<書評>『琉球文学大系14 組踊〈上〉』 新生面を切り開く一書

 国立劇場おきなわの開場(2004年)、ユネスコ無形文化遺産リストへの登録(2010年)によって、組踊は名実ともに日本を代表する芸術として内外に認知されるようになった。組踊の認知度が高まることによって、愛好家も増えている。さらに組踊研究は50年前よりも進展し、質・量ともに高いレベルを維持している。日本復帰50周年の今年、『組踊 上』が発刊されたことは、大変意義深い。組踊への関心はますます高まっていくと思われる。

 これまで、活字化された組踊テキストは、数種類発刊されている。その代表的な文献は、伊波普猷著『校註 琉球戯曲集』であろう。本文に発音表記を施した本邦初の組踊テキストだが、諸本研究などに課題が残っていた。

 本書には、組踊の一級資料とされる「首里王府編『組躍』尚家文書31」(1867年、那覇市歴史博物館蔵)を底本にして、7作品(辺戸之大主・執心鐘入・銘苅子・大川敵討・義臣物語・天願之若按司敵討・二山和睦)が収録されている。3段組の中段に本文(ほんもん)(ヨミ付き)、上段は、これまでの研究成果に基づき、知識を補助する頭注を付けてある。下段は現代語訳。本文翻刻は、原則としてテキストの文字の通りに起こしてあり、異同等については巻末に校異注を付してある。県内に残る組踊本との異同を付したことによって、組踊の諸本研究の充実を示唆している。ともあれ校異注は労作である。

 尚家文書以外の組踊は、『琉球戯曲集』から尚家文書との重複を避けて8作品(護佐丸敵討・忠士身替の巻・孝行之巻・大城崩・女物狂・手水の縁・花売の縁・万歳敵討)が収録されている。先行テキストの不備を補い、新たな知見を網羅している。本書は研究者、実演家、愛好家が活用しやすいように、語注や頭注補遺・衣装着付の欄を充実させた。研究、実演、鑑賞に資する有益な情報が多く収載されている。誤植には正誤表を付与すべきだと思うが、組踊研究の新生面を切り開く一書の発刊を心から喜びたい。

(田場裕規・沖縄国際大教授)
 はてるま・えいきち 1950年石垣島生まれ、名桜大大学院教授。
 すずき・こうた 1979年沖縄県生まれ、沖縄県立芸術大准教授。
 にしおか・さとし 1968年奈良県生まれ、沖縄国際大教授。
 おおしろ・まなぶ 1953年鳩間島生まれ、岐阜女子大特任教授。

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