<書評>『ダイビングのエスノグラフィー』 島社会への影響 多角的分析

 観光学分野では、観光が地域へ及ぼす効果や影響として、経済的・教育的・社会的に関する側面が挙げられ、経済効果に関する文献等は見受けられるが、社会的効果や影響に関する分析は多くはない。そのような中、本書は日本におけるスクーバダイビングの導入・普及に始まり、座間味村へのダイビング導入による移住の誘起、島社会の変容、座間味のダイビングビジネスによる沖縄観光の発展への寄与、ダイビングポイント保護や国立公園設置に至る経緯に関して考察されたものである。大学教員でありダイバーでもある筆者が、長年の研究と実践を重ね学術的かつ県外出身者ならではの視点から分析した成果が本書である。

 他府県では、各種メディアでの露出により今でこそ種々の沖縄イメージが連想されるが、最も多く連想されるのがやはり海を中心とする風景であろう。各種調査から、沖縄に対するイメージや活動内容等について、海に関することが上位に挙げられている。その海でのアクティビティの1つとして人気があるのがダイビングであり、本書で取り上げられた座間味はケラマブルーとして名をはせ、ダイビングスポットとしても世界に知られた地である。そのような座間味で、ダイビングビジネスの発展を機に移住が誘発された経緯、移住者・地元民間の摩擦や本島側事業者との摩擦、それらの摩擦を解消し共生に至った経緯等、島社会への影響が多角的かつ丁寧に分析されている。

 読み進めるうちに、離島県沖縄の中でもさらに限定された空間である座間味の社会変容が、他の地や島においても同様に起こり得るのかという疑問が湧いたが、この点については次作に期待したい。ダイビングを主因とする移住やビジネスによる座間味の変容は、少子高齢化や都市への人口集中と共に旅行者をはじめ外国人が増加する日本や沖縄において、社会がどのように変化するのか示唆を与えてくれるものである。その点から、本書は外部者と地元民の摩擦やその解消、共生する社会を形成する一助となるであろう。

(伊良皆啓・名桜大上級准教授)
 まるた・こうじ 1969年兵庫県生まれ、沖縄大教授。著書に「誰が誰に何を売るのか?―援助交際にみる性・愛・コミュニケーション」「ポケモンGOの社会学」など。

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