ほっこりなのに、沼が深い! 注目のシェアハウス・コメディーアニメ「万聖街」の原作者が語る、関係性を描く醍醐味

漫画家・零子还有钞先生によるWEB漫画「1031万聖街」が原作の、中国のアニメ「万聖街」。その日本語吹替版が、11月よりTOKYO MXほかで放送中です。アニメ制作を映画「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)」の寒木春華(HMCH)スタジオが手掛けていることでも話題の本作は、シェアハウスが舞台のコメディー作品。主人公の心優しい悪魔・ニール(声:山下大輝)が、人間界で吸血鬼のアイラ(声:福山潤)や狼人間のダーマオ(声:前野智昭)といった、“人ならざる者たち”と一緒に暮らす波瀾(はらん)万丈な日常生活が、ユーモアたっぷり&コミカルに描かれています。

11月28日に新たに誕生したアニメ&カルチャーマガジン「TVガイドA Stars vol.1」では、そんな「万聖街 日本語吹替版」の描きおろしイラスト&特集記事を掲載。今回は、誌面には掲載しきれなかった零子还有钞先生のスペシャルインタビューをTVガイドWeb限定で公開! 先生が注目するキャラクターの関係性や、創作で大切にしていることを伺いました。

「声優さんはとてもプロフェッショナルでした」

── 吹替版が放送されることになりました。作品が中国を飛び出して幅広い層に届くことについて、今のお気持ちをお聞かせください。

「編集さんから『日本で吹替版を作る』という話を聞いた時、興奮して叫んでしまいました。すぐに、私の友達にもこの話をしたいと思いました(もちろん今は落ち着きましたが…)。今の気持ちは、期待と感動といったところでしょうか。皆さんの本作に対する感想を早く聞きたいです。日本の皆さんに受け入れられるかという不安もありますが、やっぱり『万聖街』が日本に進出したことは、とてもうれしく思っています。また、日本の皆さんの、キャラクターに対する印象も気になっています。メインのキャラクターは、とても時間をかけて作り上げていますし、私に長年寄り添ってくれた仲間たちでもあるので、皆さんがアニメを見た後、彼らにどのような感想を抱くのか、知りたいです」

──数年前から日本のファンの間でも「万聖街」が話題になっていましたが、反響はご存じでしたか?

「はい、存じています。『万聖街』のアニメが中国で配信されてから気付きました。当時、日本のファンの方がweiboで『万聖街』のファンアートなどを投稿していましたから。Twitterにも、海外のファンが感想をツイートされていて、その中に多くの日本人ファンがいるのも存じております」

──日本語版の声優さんのお声はいかがでしたか?

「本当に完璧でした! すべてのキャラが私の想像通り。ほとんどの声優さんのアフレコをリモートで拝見いたしましたが、皆さんとてもプロフェッショナルでした!」

シェアハウスで出会った者同士の、絶妙な関係性が魅力

──「万聖街」は、悪魔や吸血鬼、狼人間といったさまざまな種族のキャラクターたちのシェアハウス・コメディー。キャラクターの関係性やストーリー展開がとても魅力的ですが、作品や世界観がどのように生まれたのか、教えてください。

「『万聖街』は、もともと『非人哉』(中国の人気IP)の世界をベースにして生み出された作品です。『非人哉』は中国の伝統的な神獣や鬼、もののけの物語ですが、『万聖街』は西方の伝説のキャラクターを選びました。しかし、やはり自分が慣れ親しんだ環境を描きたかったので、舞台を北京にしました。外国の妖怪が北京で生活しているという物語を描いたら、きっと面白いと思いました」

「比較的重視した部分は、絆というか、愛というか…。私は、さまざまな感情のつながりを描くのが好きです。例えば、友達であるリン先生(声:石川界人)やアイラのような感じですね。あの2人の関係が好き。友達という関係性の上で、お互いに精神的な苦しみを与え合っているところとか(笑)。それに、親族間や夫婦間など、他人からの愛情というのは、創作するに値します。動物からの愛、趣味からの愛、自分からの愛といったものも、本当に魅力的です。なので、そういったテーマを取り扱うのが好きです」

原作者によるキャラクター解説&裏設定

──個性豊かなキャラクターについて、魅力や特徴を教えてください。

◆ニール(声:山下大輝)

