社説:電力カルテル 自由化に逆行許されぬ

 顧客獲得を制限するカルテルを結んだとして、公正取引委員会は独禁法違反(不当な取引制限)で中部、中国、九州の各電力3社に総額1千億円超の課徴金納付を命じる処分案を示した。排除措置命令も出し、再発防止を求めた。

 電力自由化の趣旨を骨抜きにした責任は重大だ。過去最高額の課徴金を課す処分も妥当と言える。

 オフィスビルや大規模工場向けの「特別高圧」、中小ビルなど向けの「高圧」の電力供給を巡り、疑惑が持たれている。

 関係者によると、電力3社は2018年秋以降、それぞれ関西電力との間で、互いに他社の区域での営業を控える「不可侵協定」を締結したとみられる。事実であれば、許されない行為である。

 中心的な役割を担ったとされる関電には通知がなかった。公取委は昨年、4社を立ち入り検査したが、関電は独禁法の課徴金減免制度に基づく自主的な違反申告が認定され、処分を免れるようだ。

 隠れた違反をあぶり出す制度とはいえ、いわば「主犯」が不問に付されるのは納得し難い。国民には不公平に映ろう。

 電力小売り自由化が背景にある。大手電力が地域ごとに独占してきた電力販売の仕組みに風穴をあけ、競争を活性化して料金値下げを図るのが狙いだった。

 政府は00年以降、段階的に電力市場の開放を進め、16年に家庭など向けの「低圧」を含め完全に自由化。大手が自社管外へ進出したほか、ガスや通信といった異業種からの多くの「新電力」参入にもつながった。

 ところが、市場規模が大きい事業者向けの特別高圧、高圧については収益の確保や料金の値崩れを防ぐため、大手4社はカルテルに走ったとみられる。

 営業現場だけの判断とは考えにくい。経営陣がどこまで関与していたのか、検証すべきである。

 電力自由化に向け、経済産業省は取引を監視する電力・ガス取引監視等委員会を立ち上げた。果たして、きちんと機能していたのか。電力自由化は道半ばであり、所管する経産省も責任を免れまい。

 電力各社にとって巨額の課徴金と併せ、信頼喪失は痛手だ。燃料高騰などから電気料金の値上げに動く中、電力自由化に逆行して料金を高止まりさせていたとの批判は必至であろう。

 各社とも公共インフラを担う電力業界の中核として社会的責任は重い。まずは顧客への謝罪と説明を尽くさねばならない。

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