なぜ?伝統の神楽に若い女性続々 厚木の教室に入会急増、家元もびっくり

師匠の垣澤瑞貴さん(右)と向き合ってヤマタノオロチ役の練習をする岬花音菜さん(左)と松本美南さん(中央)=厚木南公民館

 神社の祭りなどで演じられ、男性や年配層が携わることの多い伝統芸能の里神楽。だが、厚木市内で唯一、里神楽を伝える相模里神楽垣澤社中(同市酒井)にはこの1~2年間、神楽教室に入会する若い女性が急増している。家元の垣澤勉さん(76)の長女で代表の瑞貴さん(39)が2年前から、動画投稿サイト「ユーチューブ」などで魅力を広く発信する効果が出始めている。

 10月下旬、厚木南公民館(同市旭町)での稽古。笛と太鼓に合わせ、和服姿の松本美南さん(23)=東京都大田区=と岬花音菜(かおな)さん(28)=同中野区=がポーズを決める。2人は瑞貴さんのスサノオと戦う邪悪なヤマタノオロチだ。激しく動き、回転し、跳ぶ。

 松本さんは大学の卒論で伝統芸能を取り上げ、実家のある同市内の垣澤社中を訪れた。話を聞くだけのはずが、瑞貴さんの誘いで昨秋、瑞貴さんの神楽教室「みずき会」に入会。「すごく楽しい。役のキャラクターが立っているのが面白い」と目を輝かせる。同会入会者はこの1年で20人近くに上り、多くが20代、30代の女性だ。

 岬さんは6年ほど前に瑞貴さんの弟子になった。コンテンポラリーダンスなどの経験があり、きびきびした動きがさえる。「面をかぶる神楽は身体能力さえあれば女性でも強い役を演じられるのが魅力」と話す。

 4月に入会したばかりの本田美咲さん(25)=川崎市麻生区=は、女性でも演じられる神楽団体をインターネットで検索して垣澤社中を見つけた。この日は厚木市内の小学5年、鈴木駆(かける)君(10)も参加。今夏の里神楽のワークショップに参加して「かっこいい」と感激し、入会準備中だ。

 勉さんは「若い人が急に増えてびっくり。長い里神楽の歴史でも、スサノオとオロチの両方を女性が演じるなんて、なかったことだよ」と驚きを隠さない。

 瑞貴さんは2年前から、竹林や古民家などで白狐(びゃっこ)が舞う「KAGURA」をユーチューブで発信したり、市観光協会とコラボレーションしたポスターに出演するなど里神楽の魅力を発信。最近は毎週末のように出演依頼がある人気ぶりだ。

 来年3月5日には社中創設110周年・市無形民俗文化財指定50周年記念公演「古き新しき伝統」を市文化会館(同市恩名)で催す。創作舞踊家、ソプラノ歌手、日本舞踊家ら異分野とコラボした舞台を目指す。

 瑞貴さんは「最近神楽に関心を持つ人たちは『心を豊かにする』『かっこいい』と今までになかった価値観を神楽に与えてくれる。3月の公演では観客に神楽の新しい魅力を伝え、神楽を未来につなげる仲間になってほしい」と願っている。公演などについての問い合わせは同社中電話046(229)0485。

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