「ニールを描く時に重視したのは、その少女的要素です。少女の心を持った男の子といいますか…ロマンチックで、弱々しくて、平和で、強烈な欲望を持ちません。周りに対しても、博愛的です(ニックを除いては…笑)。兄のニック(声:中村悠一)に対する彼の感情は少し複雑。兄弟としてニックを愛していますが、悪魔としてはニックの方が優秀で、成長過程においてニールは嫉妬と羨望(せんぼう)を感じてきました。実家にいた頃のニールは、自分がニックのように優秀になることは、一生ないだろうと思っていたわけです。しかし家を出たことで、ニックのように優秀でなくてもいいこと、人それぞれの生き方があり、自分と自分を尊重してくれる人が幸せになることが重要であることを理解したんです」

◆アイラ(声:福山潤)

「適当と自由は、アイラの一番重要な特性。縛られるのを嫌い、大きなトラブルは起こさない程度のいたずら心がある(ときたま面倒ですが)。またゲームが大好きで、彼の人生においては非常に重要な構成要素です。友達がいなくても、お金がなくても、いい生活環境でなくても、ゲームだけはなくてはならない要素です」

◆ダーマオ(声:前野智昭)

「シンプルにふびんな社畜ですね。裏がないのがすごくかわいい。簡単に人を信用するし、周りからいじられやすいというのもいいですね(笑)。人に安心感を与えたりペットになったりするという意味では、リン先生以外にとってはいい存在。彼は大家族の中であまり重視されずに育ったので、自分を卑下しているところがあります。これは漫画ではあまり描かれていませんが、私の中で、彼はそういう人です」

◆リン(声:石川界人)

「リン先生の特徴は、堅物であると同時に優しいという点でしょうか。みんなからすると厳格なイメージですが、本人はよかれと思ってやっています。もともとは自分に対しても非常に厳しかったのですが、人間界で生活しているうちに緩くなってきた感じです(でも他人からすると、まだまだ厳しい)。今は普通な生活を結構楽しんでいる感じですね」

◆リリィ(声:高野麻里佳)

「“天使っぽくない天使”。リリィは、天国ではそのように評価されていました。アクティブで好奇心旺盛な性格なので、天国のさまざまな規範に適応できなかったんです。となると、天国にいても面白くない。だから、お兄ちゃんを頼って人間界にやってきました。情熱的で、活発な女の子。芸術の才能もあります。リンは、彼女にとってNo.1で、代替が利かない存在です」

◆ニック(声:中村悠一)

「めちゃめちゃ魅力的な人です! 表面上は不真面目ですが、意外なところで頼りになるし、仕事も真面目にします。私は彼の、家庭環境が原因で愛情表現が苦手なところ。人を愛したいし、愛しているんですけど、失うのを怖がって、あまり向き合えないところ。たくさんの人と交際をしても、何となく終わってしまうところ。そして、父親に認められたいと思っているところが気に入っています」

◆アブー(声:堀江瞬)

「ミステリアスなキャラですね。ミステリアスであることがキャラクターとして重要な部分でもあるので、あまり情報を出さずに、でも面白い部分を表現しないといけません。ほかの人に、“何やら物語があるキャラらしい”と認知させる必要がある。例えば、彼はほとんどしゃべらずに、“ううう”という声しか出さないのですが、それがすごく面白いし、私は好きです。それによって、表現できることもあります。また、存在を忘れ去られやすいというのも特徴です。実は、水に漬かった後の彼はとてもイケメンだったり、1031号室では最も年長者だったりすることも、彼の面白い部分ですね(あまり存在感はありませんが)」

描いていて面白いのは「リン先生&ニックの関係」

──先生の中で、「この2人の関係性は描いていて面白い!」と思うキャラクターはいますか?

