【ラリージャパン、12年ぶり開催の評価と課題:後編】改善が必要な『一般車の侵入の警備体制』と『潜水士の配置不足』。そして観客視点の観戦エリア

 2022年11月10~13日、愛知県と岐阜県の両県にまたがる形でWRC世界ラリー選手権第13戦『フォーラムエイト・ラリージャパン2022』が開催された。2010年以来、12年ぶりのWRC日本ラウンドとなった今大会では、日本人ラリードライバーの勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)が3位表彰台を獲得したことで大きな注目を集めたが、同時に多くの問題も期間中に浮き彫りとなった。そんなラリージャパンをモータースポーツジャーナリストの古賀敬介氏が振り返った。

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 11月に開催された2022年WRC最終戦「ラリージャパン」。WRC取材歴20年以上のモータースポーツジャーナリスト、古賀敬介は12年ぶりに開催されたWRC日本ラウンドをどのように見たのか? 前編に続く後編では、次回に向けて改善が必要だと感じられた事柄についてレポートする。

■あってはならない事態が発生

 前編では2022年のラリージャパンの素晴らしかった点について記したが、もちろんすべてが良かったわけではない。主催チームはラリー開催実現に向けて一生懸命努力してきたに違いないが、ネガティブに感じた点も少なくなかった。その中でも「大会の安全性」に関する事柄は、2023年の次回大会に向けて絶対に改善しなくてはならない。

 さまざまなメディアで報じられたように、金曜日のSS4“シタラ・タウンR”では競技中のステージに一般車が紛れ込んでしまい、全開で走行するラリー2マシンとニアミスするという重大なインシデントが発生した。接触こそ避けられたが、最悪の事態になってもおかしくないような出来事だった。

 イベントのスチュワードが発行した『スチュワード・ディシジョンNo.5』によると、(進入禁止)のテープが張られていないジャンクション(交差点)から一般車がステージに入ってしまい、逆走して2台のラリー2マシンと向き合う形になってしまったのだ。

 調査の結果、該当するジャンクションにテープ自体は存在したが、道の片側の柱に巻き付けられたままで、道は封鎖された状態ではなかったという。また、そこには警備員やマーシャルもいなかったことから、一般車が進入してもまったくおかしくない状況だったようだ。スチュワードはそれを、主催者が事前に提出し承認を受けた安全計画書に反するものであり、合理的な措置を施していなかったことが原因であると判断。「安全ではない状況」として、SS4は途中で中止、キャンセルされることになった。

■大事故に至らなかったのは、不幸中の幸い

 僕はその時、丁度SS4の山中で撮影をしていて、ステージが途中でストップしたことからしばらく待った上で、ステージではない山道を歩いてクルマを停めてある場所に戻り、そこにいるマーシャルに状況を訪ねた。しかし、そのマーシャルの無線は不調とのことで、状況を完全には把握できていなかった。

 一般車のステージ進入、逆走という絶対にあってはならぬことが起こってしまったわけであり、大事故にならなかったのは不幸中の幸いである。正直、海外のWRCイベントでもたまに起こることではあるが、それが日本で起こってしまったことにがく然とした。

 WRC取材歴の長い海外のジャーナリストには「日本人は真面目だし仕事が緻密だと思っていたから、日本であのようなことが起こったことに驚いた」と言われた。個人的な印象としては、ステージへと繋がる小さな道の管理が不十分であり、それがマンパワー不足によるものか、管理の不十分さによるものかは分からないが、再発は絶対に許されないことだ。2023年の大会の主催チームには、より一層の危機管理徹底が求められる。

旧伊勢神トンネルをステージの一部に取り入れた初日のSS2/SS5だったが、再走ステージではフィニッシュ地点がトンネル手前に変更された

■観客目線での観戦ポイント設定が不十分だった2022年大会

 土曜日の最後を締めくくる、岡崎でのSS13/14“オカザキ・シティSSS”では、河川敷での競技開催に絶対必要な潜水士の配置が遅れ、競技開始が1時間ディレイ。結果、2本予定されていたステージのうち1本がキャンセルされてしまった。さらに、未舗装路セクションをラリーカーが走行したことで大量の土煙が舞い上がり、無風状態の時は走っているクルマがまったくといっていいほど見えない状態だった。

 どちらも観客にとっては最悪と言えるもので、とくに、チケットを購入して川の対岸から観戦していた観客は気の毒だった。ただでさえクルマとの距離が遠いのに、日没と土煙で視界は非常に悪く、さらには運営の不手際によりSSが1本だけになってしまったのだから。前編でも記したが、その状況でジェントルな姿勢を保った日本のお客さんたちを、僕は心から尊敬する。

 岡崎のステージの事件以外にも、観客目線での観戦ポイント設定が十分ではないと思ったステージは少なくなかった。個人的には、木曜日午前中のシェイクダウンに観客を入れなかったことが残念でならない。

 シェイクダウンは、たしかにラリーの結果とは関係のないものだが、1本のステージで同じドライバーの走りを3回以上観ることができる、ファンにとっては非常に「お得」で人気のあるセッションだ。一体どのような理由でシェイクダウンを見せないことにしたのだろうか? 数名のWRCドライバーに「なぜSS1には観客がいて、同じ場所でやるシェイクダウンにはいなかったの?」と質問されたほどである。2023年は、是非ともシェイクダウンの観戦チケットを販売してほしい。

■海外ジャーナリストたちから厳しい指摘も

 他にも、いくつも改善が必要だと思った点はあった。それでも、個人的には新しい主催チームによる、ブランニューイベントであるが故に、安全に関わること以外はある程度仕方がないと思ったのだが、海外のWRCジャーナリストたちの視点はよりシビアだった。

 彼らの意見を要約すると「たとえ、初めて開催するラリーであっても、最初からしっかりとできる主催者は少なくない。彼らは主催者目線だけでなく、選手の目線や、観客の目線でも入念に数多くのWRCイベントを視察して準備を進めてきた。ラリージャパンの主催チームは、その作業が不十分だったのではないか?」となる。

 非常に耳の痛い指摘ではあるが、我々日本人は「改善力」には長けている。2023年は主催チームの構造が変わり、豊田市が全体をハンドリングすることがすでに決まっているが、今年見えた問題点をしっかりインプルーブして、素晴らしい大会を実現してくれることを期待したい。

シェイクダウンとSS1はともに鞍ケ池公園で実施された。11月10日の日中に、SS1のステージを逆走するかたちで行われたシェイクダウンでは観戦チケットの販売がなかった
2023年以降のWRCラリージャパンは豊田市が主催する

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