ペットショップ生体展示販売が助長する飼い主の罪 未去勢で50頭以上に増えた犬遺棄、生後3カ月の仔猫に虐待【杉本彩のEva通信】

京都地裁の裁判に傍聴に訪れた杉本彩さん=京都府京都市中京区

「生体展示販売反対!」近年ペットショップの展示販売を反対する声が高まりつつある。生体展示販売とは、仔犬や仔猫などをショーケースに展示して販売するペットビジネスのことだ。この業態は、動物福祉の観点から問題が多い。だが、コロナ禍の外出自粛が始まった頃から急激にペット需要が高まり、ペットショップでの安易なペットの購入が増加した。当協会は、生体展示販売が徐々に縮小することを願い活動しているが、残念ながら私たちの活動に相反して、店舗は増加しているのが現状だ。では、生体展示販売があることで、安易な衝動買いを誘発する以外に、どんな問題が起こっているのか、改めて考えてみたい。

■業界が内包する問題

まず、現状のペット流通(繁殖場→競市→ペットショップ)は、ペットの大量生産・大量流通が目的であり、動物が不適切な扱いを受けやすい業態だ。また、動物福祉を重んじれば経費がかかるため、利益だけを追求し、動物の苦痛やストレスに配慮せず残忍な動物虐待までおきている繁殖場もある。またペットショップのバックヤードでは、深刻なネグレクトがあるとの通報も多い。

そして次に挙げるのは、ずさんな繁殖による動物の健康問題である。障がいや先天性疾患をもって生まれてくる犬猫がいる。見た目にわからないと問題を隠して販売されることがあり、消費者は気づかずにペットを購入する。それが繁殖事業者の乱繁殖によるものと気づかず、莫大な医療費と看病による負担を強いられる。たとえ事業者の問題に気づいても、愛情があるのでペットを手離すことはなく、大きな負担を強いられることに変わりない。動物への被害だけでなく、消費者被害にも繋がっているという問題もある。

そして、最後に挙げる2つはなかなか見えづらい問題だ。2つとも事件として明るみになったのだが、両方とも誰でもお金さえ払えば、何の知識も条件もなくペットが購入できることに起因している。たとえお金がなくてもローンを組むことで購入できる。またペットショップにとっては、どんな環境で飼育されるかなど知ったことではない。ペットを販売する第一種動物取扱業者が動物を販売する場合には、購入者に対し、あらかじめ、販売する動物の現在の状況を直接見せるとともに、今後の適正飼養のために対面により飼養保管方法やかかるおそれの高い疾病等、18項目の必要な情報を提供することが義務付けられている。しかし現状は、購入を検討している人が面倒と感じて購入をやめないよう、必要な説明が省かれていたり、知ってか知らずか間違ったことを教えることもあると聞く。そういう無責任な販売により購入した飼い主が起こしている事件だ。

■捨てられた57頭のミニチュアダックスフント

まず一つ目は、今年の夏頃、福岡県北九州市や宗像市などで小型犬のミニチュアダックスフント57頭が遺棄されていた事件だ。犬は道路の高架下や草むら、池の周辺などに遺棄され、夜道をさまよっていた。それに遭遇した人からの通報により警察が捜査した結果、遺棄した人物が判明。動物愛護法違反容疑で、北九州市の40代の夫婦が逮捕された。

この事件を知った時、人気の一犬種だけが遺棄されていたことや、犬の数からも、最初はペット事業者である繁殖屋の仕業だと思った。不用になった繁殖犬の遺棄事件が、かつて何度もあったからだ。しかし今事件は、一般飼養者による多頭飼育崩壊の末に起こった遺棄だった。適正飼養できる限界をはるかに超える数の動物を飼い、虐待的な環境下で飼育する多頭飼育崩壊。ペットショップが不妊・去勢の重要性とメリット、その時期など最低限必要な知識を伝えないため、多頭飼育崩壊とまではならなくても、望まない繁殖をさせてしまうケースは少なくないようだ。逮捕された夫婦は、交尾しないよう犬にオムツを付けていたが、発情期を迎えた犬に対して、そんなことで完璧に防げるはずもない。犬のストレスも相当だろう。

今事件は、20年前に雄のダックスフント1頭を購入し、その後、ミニチュアダックスフントだけを購入し続けたことが始まりだ。未去勢のため自家繁殖し続けた結果、50頭以上になってしまった。餌代だけでも月に13万円かかり、経済的にも余裕がなく、エアコンの壊れた閉め切った室内は蒸し風呂のようになり、犬たちは酷いネグレクト下に置かれていた。夫婦はインターネットで里親を探したが、高齢犬のため思うように見つからず、追いつめられて遺棄という最悪の選択をした。

遺棄した人間が悪いのは当然だが、販売する側の責任も大きい。たとえば、責任ある譲渡をしている動物愛護団体なら、成犬や成猫は不妊・去勢済みであるし、仔犬や仔猫なら、譲渡後、時期がきたら不妊・去勢手術をすることが譲渡条件になっている。また、その重要性をしっかり伝える。不幸な動物を生み出さないために、望まない出産をさせないようにする、それが責任ある譲渡というものである。それは、販売する側も同じ責任を自覚すべきだ。動物愛護団体とは目的の違う営利目的のビジネスであっても、売る側の責任はあるはず。なぜなら、無責任な販売が動物遺棄や虐待を誘発しているという事実があり、それが社会のデメリットとなっているからだ。不妊・去勢手術の重要性やメリットは、わかっている人にとっては当たり前のことでも、その当たり前は皆が共有しているわけではない。だからこそ、消費者への丁寧な説明が販売する側に求められる。