「たくさんいます。例えばリン先生とニック。漫画でも多くのページを割いて、2人の関係を描いています。ニックというキャラクターをつくった理由は、リン先生を揺るがすため。リン先生は、1031号室の大家さんとして尊敬されていて、みんなも彼の言うことを聞き、1031号室のバランスを保つ役割を担っています。そのバランスを崩し、リン先生の権威性を揺るがすキャラクターが必要だと思って生まれたのが、ニック。当初は、ニックとリン先生は犬猿の仲、水と油のような関係でした。でも今では、お互いに理解し合える友達のような関係になりました。これも、必要なキャラクターの成長だと思っています」

「それから、ニックとニールの関係も好きです。兄弟ではありますが、2人はあまり仲が良くありません。あの心優しいニールが、唯一悪いことをしようをする時、その気持ちはすべてニックに注がれています。でもニックは、それをニールの愛情表現だと思って全力で応えようとします。その感じが、個人的にすごく面白いと思っています」

和山やま作品に思わず涙…日本の漫画&お笑い芸人に注目

──先生は日本の漫画やアニメ作品はご覧になりますか? 好きな作品や影響を受けたクリエーターがいれば教えてください。

「もちろんです。学生時代にたくさんの日本の漫画を読んだからこそ、漫画家になろうと思いました。当時好きだったのは、『ONE PIECE』と『アイシールド21』です。毎週の更新が楽しみで、クラスのみんなとよく感想を言い合っていました。ここ数年は、和山やま先生の漫画が好きです。日本の漫画に最もハマっていたのが中学と高校の頃で、大学からはあまり読まなくなっていて…。でも卒業後、仕事の関係でまた漫画を読むようになった時に、初めて和山やま先生の作品に出合ったんです。読ませていただいた時は、思わず泣いてしまいました。こんな素晴らしい作品を読めるなんて、なんて幸せだろうと思って。繊細でユーモアあふれる和山先生の作品が本当に好きで、あらためて漫画が好きになりました。今後も、和山やま先生の作品を追いかけていきたいと思っています」

──日本のお笑い芸人もお好きだそうですが、「万聖街」のストーリーやキャラクターを考える際、ヒントにした部分などはありますか?

「なぜお笑い芸人が好きだって知っているんですか!?(笑)。ヒントにした部分…。以前、自分の漫画に霜降り明星さんをモデルにしたキャラを描いたことがあります。が、すぐに日本の読者に発見されてしまいました(笑)。2020年に友達に勧められて日本の漫才を見るようになったのですが、すぐに好きになりました。その後、漫才だけでなく喜劇などのさまざまなお笑いに触れましたが、どれも面白くて、『あぁ、お笑いは国を選ばないのだな、これは素晴らしいことだ!』と思いました。ほかにも、ゆにばーすさんが好きで、ぜひ『M-1グランプリ』で優勝してほしいです。いつか日本に行ってお笑いのステージを見たいと思っているので、夢がかなうといいなと思っています」

──最後に、作品を楽しみにしている日本のファンへメッセージをお願いします!

「アニメ『万聖街』は、美術が非常に素晴らしくて、すごく気に入っています。そして、キャラクターもとてもかわいいんです! それから、原作ではバラバラに配置されていたストーリーをアニメのシナリオ担当の方がうまく再構築して、スムーズにしてくれています。また、アニメでは、漫画にないお話や設定が追加されています。それが、アニメをさらに完璧で面白いものにしています。特に、ニールの中に魔王が眠っているという設定によって、ニールのキャラクター性がさらに豊かになり、漫画の軽快な雰囲気も奇麗に残すことができています。HMCHスタジオさんが私の漫画をうまく動かしてくださり、音を付けてくれて本当に感謝しています。そして今は海外に展開しています。もっと多くの方が『万聖街』を見てくれることを期待していますし、このアニメが皆さんの期待を裏切らないことを約束します!」

【プロフィール】

零子还有钞(Ling zi hai you chao)
漫画家。アニメ「万聖街」の原作となるWEB漫画「1031万圣街」を手掛けている。

【番組情報】

テレビアニメ「万聖街 日本語吹替版」
TOKYO MXほか
金曜 深夜0:00~0:30
ⒸFENZ, Inc. / Tencent / TIANWEN KADOKAWA

【商品情報】

「TVガイド A Stars vol.01」
定価:1,540円(税込)

東京ニュース通信社から新たに誕生したアニメ&カルチャーマガジン「TVガイドA Stars Vol.1」では、「万聖街 日本語吹替版」を特集! アイラ&ダーマオの描きおろしイラストをはじめ、福山潤(アイラ役)・前野智昭(ダーマオ役)らキャスト&スタッフインタビューを掲載。「TVガイドA Stars Vol.1」は、全国の書店やオンライン書店にて発売中。

取材/TVガイドA Stars編集部

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