「この価格そろそろ限界かも」 激安弁当、広島のスーパーがポップに込めた切ない思い

たかもりの弁当売り場に貼られた手書きポップ

 食料品や電気代の値上げラッシュで、10月の消費者物価(生鮮食品を除く)は40年ぶりの歴史的上昇率となった。そんな中、スーパーの300円未満の「激安弁当」が家計の味方として存在感を増す。原材料の値上げは店にも大きな打撃。超低価格の裏側にある思いとは―。広島市のスーパーを訪ねた。

 「ノドの渇きは肉汁で潤せ」。ユニークな手書きポップの並ぶ南区のスーパーたかもり宇品本店で、ひときわ切なさが漂う文言があった。「原料高騰しすぎ この価格そろそろ限界かも」。13年間続く250円(税込み270円)弁当のコーナーだった。

250円の弁当を選ぶ買い物客(広島市南区のたかもり)

 開店まもなく来店した無職女性(75)=南区=は息子のために酢とり弁当と牛カルビ弁当を選んだ。「おいしいから喜ぶんよ。売り切れる前に買っておきます」と、ジムに行く前に立ち寄った。電気代の節約のため部屋にビニールカーテンを取り付けたという会社員男性(61)=同=は「安くてボリュームがある。そりゃ家計は助かります」と、さけ弁当を手に取った。

 大型店の進出で瀬戸際の経営を迫られていた2009年、起死回生を期してディスカウント路線にかじを切った。その象徴が250円弁当だった。安いといえどもサケやサバは脂の乗った海外産を目利き。調理済みキットはかえって割高になるため使わず、味付けも自前でする。売れ残った肉や魚を弁当に回すわけでもない。副社長の伊木英人さん(49)は「うちは手作りの『人間味』で挑むしかありません」と言い切る。

 週末には広島市外からもファンが訪れるが、2年前にはもうけの出ない商品になった。さらに物価高騰が続き、サバの仕入れ原価も当初の2倍以上に。以前はたびたび補充したが、今は翠店(南区)と合わせ200食前後の数量限定にせざるを得ない。ブラジル産の鶏を使っていた唐揚げ弁当は250円での提供を諦めた。一方、より良い肉を使って適正価格で買ってもらう模索も始めた。

 天候の影響を受けやすい生鮮食品を除く消費者物価指数は10月、前年比で3・6%上がり、1982年2月以来の伸び率となった。一方、原材料の仕入れの際の企業物価指数は9・1%の上昇。乖離(かいり)分を小売店が負担するのももう限界という。伊木さんは「お客さんを呼んでくれた250円弁当をやめる度胸がないのが正直なところかもしれません。何とかインフレを乗り切り、お客さんも店も笑顔になれれば」と切望する。

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