噂と恐怖を超える──エボラを予防する鍵は「正しい情報」

エボラに関する情報を伝えるMSFのヘルスプロモーター © MSF/Sam Taylor

「『医者に臓器を取り去られてもいいのか?』 私がエボラで入院したら、何人かがそう電話してきたんです。『病院では食べ物も与えられないのに、どう生きていくの?』と言ってくる人も……」 エボラウイルス病(エボラ出血熱)を発症して入院した女性がそう話す。9月20日にエボラウイルス病の流行が宣言されたウガンダ。エボラに関する噂や誤情報が根強く存在する地で、正しい情報を伝えるには何が必要なのか。現地の取り組みを伝える。

地元の住民、リーダー、伝統的治療者へも

国境なき医師団(MSF)は現在、ウガンダ保健省と連携してエボラ治療センターやエボラ治療ユニットで患者のケアに当たっている。さらに、感染症と闘う上で欠かせないのが、人びとに正しい情報を伝える健康推進活動だ。エボラへの対応の大きな柱の一つとなっている。 健康推進チームのヘルスプロモーターたちが複数の地域に入り、医療者や住民、地元のリーダー、伝統的な治療者といった人たちにエボラの感染予防と対策に関する情報を伝えている。

50人以上のヘルスプロモーターのチームを率いて地域での活動を担当するトム・アルンガはこう話す。 「私たちは基本的に、エボラとはどんなウイルスで、エボラウイルス病とはどんな病気なのかを伝えています。どのように感染するのか、そしてどう広がるのかということです。知ってほしいのは、感染者に接触しただけでは病気ではないということ。症状が出て初めて病気だといえます。そして、感染した人は誰かに感染させる可能性があるということです」

エボラ流行地に近い村で住民に感染予防について伝える © MSF/Sam Taylor

「またコロナの時のように……」

エボラをはじめ多くの感染症において、噂は急速に広まる。レジーナ・カスレ・ナカブエは、トムのチームで活動するヘルスプロモーターの一人だ。日々フェイクニュースに直面し、正しい情報を地域に伝えることがいかに難しいかを痛感している。 「エボラを怖がる人もいれば、エボラが存在することを信じない人もいます。特に、最初の感染例が確認されたムベンデ周辺の若者などは、聞いた情報を信用していません」 この地域の住民は農民が中心で、収入はごくわずかだ。新型コロナウイルスによるロックダウンの間、彼らは収入源を失い苦しんだ。 「皆その時のことを覚えていて、また同じことが起こるのではないかと恐れています。それでも私たちは、辛抱強く現実的な話をするように心がけています。必要であれば繰り返し話しながら」

MSFは、感染拡大の予防に重点を置いて活動し、症状が現れてから医療施設に入るまでの時間ができるだけ短くなるよう取り組んでいる。ムベンデでは、健康推進、感染の予防と制御、調査、感染者と接触した人の追跡を行うほか、自己隔離が必要になった人へ社会的な支援を提供している。

エボラを怖がる人もいれば、エボラが存在することを信じない人もいる。感染予防と病気について粘り強く説明していく  © MSF/Sam Taylor

村々を訪ね、伝え続ける

トム・アルンガ © Sam Taylor_Ärzte ohne Grenzen

トムは予防のための取り組みをこう説明する。 「毎日、私のチームはいくつかのグループに分かれて現場へ向かいます。あるチームは感染者との接触者を追跡する人と密接に連携し、地域からの抵抗を防ぎます。正しい情報があれば恐怖心が薄れ、感染者と接触した可能性を隠さないようになります。 2つ目のチームは、保健省から派遣された現地調査員です。感染者が出たかもしれないとの知らせを受けたら、彼らはその場所に駆け付け、詳しい情報を集めます」

特に、エボラウイルス病の症状が出た人が隔離しなければならない場合、患者の家族を安心させ、悪い噂を防ぐため、そしてすぐに接触者を追跡できるよう、情報が非常に重要だ。 さらに、地域での活動中に特別なニーズが確認された場合には、臨時で緊急対応に当たるチームが派遣される。感染者と接触したために自己隔離している人が、心理社会的な支援や食料支援を必要とするケースなどに対応するのだ。
情報はエボラを予防するために重要だが、その先でも必要だ。エボラを克服し治療センターから退院した人びとは、差別や偏見の問題に直面する。周囲の人びとは彼らを恐れ、距離を置く。それが緊張を生み、疎外につながるのだ。

私たちはこれからも村々を訪ね、エボラのウイルスや病気について伝え続けます。一人でも多くの人に、正しい情報を知ってもらうために──。

毎日ヘルスプロモーターの複数のチームが地域へ出向く © MSF/Sam Taylor

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