2人の不審者と不審車両… 未解決、施設長殺人事件の現場をたどる 広島

記者 2000年12月9日
「現場は大朝町の中心部からほど近いところにあります。けさ8時ごろ、犬の散歩をしていた近所の人が、あちらの田んぼで男性が倒れているのを発見しました」

22年前の12月8日、広島・北広島町で老人ホームの施設長が殺害されました。事件は、未解決のままです。

不審な男の目撃者
「『やすらぎ、どこにあるか』みたいな、叫ぶような…」

施設職員
「この人、どうやって、この駐車場に上がってこられたのかなと」

不審な男の目撃者
「これです。間違いなく、これ」

警察
「非常に目撃情報が少ない」

事件を追い続ける警察…。当時の目撃者…。犯人像は…?

きょうは、『22年前の未解決事件 老人ホーム 施設長 殺害事件の現場』をたどります。

北広島町の特別養護老人ホーム「やすらぎ」の施設長だった郷田和昭さん(当時49)が何者かに殺害されてから、きょう12月8日で22年となりました。

事件が起きた現場は、こちらです。事件のあった老人ホームは、中国道の千代田インターチェンジから北西に車でおよそ20分、今の北広島町、合併前の大朝町にある施設です。遺体が見つかったのは、施設のすぐ近く…。

22年前にいったい、何があったのか、RCCの県警班が事件現場をたどりました。

8日、北広島町のスーパーには警察官14人がチラシを配って、情報提供を求める姿がありました。

住民たち
「覚えてはいますけど、よくわかりません」
「なんで見つからないかと思って。早く解決していただきたい」

22年前の12月9日の朝、特別養護老人ホーム「やすらぎ」の施設長だった郷田和昭さん(当時49)が、施設近くの田んぼで血まみれの状態で倒れているのを近所の住民が発見しました。

死因は、胸など数か所を刃物のようなもので刺されたことによる失血死。郷田さんは、前日8日の夕方に殺害されたとみられています。

捜査本部が置かれている山県警察署の“ナンバー2”泉淳一(いずみじゅんいち)次長です。

山県警察署 泉淳一 次長
「わたしは、(事件発生)翌年の2001年4月から県警本部の捜査一課で勤務するようになりました。そのときに初めて担当したのが、このやすらぎ事件であります。毎日のように関係者から事情聴取等々をやっておりました」

