自衛隊に当事者能力がないので、防衛費を上げても防衛は強化できない

清谷信一(防衛ジャーナリスト)

【まとめ】

・自民党防衛族や安倍派議員は、国債で借金して軍拡をせよとの大合唱だ。

・財政赤字を抱え、少子高齢化が進む我が国が借金で大軍拡をすれば国力は大きく弱まり、かつてのソ連同様に自壊するだろう。

・予算を増やす前に防衛省や自衛隊の当事者能力を強化すべきで、そのためには納税者に対する徹底的な情報開示が必要だ。

自民党防衛族や安倍派議員は、国債で借金して軍拡をせよとの大合唱だ。だが、自衛隊に当事者能力がないので、防衛費を上げても防衛は強化できない。

そもそも借金軍拡を言い出したのは暗殺された安倍晋三元首相だ。だが現在ですら地方含めればGDPの2.6倍という第二次大戦末期より大きな財政赤字を抱え、しかも少子高齢化が進む我が国が借金で大軍拡をすれば国力は大きく弱まり、かつてのソ連同様に自壊するだろう。国会議員が、無限に国が借金できる、あるいはばらまきが可能あると信じているのは戦慄すべき事実だ。

安倍元首相が借金軍拡を言い出したのはアベノミクスの失敗は、誰が見ても明らかなり、自分の権力維持のために「強いリーダー」を演出するための方便だったではないか。そもそも安倍首相が約束していた10年でGDP650兆円、個人所得150万円アップが実現していたら防衛費増額に国債を発行する必要などなかったはずだ。

そもそも自衛隊は軍隊としての常識がない。ある意味、準禁治産者のような組織であり、予算の使い方がずさんで無駄が多い。このような組織の予算を増やしてもザルで水をすくうようなものだ。その典型例が陸上自衛隊の航空隊だ。

陸自は攻撃ヘリコプター、AH-1Sの後継としてAH-64Dをライセンス生産で導入したが62機調達する予定が2002~2007年度に13機で終わった(1機は事故で損失)。これはボーイング社のラインが閉じたことが最大に原因だったが、これは誰でも知っていた。ラインが閉じるのであれば早期に発注をすればよかったがそれもできなかった。そして富士重工(現スバル)は調達中止を受けてライン構築費などの初期費用を最後のロットの機体に載せて要求したが、防衛省はこれを契約がないと拒否して裁判となった。数千億円のプロジェクトが防衛省では「口約束」だったのだ。現在でもこれは変わらない。

諸外国では調達機を決定し、その調達数、調達期間(=戦力化までの時間)、総経費を議会に出して承認されてから契約を行うがこの当たり前のことを防衛省は未だにやっていない。例えば10式戦車にして自民党国防部会の議員含めて、国会議員は誰も何両が調達されるかも知らないのに毎年予算を承認している。

写真)AH-64D

出典)自衛隊

AH-64Dは2025年でサポートが終わる予定だったが、現在多少延長が決まっている。そでもそう長い期間ではないだろう。そして陸自のAH-64Dは飛行可能な機体が5~6機、戦闘可能な機体は2~3機に過ぎない。つまり部隊としては全滅状態だ。

当然AH-64D導入で更新されるべきだった、AH-1Sは旧式化、老朽化が進んで現代の戦闘には耐えられないし、稼働率も大幅に下がっている。だが陸幕はこれらに変わる攻撃ヘリの調達計画すらなく、これら戦闘不能な部隊を解散するわけでもない。決断ができないのだ。対して韓国や台湾は新型のAH-64Eを数年で導入、戦力化している。

旧式化したOH-6に変わる、川崎重工が開発した国産のOH-1も当初は250機ほどが調達される予定だった。だが、1機6億円程度のOH-6と比べて、調達コストが24億円ほどに高騰したOH-1は調達コストの上昇と、コスト上昇による調達機数の減少によって、欧州のベンダーが手を引き、結果34機の調達で終了した。純国産ヘリと言われているが事実ではない。

写真)OH-1

出典)自衛隊

しかも2015年8月に三菱重工製のエンジンに不具合が見つかり、全機について飛行停止措置が取られた。 一部の機体を改修して飛行試験が行われた。2019年3月1日に飛行停止措置は解除され、改修費用等も予算に計上され2022年4月時点で10機程度が飛行を行えるようになった。防衛装備庁によると全機の改修には9年がかかるという。現時点でも部隊としての運用は7年も止まっていることになる。エンジン改修は1台あたり6千万円、これを2台搭載しているので1機1億2千万円、更にギアボックスも改良が必要なので1機当たり1億五千万円はかかるだろう。

