまで封じ込められており、批判が公然と行われていることに欧米のメディアなどからは驚きの声が上がっている。こうした動きは、天安門事件以来とみられるが、抗議デモがさらに激化するかは慎重に見極めなくてはならない。それはデモ参加者自身が、これ以上の抗議を行うと弾圧されるかもしれないと分かっているという点にある。

各地のデモでは白い紙が掲げられ、「白紙運動」とも呼ばれている。これは、「言論の自由がない」ということを表すためであるが、体制批判のスローガンを書かないことで、逮捕の危険性を少なくしようというものだ。

台湾統一、台湾侵略に向けた動き

白い紙を掲げる抗議活動は2020年に香港で行われた。「香港国家安全維持法」が施行されたことにより、掲げたスローガンが違法とされ逮捕されることを避けるため、白い紙を掲げたのだ。

そのため、現時点では中国政府は情報統制を行っているものの、鎮圧には動いていない。先月の共産党大会前であれば、より大ごとであり鎮圧することも考えられたが、現在の抗議活動の状況では、抗議デモ参加者の何人かを見せしめ的に逮捕するということにとどまっている。

中国国民の怒りにさらに火がついて抗議デモが激化すれば、中国政府は鎮圧に乗り出すのだろうが、天安門事件の時のように鎮圧時に何人死のうが構わないというのが中国政府の考え方であり、どこまでの抗議活動を行うか、デモ参加者の手探りの状況が続いている。

こうした中、闘病中だった江沢民・元国家主席が11月30日に亡くなった。江沢民氏は習近平氏を国家主席に引き上げた人物であるが、その権力を恐れた習近平国家主席の「反腐敗運動」により、江沢民派の中心人物は徹底的に駆逐された。それでも、江沢民派の人物は共産党内におり、習氏に忠誠を誓っているものの一定の不安定要素であった。

しかし、江沢民氏の死去によってそうした懸念もなくなり、より習近平独裁体制は盤石となった。だからこそ、デモに対しても現在の状況であれば、政府として鎮圧行動を取らなくても体制は揺るがないと考えている。習近平国家主席は、毛沢東も成し遂げられなかった台湾統一、台湾侵略に向けた動きを着々と進めているのである。

手段を選ばない習近平国家主席

一方、台湾においては、統一地方選で与党・民進党が敗れ、蔡英文総統は民進党主席を辞任した。蒋介石のひ孫・蒋万安氏が台北市長に当選するなどしたことから、2年後の2024年の総統選で、国民党に総統を奪還されるのではないかという懸念の声を日本国内で聞く。

中国との融和姿勢を見せてきた国民党政権になれば、台湾の状況はおかしなことになるという懸念である。台湾の総統は1期4年で連続2期までで、2期目の蔡英文総統は次回総統選には立候補できない。

民進党の総統選候補者は頼清徳副総統が有力であるが、国民党はまだ有力な総統候補の名が挙がっていない。蒋万安氏は台北市長に当選したばかりであり、次期総統選への立候補は無理とみられ、台北の隣の新北市長選で大差で再選を果たした侯友宜氏に期待の声が上がる。

党主席の朱立倫氏は昨年の党主席選で、次期総統選については「勝てる候補者を選ぶ」として、自らの立候補を否定したが、有力な候補者が出なければ自ら立候補することもあり得る。ただ、いずれにしても民進党の頼清徳副総統候補が有利とみられ、統一地方選の結果がそのまま総統選の結果にはつながらないと考える。

台湾の人々は中国の脅威を強く感じており、しっかりと中国と対峙する民進党政権の継続を選択する可能性が強いと思う。

中国の侵略の脅威が迫る中、台湾有事は日本有事であり、我が国も台湾の動向を見守るとともに、中国の侵略を抑止しなければならない。中国において抗議デモが起きても、習近平国家主席は台湾侵略に向けた動きを止めることはないであろう。

繰り返しになるが、いざという時は天安門事件のように国民の命が失われても強引に鎮圧する。台湾統一という目標の達成のために習近平国家主席は手段を選ばない。それを我々はしっかりと認識し、対処しなくてはならない。

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和田政宗 | Hanadaプラス

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