次長という立場となり、捜査現場は離れましたが、今も若い警察官にこの事件を伝えています。

誰よりも長く関わってきた、この事件の難しさについて、泉次長は…。

泉淳一 次長
「この事件が、なぜ起きたのか。動機の絞り込みが非常に困難。交通が閑散な場所ということもありまして、非常に目撃情報が少ない」

被害者の周辺に事件につながるトラブルは確認されていないといいます。当時は、防犯カメラも今ほど普及していませんでした。

22年後の事件現場をあらためて記者がたどりました。

家森亮 記者
「事件の翌朝、こちらの田んぼで郷田さんの遺体は発見されました」

郷田さんが着ていたスーツには財布が残されたまま…。一方で、携帯電話とセカンドバッグは消えていました。

警察は、事件には2人の男が関わっている可能性があるとみています。

□ 事件直前に施設 駐車場で目撃された作業着の男

事件直前の午後5時半すぎ、施設の駐車場では郷田さんが不審な男と話をしていた姿が目撃されていました。

施設職員
「郷田さんは、ポケットに手を突っ込んで、セカンドバッグを(わきに)はさんで、ちょっと緊張した感じの…」

午後6時ごろ、施設を下った坂道でも同じ男と、車を停めて立ち話をする郷田さんをほかの職員が目撃していたといいます。

それが、警察が追っている男だとされます。

施設職員
「背の高いやせ型の作業服らしき服を着た男性でした」

家森亮 記者
「遺体発見現場からおよそ100メートル離れた、この先に郷田さんの車は、乗り捨てられていました」

車は、脱輪した状態で見つかりました。車内には血こんが残っていたということです。

そして、郷田さんのバックは…。

家森亮記者
「事件後、遺体の発見現場からおよそ12キロ離れたこちらの田んぼに郷田さんのセカンドバッグは投げ捨てられていたということです」

事件の情報提供を求めるチラシには、セカンドバックが見つかった場所と、不審車両が目撃された場所が記載されています。

そしてもう1人、別の不審な男も…。

□ 白い軽自動車に乗った作業着の男

家森亮 記者
「こちらのガソリンスタンドでは、事件当時、不審な車と男が目撃されたということです」

不審な車と男の目撃者
「ここをこう入って、給油だったら、こちらへ行きますね。でも、ここで停まって。顔はもうこの辺で話はしています。浅黒い感じで、ちょっと目がギョロっとした感じ」

この男をガソリンスタンドで目撃したという、もう1人の男性にも話を聞くことができました。男の似顔絵は、この男性の証言によるものだといいます。

もう1人の目撃者
― 目撃したのは、どちら?
「下の(男)の似顔絵です」

「作業着を着ていたので建設関係かな。いきなり、(車の)窓を開けて、『やすらぎ、どこにあるか』みたいな、叫ぶような、強めの口調で」

今回、話を聞かせてもらった2人に、不審車両と同型とみられる車の写真を見てもらいました。

不審な車と男の目撃者
「これです。間違いなく、これ」

もう人の目撃者
「形はこんな感じ。横の、この黒いラインはたぶんなかった」

― イラストにはラインあるけど?
「このラインがあれば、特徴があるので覚えているはず」

施設の近くで郷田さんと話している様子が目撃された男…。

ガソリンスタンドで「やすらぎはどこにあるのか」とたずねてきたという男…。

2人の男は、この事件に関わっているのでしょうか。

郷田さんと1人の男が話す様子を見た施設の職員からは、気になる証言がありました。

当時を知る施設職員
「わたしたちは、いつも駐車場にどんな車が停まっているのか、職員(の車)は、だいたい把握している。ただ帰るときにそういう(見知らぬ)車は(なかった)…。この人、どうやってこの駐車場に上がってこられたのかなと思いながら下ったのは記憶にあります」

広島県警は、これまで延べ11万6000人の捜査員を投入。これまで得られた情報提供の数は264件ですが、このうち、ことしに入ってからのものは3件だといいます。

事件を追い続けた泉次長も来年の春には定年を迎え、退官する予定です。

事件解決のため、捜査本部では聞き込みなどを続けるとともに、証拠品の再鑑定や科学捜査の導入なども進めているといいます。

山県警察署 泉淳一 次長
「来年春にわたし自身は時効(定年)を迎えますが、この事件に時効はありません。絶対にこの事件は解決しないといけない事件。解決できる事件だと、わたしは思っています」

― 事件は未解決ですが、去年、捜査員の士気を高めた出来事がありました。

2001年、福山市 明王台で主婦が殺害された事件は去年、20年を経て、男が逮捕・起訴されました。きっかけは、刃物を持っていたとして男を任意捜査したときに採取したDNA型が、現場で見つかっていた血こんのものと一致したこと。長い間、未解決だった事件が急転直下…というケースは、ほかにもあります。

【未解決事件が解決した例】

2004年、廿日市で女子高校生が殺害された事件は、13年後に男が逮捕されました。別の事件で警察が任意採取したDNA型と指紋が、現場に残されていたものと一致して、捜査は急速に進展しました。(※その後の裁判で無期懲役)

2009年、北広島町の臥竜山で女子大学生の遺体が見つかった事件では、すでに死亡していた男を7年後に書類送検しました。この事件では、実は男が生前、周囲に「大変なことをした」などと漏らしていたことがわかっています。(※容疑者死亡で不起訴)

何が言いたいかというと、もし、何か思い当たることがあれば、「いまさら、こんなことを話してもしょうがない…」と思わずに、警察に情報を寄せてほしいということ。それをきっかけに、警察がこれまで捜査してきた点と点が結び付いて未解決事件が進展する可能性は、大いにあるということです。時間がたったからこそ、話せるというケースもあると思います。

情報提供は、山県警察署 捜査本部(電話 0826ー22ー0110)まで。最寄りの交番などでもだいじょうぶだということです。

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