患者に通常の10倍以上の下剤大量投与、翌日死亡 愛知

 愛知県医療療育総合センター中央病院(同県春日井市)はこのほど、昨年発生していた医療事故による死亡事例について公表した。医療事故調査委員会の調査報告書によると、難治性の便秘となっていたダウン症患者に対する適用外処方が行われ、それが要因で容体が悪化した際の経過観察など対応も結果的に不適切で、家族や看護の目が行き届かない時間が生まれ、その間に患者は自らの吐瀉物で窒息死していたという。

調査委指摘「最善でも最適でもない」

 報告書によると、死亡した男性は昨年5月17日、難治性の便秘で同病院を受診した。男性は何回か同様の便秘で受診したことがあり、過去には入院の上で下剤を注射することで軽快していたためこの時も同様の処置を提案したが、ダウン症患者である男性が頑強に拒否したため、自宅で下剤を服用する処置に変更した。この際、医師は自身の判断で、家族の同意なしに下剤の処方量を通常の約10倍以上にした。

 帰宅後、指示通りに服用した男性は容体が悪化。一度別の救急病院に搬送されいったんはおさまったが再び悪化し、家族が受診した同病院への入院を強く訴え、翌18日朝に入院した。病院では時間帯により最初に診察した医師ではない複数の医師、看護師が相次いで十分な申し送りのないまま経過だけを見ており、入院後男性の下痢や少量の嘔吐がおさまらず、けいれんや意識混濁のような症状が現れた時も、ダウン症であることやそのことによるてんかん発作だと推測し、重篤化しているという認識がされなかった。

 18日夕方には症状がおさまらないことに対して、担当の看護師は家族に対し「人手が足りないのでトイレへの付き添いや掃除が難しい。おむつ着用のうえ、身体拘束するので付き添って欲しい」と要請。家族は心外に思ったが容認し、父親が付き添いで宿泊するためベッドを運んでくるあいまの10数分、病室内で男性はひとりになってしまった。父親が戻った際、男性は呼吸停止していた。ナースコールを受け、駆けつけた医師らが救命措置を施すも男性の呼吸は戻らず、死亡が確認された。

 報告書によると、下剤を処方した医師は「自身へ投与した経験から行った」と話しており、死亡直後の家族への説明では「下剤が効きすぎた」と話している。調査委はこの処方に対し「適応外処方に対する適切な手続きがなされていない」と指摘した。また病院側の入院後の経過観察や身体拘束の措置に関しても、間違いとまでは言えないが最善でも最適でもなく、患者の病態を正しく把握することより、多くの患者を同時に見なければならないことによるオペレーション重視の姿勢がみられると批判した。

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