しかもOH-1は偵察ヘリとしての能力が低い。未だにリアルタイムの画像やデータ送信ができず、基地に帰投してVHSに変換する必要がある。このような時代遅れのヘリに50億円(テスト費用別)もの費用を掛けて飛行可能にする必要があるのか。

そもそも生産機数も少なく、専用の国産部品を多く使っているので外国製ヘリの何倍も維持整備費がかかる。更に申せば2020年に全機退役したOH-6は搭乗員以外の乗員2名あるいは貨物が積めたが、OH-1にはそれができない。このため陸自には連絡や軽輸送ができるヘリが無くなった。

陸自の汎用ヘリはドアガンとして5.56ミリのMINIMI機銃と12.7ミリのM2機銃を採用しているが両方ともドアガンには向いていない。MINIMIは射程距離も威力も低すぎる。ドアガンは相手に命中させるよりも、相手の攻撃を牽制する目的があるが、射程が短いので敵の火力に対する牽制にもならない。空自の救難ヘリもMINIMIを使っているが全く意味ない。M2機銃の威力は高いが俯角で射撃すると機構的に弾づまりを起こすことが多い。また発射速度も低く航空用に向いていない。米軍では7.62ミリの機銃(ガトリングガン含む)や、航空用に設計されて発射速度が高く、軽量な12.7ミリのM3機銃を採用している。

UHX(次期多用途ヘリ)として新たに採用されたUH-2の選定でも問題があった。当初UHXでは川崎重工がOH-1をベースに新規開発する案が採用された。だがこれは官製談合が発覚してキャンセルとなった。この件は現場の2佐らが独自にやったということになっているが、筆者が取材して来た限り、組織的であった可能性が極めて大きい。

そもそも失敗作で、調達・運用コストが高いOH-1をベースに開発してまともな調達ができるわけがない。まるで子供が玩具が欲しいと駄々をこねているようなものだ。

仕切り直しで選ばれたが、スバルが提案したベルの412EPをベースとする機体だった。本命は川重とエアバス・ヘリコプターが共同開発するX9だった。ところが川重が慢心して採用は規定事項だと役員が説明にこないなどもあって当のスバルやベルも驚く結果となった。防衛省、陸幕が高価なオスプレイ導入を意識して安価なスバル案を採用したという事情もある。

問題はスバル案の原型機が古く、将来性がないこと、またスバル案が採用されたことで弱小ヘリメーカー三社体制が維持されることとなった。X9が本命視されたのは、エアバスと川重が生産しているベストセラー機、BK117の後を継ぐ世界市場を狙えるヘリコプターを開発すること。これが選ばれれば自動的にスバルがヘリ事業から撤退して、メーカーの再編につながる、という内局の思惑もあった。防衛省しか顧客のない国内ヘリメーカー三社は、割高なヘリの生産を続けて防衛費を浪費した挙げ句、将来事業撤退するしかない。UH-2の採用は日本のヘリメーカーの将来を潰したことになる。

そして陸自は予備機を持っていないという問題がある。他国の軍隊や海空自衛隊は部隊に必要な配備数に加えて予備の機体を保有している。これは航空機が一定期間ごとにIRAN(Inspection and Repairing As Necessary:航空機定期修理)が必要だからだ。IRAN中は一定期間メーカーに預けられることになるので、部隊では使用できない。それを見込んで予備の機体も含めて調達計画が立てられる。

ところが陸自ではそのような予備機を調達しないので、常に部隊からIRANの機体分がない分稼働率が低くなる。このため構造的に稼働率が低い。昨今自衛隊機の稼働率の低さが話題になっているが、陸自の場合このような稼働率が低い構造が存在する。

これは実戦では致命的だ。予備の機体がないので、機体が損失、損傷しても代わりの機体が存在しない。航空機だけではなく車輌や小銃も同じだ。隊員数しか小銃がないので、壊れるとその他員は持つ小銃がない。小銃もまた一定期間に整備・修理が必要で、その際に故障箇所だけでなく、歪みなどを直して命中精度を維持し、表面処理もし直すが、陸自ではそれができない。

だから陸自の小銃はガタが来ていて命中率が低く、作動不良が起こりやすい。表面処理が剥げて地金が光ってみている銃が多いのは、整備不良である証拠だ。予備の装備を調達すると金がかかるからだろうが、それは「軍隊」の発想ではない。陸自は戦争を想定していない。

