アングル:「政治行動禁止」のカタールW杯、二枚舌との批判も

[ドーハ 3日 ロイター] - 政治的な横断幕の掲示は、どういう場合なら許され、どういう場合なら許されないのか──カタール開催のサッカー・ワールドカップ(W杯)において、その答えはもっぱら政治的メッセージの内容に依存するようだ。ファンからは、開催国による国際サッカー連盟(FIFA)のルール運用には一貫性が欠けていると批判の声が上がっている。

中東初開催となる今回のW杯だが、不安定な同地域でのトラブルと無縁とは言いがたい。その背景には、イランでの反政府デモや、イスラエル・パレスチナ間の衝突激化がある。

ところが、11月30日に行われたアルゼンチン対ポーランドの試合前に「パレスチナ解放」Tシャツを配る人々さえ見られるなど、パレスチナ支持を表明することが許される一方で、イランにおける聖職者支配の終わりを求めるデモへの支持を訴えようとしたサッカーファンらについては、治安当局は取り締まりを行った。

アルスママ競技場の周囲では、こうした対比が露骨に示された。12月1日、モロッコ対カナダの試合を控えて、パレスチナ支持を表明する旗、帽子、スカーフを身につけた数百人のファンは警備員の誘導を受けていた。

だがその2日前の夜、同じスタジアムでは、イラン対米国の大一番を前に、警備員はイランでの抗議行動への支持を示すものを没収し、Tシャツを脱ぎ、一部の旗を手放すよう強要した。

イランが1─0で敗れ、観衆がスタジアムを後にする中、ロイターの記者らは、警備員が活動家のシャツを着た男性らをスタジアム内で追いかけ、イラン反政府抗議行動における「女性、命、自由」というスローガンを叫ぶ1人を地面に押し倒すのを目撃した。

試合に先立ち、FIFAの人権担当部門は、それ以前のイランの試合における処遇に不服を唱えたファンにメールを送り、「女性、命、自由」や、マフサ・アミニさんの名前や肖像画をスタジアムで掲げることは認められると表明した。アミニさんは、イラン警察による拘束中に亡くなり、抗議行動のきっかけとなった女性だ。

ロイターでもそのメールの文面を確認した。

カタールのW杯組織委員会は、「治安当局は対立を和らげ、平穏を回復するために介入した」と述べた。カタール政府のメディアオフィスにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

<サッカーファンにとっては「現実問題」>

ファンはダブルスタンダード(二重基準)だと感じているが、アナリストによれば、こうしたアプローチはカタールにとっての政治的な優先順位を反映している。カタールは権威主義的な政府を擁する保守的なイスラム国家だが、長年に渡り、外交面では難しい綱渡りを続けてきた。

カタールは外交政策として、イランとの良好な関係を構築する一方で中東最大の米軍基地を受け入れ、パレスチナのイスラム組織ハマスを受け入れつつ、かつてはイスラエルと一定の貿易関係を持ち、今回のW杯に向けて、イスラエルからドーハへの直行便を初めて許可した。

ファンから見れば、一貫性のないルール適用は「現実的な問題」だったと語るのは、フットボール・サポーターズ・オブ・ヨーロッパでエグゼクティブディレクターを務めるローナン・エバン氏。「結局のところ、FIFAが自ら主催する大会をコントロールできなくなっていることが明らかになった」

エバン氏は、イラン反体制運動のスローガンに関しては、「足許の定まらない」一貫性の欠如が見られたと指摘する。一部の試合ではファンが抗議活動への支持を表明するTシャツを着ていられたが、イランの試合でそうしたTシャツを着ていたファンはトラブルに巻き込まれた。

LGBT+など性的少数者の人権に対する支持表明についても、やはり似たような一貫性の欠如が見られるとエバン氏は言う。カタールの同性愛禁止政策に対しては、厳しい批判が浴びせられている。

レインボーフラッグは表向きには許可されているが、「実際の状況は大きく異なる」と同氏。「こうした一貫性の欠如のせいでリスクを負うのはファンだ」

カタールW杯におけるFIFAのスタジアム観戦ルールは、「政治的、攻撃的、差別的な内容」の横断幕、旗、チラシ、服装その他の手回り品を禁止している。

FIFA広報担当者は、FIFAは「許可されたものをスタジアムで掲出できなかった事例をいくつか確認」しているとして、ルールを完全に履行するようカタールと密接に協力していくと語った。

イラン系米国人のサイード・カマリニアさんは、「女性、生命、自由」をうたったTシャツを着て6つの試合に行ったが、イランの2試合ではセキュリティーチェックを通過する際に隠したと語る。米国戦では取り締まりを恐れて着用を断念したという。

対照的に、パレスチナ支持を表明するシンボルはあちこちで見られる。パレスチナ人ファンのサイード・カリルさんは、「カタールの人々や、ここにいる全員に歓迎されていると感じた。皆が私たちに『パレスチナ、パレスチナ』と声を掛けてくれる」と語った。

アラブ諸国の対イスラエル関係正常化に強く反対するグループ「正常化に反対するカタールの若者たち」のカタール人メンバー、マリヤム・アルハジリさんは、パレスチナへの共感は「パレスチナが引き続きアラブの主要な課題であること」を示していると語った。

アラブ首長国連邦(UAE)や、ベスト16に進出して多くのアラブ人ファンから喝采を浴びたモロッコなどのアラブ諸国は、2020年にイスラエルとの関係を正常化した。

ジョージタウン大学カタール校のメーラン・カムラバ教授(政治学)は、パレスチナ支持の表明を認めることはカタールにとって「ヘッジ戦略」の一環だと説明する。

カムラバ教授は、「(カタールは)住民が怒りを発散し、象徴的な形でパレスチナ支持を示すことを認めてきた一方で、完全な正常化ではないにせよ、(対イスラエル)関係改善に向けた地ならしを進めつつある」との見解を示した。

(Andrew Mills記者、翻訳:エァクレーレン)

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