宮城県の新たな津波浸水想定 浸水想定エリアの住民への周知が課題

宮城県が5月に公表した新たな津波浸水想定では、津波が到達する地域が東日本大震災よりも広がりました。しかし、新たに津波の浸水エリアに入った地域の住民でも、そのことを自分の問題としてとらえている人は少なく、どう周知していくかが課題となっています。

訓練「ただいまかなり強い地震を感じました。揺れは収まりましたが大津波警報が発令されました」
11月、仙台市で県が新たな津波浸水想定を公表してから初めての避難訓練が行われました。
訓練は、大津波警報が出されたとの想定で行われ、約6700人の市民が参加。県の想定で新たに浸水エリアに入った若林区の六郷小学校には、地域の住民らが避難しました。
参加者「迷わずここに来ました。震災の形はいろいろあるから、だから臨機応変の対応が一番でないですかね」

仙台市の津波避難訓練

訓練には、約1300世帯が暮らす今泉町内会の住民も参加しました。町内会長を務める石黒康二さん(80)です。
東日本大震災の際、この地区の一部にも津波が到達したものの大きな被害はなく、石黒さんの自宅も無事でした。

地区の市民センターで避難してきた人たちの支援を行った石黒さん。津波の恐さを理解しているつもりでしたが、県の新たな想定で地区の約3分の1が浸水すると聞かされても、なかなか実感が湧かなかったといいます。
今泉町内会石黒康二会長「いまだにやっぱりなかなかね、みんなピンと来ていないところはあると思います。体験した人は特に津波というのは怖い、というのはもちろんだけれど、だいたい考えればいいのはこの辺だな、ここまでは来るんだと、ここまでは来ないんだと」

石黒さんたち町内会の役員は今回の避難訓練に参加したことで、県の想定通りの津波が到達した場合、様々な課題があることを知りました。
一つは避難の方法です。町内には高齢者も多く、校舎の屋上など高い場所に避難することは難しいと分かりました。
今泉町内会石黒康二会長「あんまり若くない、我々なんかの世代になってくると、何とか小学校の下までは行っても階段上って更に、屋上も結構でこぼこなんですよね。結構足元がつまずいたりする感じがあるということで、楽ではないなという感じはしますよね」

訓練で見えた加課題

また、集会所に備蓄している食料と水を、浸水の恐れのない高い場所に移さなければならないことも明らかになりました。
石黒さんは、町内会が各戸に配っている広報紙で津波への備えを呼びかけるとともに、多くの住民が参加しての避難訓練を実施しなければと考えるようになりました。
今泉町内会石黒康二会長「地域地域なりそれぞれの所に応じた対策の立て方、常日頃の意識の持ち方なりがやっぱりあると思うんですよね。そういうものをそれぞれにちゃんと認識してもらう、それをどう町内会としてバックアップしていくか共通認識づくりしていくかだと思うんだけどね」

しかし、こうした危機感を持つようになった町内会や住民は多くはありません。県の新たな津波浸水想定で、仙台市内で新たに浸水エリアとなった地域には、約2万世帯4万人が暮らしています。
市は、新たな浸水エリアの範囲や避難方法などについて周知を図ろうと避難の手引きを改訂し、2022年度中に市内の全戸に配ることにしています。

仙台市が周知を進める

また、8月から浸水エリアの住民などを対象に説明会を開いています。しかし、11月中旬に全ての市民を対象に開いた説明会では、平日の夜ということもあり出席者はわずか5人でした。
仙台市減災推進課長濱俊伸課長「(説明会だけでは)限界がございますので今後、動画のチャンネルの『せんだいTube』などを使用しまして、更に周知の方を図っていきたいと考えております」

郡市長は6日の会見で、市民の防災意識が高まっていないのであれば、何らかの対策を取らなければならないとの考えを示しました。
郡仙台市長「市民の皆様方の意識ですよね。意識をしっかり持っていただいた上で対応するということ、順調に説明を終えているという私自身の認識ですけれども、そうでないとすればいろいろと考えていかなくちゃいけないというふうに今改めて思うところです」

経験や思い込みにとらわれない

新たな津波浸水想定の策定に携わった東北大学災害科学国際研究所の今村文彦所長は、災害への備えとしてこれまでの経験や思い込みにとらわれないことが大切だと指摘します。
東北大学災害科学国際研究所今村文彦所長「今後起きる地震、津波災害は(以前と)同じような状況が起きるとは限りません。むしろ、今回のように条件が変われば(以前の災害を)上回る場合があると。各個人がお持ちの経験とか思い込みですね、これはなるべく抑えるような形で、新しい知見を知っていただきたいと思います」

今村所長は、津波への危機感を共有するためには、行政側にはSNSなども使った丁寧な情報提供が、また、住民側には訓練や学習会などの自主的な取り組みが求められていると話しています。

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