更に申せば自衛隊は元々稼働率など気にしていなかった。3自衛隊の主要装備の稼働率が調査されたのは15年ほど前であり、内局の装備課の主導によるものだった。だがその後も東日本大震災という「有事」があったが、3自衛隊は稼働率に無関心であった。件の課長は余計なことをしたと、とばされた。それが今になって予算獲得のために、稼働率の低さをアピールしているのだ。

無人機も問題だ。自衛隊は無人機の導入で中国やトルコ、パキスタン、イラクなどより遅れている「UAV後進軍隊」だ。それでも陸自は2001年から特科(砲兵)観測用のFFOS( Flying Forward Observation System)、2007年からその発展型で偵察用のFFRS (Flying Forward Reconnaissance System)という二種類のヘリ型導入している。

だがこれらは性能、信頼性が低く演習場でしか使い物にならない。2011年に起きた東日本大震災ではこの二種の無人機は一度も使用されなかった。それは信頼性が低くて、墜落による二次被害が起きる可能性が高かったからだ。この事実は筆者がスクープして明らかになり、国会でも防衛省がその事実を認めた。

因みに防衛省のサイトではFFRSについてNBC(核・生物・化学)戦環境、大規模災害の偵察に必要であり、開発は大成功だったと自画自賛していた。

当時、防衛事務次官が「福島第一原子炉に対する偵察をこれらの無人機がつかわれず、フジインバック社の民間用の固定翼無人機が使用されたことを記者クラブのキャップクラスへのレクチャーで、陸自の無人機のビデオカメラの可動角度が小さいから」と説明していた。だがフジインバック社の田辺誠治社長は「ウチの機体はカメラ固定です」と証言している。つまり、次官は陸幕に騙されていた、ということになる。組織防衛のためには、次官を騙し、結果国民を騙してもいいというのが自衛隊の論理だ。

これら無人機の信用性が低いということが明らかになって、震災の復興特別会計で新しい無人機が必要だとして、ボーイング社のスキャンイーグルとフジインバック社のB2型のサンプルが調達された。結果スキャンイーグルが採用されたが、これが装備として調達され始めたのは2019年、戦力化は2020年からである。震災から9年経ってやっとであり、あまりにスローモーだ。しかも信頼性、実用性に欠FFOS、FFRSの部隊は未だに解体されていない。

無人機運用では更に問題がある。日本ではドローンの飛行に関する規制を定めた航空法では、原則として目視外いわゆるカメラの映像だけを見ながらの操縦は禁止されている。また電波法の規制と自衛隊に割り当てられた電波の問題で、諸外国で無人機に使っている5GHzの周波数帯が自衛隊は使えず、2.4GHzの周波数帯がしか使えない。一部を除き海外は一般向けに売られている民生用ドローンが使用する電波は5GHz帯が大半を占め、2.4~5.8GHzまでの可変式も存在している。

このため採用されたスキャンイーグルも日本用に2.4GHzに仕様を変更されているが、そのために墜落事故が多いという。これではいくら無人機を導入してもまともな運用は不可能だ。

だが陸幕も、防衛省も総務省など関連省庁と協議したり、法改正に向けて動くことはしない。面倒臭いからだ。与えられた権限内で仕事をすればいいというのが彼らのスタンスだ。2012年の小泉内閣では有事法が制定されて、自衛隊を縛る規制の緩和に一定の成果をみた。だがその後同様な法改正を政府も、防衛省も行っていない。政策官庁のとしての自覚も網力もないならばかつての内閣の外局だった防衛庁でよかったろう。

これらの悲惨とも言えるレベルの現実を見れば防衛省、自衛隊の当事者能力が如何に欠如しており、予算の使い方がデタラメであるか理解できよう。こういう組織にいくら予算をつぎ込んでも国防力は強化できない。

予算を増やす前に防衛省や自衛隊の当事者能力を強化すべきだ。そのためには納税者に対する徹底的な情報開示が必要だ。公開情報ですら秘匿しようとする防衛省、自衛隊の隠蔽体質を生んでいる。このような歪んだ組織文化の変革こそが必要であり、それには防衛費を大幅に増額しなくても可能である。

トップ写真:日本陸上自衛隊とイギリス軍隊が合同訓練“Vigilant Isles 22”を行う (2022年11月26日)日本・群馬

出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images

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