■振り回し壁に打ち付ける非道

そしてもう一つは、完全に室内で起こった動物虐待と殺傷だ。虐待を目的に購入したとしか思えない事件で、そういう人物でも、簡単に動物を入手できるという問題である。無責任に誰にでも販売するため、自分勝手な動物好きや、歪んだ欲望の持ち主にとって、ペットショップは簡単に欲望を満たしてくれる存在だ。

現在公判中の今事件は、ペットショップで購入したばかりの仔猫を殺したとして、京都府警が動物愛護法違反の疑いで、42歳の無職の男を逮捕した。猫は生後3カ月のスコティッシュ・フォールド・ロングヘアーだ。容疑者は、6月に京都市内のペットショップで約20万円で購入したが、その後間もなく動物病院に「猫が死んだので、診断書を書いてほしい」と申し出た。そして、ペットショップの生命保障制度を悪用しようとしたのだ。生命保障制度とは、加入すれば万が一購入後、病気・ケガなどで死亡した場合に保障が受けられる制度である。保障期間が長いほど、支払う保障金額も高くなる。保障期間内にケガや不慮の事故、病気や先天性疾患により、購入したペットが死亡した場合に、購入価格と同等の代わりのペットを提供してくれるというものだ。一見、消費者にとってありがたい制度に思えるかもしれないが、よく考えればそうではない。ずさんな管理環境で産まれた体に問題のある仔犬仔猫が、例えば販売後に死亡したとしても、消費者が払った高い保証金で、ペットショップ側の無責任な仕入れの尻拭いがされる制度としか思えない。優良ブリーダーから健康な犬猫の責任ある仕入れをしなくても、消費者とのトラブルを避け、損失を出さないよう、事業者に都合よくうまく考えられた制度だ。

この男は、その制度を悪用しようとし、男から死亡診断書を求められた獣医師が、不審に思い通報したことで事件化した。2019年の改正動物愛護法で、虐待の可能性がある場合は、獣医師の通報が「努力義務」から「義務」へと重いものになった。その影響なのか、近年、獣医師の通報により事件化するケースが増えた印象を受ける。動物虐待を見逃さないため、警察の捜査や司法においても、獣医師の役目はとても重要だ。今事件も、虐待を疑い死体の冷蔵保存をペットショップに提案するなどして、獣医師の機転が証拠の確保につながり逮捕に至った。死体にはウジが湧いていたそうだ。

その後も、エキゾチックショートヘア、マンチカン、アメリカンショートヘア、ミヌエットなど、短期間に合計100万円ほどを出資し、次々と仔猫を購入し、死に至らしめた。これらの新たな虐待と殺傷の疑いにより、同法違反罪で3回逮捕されている。私は公判を京都地裁で傍聴したが、以下がその公訴事実の抜粋だ。聞いているだけで苦しくなる、本当に残酷なものだった。

・すべての爪を根本まで深く切って出血させたり、ヒゲをタバコの火で焼損させる。 ・胸部に外傷を加えて肺出血させる。 ・しっぽをぶら下げ、カウボーイが頭上でロープを回すように猫を振り回し、しっぽを亜脱臼させ、猫は胸と腹を壁に打ちつけ、顔面も打ち、胸腹部外傷性ショックで死亡。舌は切断されていた。

その他にも、京都府警による家宅捜索で、他の猫1頭の死骸と、虐待された生後数カ月の猫3頭が見つかり保護された。公訴事実について、被疑者は一部否認しているが、外的要因により、死亡したことは事実である。このようなことをした理由は「特に意味はない」と述べているが、次回の被告人質問では、これだけの大金を注ぎ込み虐待した意図を明らかにしてほしい。

それにしても傍聴して改めて思ったことは、事件を起こしたという先入観なしに見ても、この被疑者の男が一人でペットショップに仔猫を購入しに来たとき、その醸し出す雰囲気から、仔猫の幸せや安全について、何の不安や心配もよぎらなかったのか、という疑問だった。動物愛護団体が保護犬猫を譲渡するとき、無職の40代の一人暮らしの男が譲渡を希望したら、間違いなく断るはずだ。動物愛護団体の場合、条件を満たしていなければ譲渡することはないし、さらに自宅訪問という何重かの確認があり、それをクリアしないと譲渡はしない。どれだけ慎重に進めても、それでも時には不幸な出来事や事件が起こることもある。これらの事実を鑑みると、ペットショップの生体展示販売の無責任さ、そしてそのリスクをわかっていただけるのではないだろうか。事業者は購入者の仕事や家族構成さえも確認することはしないのだろうが、果たしてそれでいいのか。動物をモノ、ただの商品として考えているから、このような販売ができるのではないか。ペットショップは、動物福祉に配慮していると企業努力をアプローチしているが、それは所詮、体裁だけではないだろうか。ペットの幸せと、事業者の責任を自覚し、本当の意味での企業努力をすべきだろう。安易に販売されたペットたちがこれ以上、被害に合わないことを願うばかりだ。(Eva代表理事 杉本彩)

⇒連載「杉本彩のEva通信」をもっと読む

※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

  ×  ×  ×

 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。  

© 株式会社福井新聞社