10年超の“バス愛”で憧れの運転手に! させぼバス黒髪営業所・田中小太郎さん(20)

憧れた運転手になった田中さん。「優しい運転手になりたい」と話す=佐世保市黒髪町

 バスに憧れ続けた少年がこの秋、運転手になった。長崎県佐世保市のさせぼバス黒髪営業所の田中小太郎さん(20)。見ることと乗ることが好きで、同営業所に通い詰めて10年超。真新しい制服に袖を通し、念願の一歩をスタートさせた。
 幼稚園児の時には自宅近くの同営業所に通っていた。ある時は営業所前のベンチに座って、またある時は幼稚園のフェンス越しにバスを眺め、車庫から出発するバスに手を振った。
 「僕にとってはアイドルを追っ掛けるようなもの」と田中さん。ランドセルを背負うようになっても高校の制服を着るようになっても熱は冷めず、通い続けた。田中さんの“バス愛”を見てきた同営業所の杉谷万壽美所長(70)は「ずっとベンチにいた。何度自宅に送り届けたか分からない」と笑う。かわいがってくれる運転手が増え、おしゃべりも楽しんでいた。

8歳のころの田中さん。一日乗車券でバスに乗り、発車までの時間に運転席に座らせてもらった時の一枚


 乗る楽しさも味わう。小学生のころから時間がある日は弁当を持ち、一日乗車券を使って午前中から暗くなるまで堪能した。定位置は前方ドアのすぐ後ろ。目的地は決めずに乗り込み、運転手のハンドルの回し方、アクセルやブレーキを踏む足の操作などを観察した。何度も乗るうちにバス停の名称や路線図は自然と覚えた。
 自宅には運転席を再現。市営バスの祭りで手に入れた中古の運賃箱や整理券箱を並べ、本物になりきって頭の中に広がる路線を走行。運転手になる夢は大きくなっていた。

 5月に改正された道路交通法で大型免許の受験資格が緩和され、19歳から取得可能になった。田中さんは前の会社を辞めてさせぼバスに入社し、高齢化が進む業界の「期待の新星」(杉谷所長)に。幼少期から見守る運転手は「一人前にするまでは辞められない」と、今後は同僚として成長をサポートする心意気だ。
 田中さんは11月中旬、運転手デビューした。細い道を進む時は「大きなバスを扱っているのを実感できて気持ちがいい」と話す。10年超の思いは実ったばかり。「乗客に声かけする優しい運転手であり続けたい」と田中さん。これは幼少期から見守ってきた杉谷所長らの願いでもある。


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