【追う!マイ・カナガワ】丹沢で崩壊寸前の山小屋 有志の解体プロジェクトが始動 周辺の関係者や記者らが参加

丹沢表尾根の新大日山頂で崩壊が進む山小屋「新大日茶屋」=4月

 丹沢表尾根の新大日山頂で崩壊が進む山小屋「新大日茶屋」。一連の「追う! マイ・カナガワ」の記事がきっかけとなり、ついに解体に向けて動き出した。有志によるプロジェクトが11月に発足し、解体方法やクラウドファンディング(CF)を活用した費用調達などを議論。プロジェクトには本紙記者も参加し、多くの人が関われる方法を検討している。

 新たに立ち上がったのは「表丹沢サンクスプロジェクト」。新大日から約700メートル西の木ノ又大日(標高1396メートル)山頂で「木ノ又小屋」を経営する神野雅幸さん(58)が代表を務め、メンバーには周辺の山小屋関係者が名を連ねる。

 山小屋のオーナーとなって4年目だが、丹沢ハイカーとしては20年のキャリアを持つ神野さん。それでも新大日茶屋が開いていた記憶はない。「小屋の経営を始めてからも、(新大日茶屋の)所有者は分からず、崩壊が進んでも手を出せなかった。いずれ誰かが解体するだろうと思っていた」。丹沢ハイカーからも心配の声が寄せられていたという。

 神野さんに転機が訪れたのは、所有者が名乗り出た8月10日付のマイカナだった。所有者が突然体調を崩し、休業し放置せざるを得なくなった事情を知り、覚悟を決めた。「自分たちがやるしかない。丹沢の先輩のために」

 神野さんの呼びかけに周辺の山小屋関係者のほか、秦野市の担当者も後方支援として参加し「表丹沢登山活性化協議会」を発足させ、同協議会の中に新大日茶屋の解体に向けたプロジェクトチームを作った。名付けて「表丹沢サンクスプロジェクト」。長年丹沢の安全を見守ってきた所有者への感謝などの意味が込められているという。

 プロジェクトには記者も参加。週一回のオンラインミーティングでは解体費用調達方法や、安全に作業するための方法などを検討中だ。記者もボランティアへの参加表明やアイデアを寄せていただいたマイカナ読者の声も届けて最善の方法を探っている。

 「みんなで安全に、楽しく作業できたらいい。これを機に丹沢がもっときれいになれば」と神野さん。ついに動き出したプロジェクトは、山小屋解体にとどまらず、広く丹沢の今後を考える団体になることが期待される。

◆開業した父のレリーフ〝下山〟へ
 新大日茶屋の所有者の諸星晃さんから、「表丹沢サンクスプロジェクト」代表の神野雅幸さんに“あるお願い”があったという。それは、「小屋内にあるレリーフを持ち帰ってもらえないか」というものだ。

 レリーフは、新大日茶屋を開業した晃さんの父・辰雄さんの顔と富士山を背景にした丹沢の山並みがあしらわれている。記者が今年4月に新大日茶屋を訪れた時、崩壊した外壁の隙間からも確認することができた。

 晃さんによると、レリーフは辰雄さんが亡くなった数年後に新大日茶屋の常連客が製作し、いただいたものだという。左下には「山のぼりとは 自然にいどむものではなく 己との戦いである」と刻まれている。晃さんは「おやじが小屋に訪れていた人たちに語っていた『座右の銘』なのかもしれません。自分は聞き覚えありませんが」と笑う。

 神野さんも快諾し、レリーフが晃さんの手に戻った際には、仏壇に供えて父にこう報告するという。「遅くなってごめん。やっときれいになったよ」

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