新潟「県」のふるさと納税、実は寄付額が都道府県中5位だが、課題も

新潟県庁

ふるさと納税の存在感が年々増している。TVやwebでしきりに流れるポータルサイトの広告を目にして、今年初めて申し込む人も多いだろう。12月、返礼品を選ぶ今年最後のチャンスだ。県内では、定番のコシヒカリなど食料品の強い南魚沼市が寄付額で県内1位(2021年度)となったが、ものづくりの街の特徴を大きく打ちだした燕市三条市の動きにも注目が集まっている。

市町村が目立つ制度だが、ポータルサイトを見ると新潟「県」のページも存在している。都道府県もふるさと納税をやっているのだ。総務省の資料によると、2021年度の新潟県への寄付額は約6億700万円で、都道府県別では全国5位に食い込む実績だ。

ただ、新潟県を含む都道府県のふるさと納税は順風満帆というわけではない。

「返礼品の追加は、基本的に待ちの姿勢ですね」。新潟県のふるさと納税を担当する県知事政策局の髙澤信太郎氏は話す。ふるさと納税に積極的な市町村では、農家や企業などへ職員が営業して出品を勧めているが、新潟県は異なるという。「県から営業をかけているわけではなく、事業者から出品をしたいという申請があったら基準に照らし、問題なければ採用するという姿勢をとっている」。

県がふるさと納税にあまり積極的でないことには理由がある。自治体内の特産品を出品できるという制度上、県と市町村は返礼品が重複してしまうせいだ。同じものを出す以上、市町村側への寄付金が減りかねない。今年夏ころ、山梨で県と市町村の競合が問題になり、県側が出品を縮小したニュースも話題になった。

新潟県においてもこれまで、市町村から「返礼品が被っている」と申し出を受けたことがあったという。現在は、県へ出品を希望する事業者がすでに地元市町村で出品している場合、市町村の意向を優先するように調整している。

(画像はイメージです)

昨年度寄付額県内1位となった南魚沼市のふるさと納税を担当するU&Iときめき課の担当者に県との競合について聞いてみると、「米などは、南魚沼市と県で同じ農家が出品していることが多い。事業者にとっては売り口が多いほうがいいと思うので、当市では特に問題視はしていない」という。

ただ一方で、「そうした事態は現状確認していないが、当市よりも安い金額設定で同じ返礼品を出すようなことはしないでほしい」と話していた。

ほかにも、県内いくつかの市町村の担当者に話を訊いてみたが、県のスタンスもあって、実際に競合が生まれているという話は少ない。しかし、「(事業者のやることに)自治体からあまり強く『止めてくれ』とはっきり言いづらい」といった話や、「今のところ当市では競合はないが、そもそも返礼品が被る前提で展開していない。事業者もこれまで地元とつきあいがあるのに、もし別口で(県でも)売り出しはじめたら『義理人情がないのか?』と思ってしまう」と率直な声もあった。

弥彦山と田園

ふるさと納税で新潟県から流出している税収は約8億円。地方交付税で補填されるとはいえ(それもまた問題ではあるが)寄付額よりも大きい。新潟県ですら都道府県中5位の寄付金を集めているのであるから、多くの県でマイナスの影響が出ていることが予想される。

「都道府県にとっては厳しい制度。取り組まないとただ出ていくだけだが、積極的になると市町村と軋轢が生まれてしまう。気をつけながら伸ばしていかなくてはいけない」(髙澤氏)。そうした中で、県独自の返礼品の開発も進められている。例えば、米どころ新潟らしく県内のブランド米食べ比べや、酒蔵飲み比べのようなセット商品だ。広域の特産品を取り扱うことで、県と各市町村の魅力を発信する。

「節税の制度のようになってしまっているが、そもそもふるさと納税は縁のある土地への寄付と、そのお礼が元の形。返礼品のことで自治体同士に軋轢が生まれ、競争することは趣旨に反している。制度の趣旨を忘れずに、新潟を楽しみ、味わい、そして来てもらうきっかけになるような返礼品を開発していきたい」(髙澤氏)。

ふるさと納税の人気が高まり、自治体も事業者も本腰を入れ始めるにつれ、全国で様々な問題が表面化している。県と市町村の競合は、2つを並列に置いている時点で予想できたであろう欠点だ。地元の魅力発信のため東奔西走する自治体も多いだけに、数多くある制度の粗の見直しが望まれる。また、力のある自治体や中間事業者への利益の集中、地域間の格差、そして「還元率」に飛びつく利用者など、地域・地場産業の活性という理念から外れた在り方も問題だ。制度の根本的な意義を、今一度見つめ直すべきだろう。

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