鎌倉〝天空のカフェ〟閉店へ 長年愛され欧米でも「必見名所」と紹介 都市計画法巡り市と折り合い付かず

山の傾斜地を生かした造りの樹ガーデン=鎌倉市常盤

 「天空のカフェ」や「森のカフェ」とも呼ばれ、地域住民や観光客から長年愛された神奈川県鎌倉市常盤のカフェ「樹(いつき)ガーデン」が27日に閉店する。市が市街化調整区域での「専用住宅」で、飲食営業の調理設備を使用することが、都市計画法第42条に抵触しているとして、是正勧告をし、2者で解決策を探ってきたものの、折り合いが付かなかった。オーナーの石川照樹さん(67)は「これ以上不毛な議論を重ねても仕方がない。新たなステージに進みたい」と話している。

 観光客でにぎわうJR鎌倉駅から徒歩約15分の山中。緑が生い茂る166段の階段を登ると、テラス席の赤と白のパラソルが目を引く。山の傾斜地を生かした造りのカフェの木々の合間からはリスが顔を出し、遠くには霊峰・富士を望む。

 樹ガーデンは、北鎌倉と鎌倉大仏殿高徳院を結ぶハイキングコース上に立地。散策に訪れた人がトイレや休憩のために立ち寄った場所で、求めに応じて1980年から県の保健所の許可を得た上で、飲食を提供してきた。欧米のガイドブックでも「鎌倉の必見名所」として紹介され、新型コロナウイルス禍前には国内外から年間6万人が訪れるなど、市内でも有名な観光スポットの一つとなっていた。20代のころ米国で過ごしていた石川さんにとって外国人観光客の接客が楽しく「米国だけでなく、ヨーロッパや南米などいろいろな国の人が来てくれました」と思い出を語る。

 だが、2019年に市民からの情報提供で、調理に使っている建物が市街化を抑制する市街化調整区域内の「専用住宅」に該当するために、飲食営業の調理設備を使用できないことが判明。同様な指摘はこれまでなかったが、この時から市が、是正勧告に乗り出したという。

 石川さんは売り上げを周囲の森林保護などの非営利事業に使ってきた。非営利事業のため「例外」を認めてほしいと、訴えたものの、市側は首を縦に振らなかったという。キッチンカーを駐車場に止め調理をし、飲食物をゴンドラで運ぶなどの案もあったが実現しなかった。「地元の食材を使い、地域住民の雇用創出など、多少なりとも鎌倉の経済活性化に寄与したつもりだった」と語る。

 閉店は数カ月前から考えていたといい、11月に店のホームページで告げると、閉店を惜しむ客が多く訪れ、店に置かれたノートには「(来られて)最高の思い出になった」「再開を願っています」といったメッセージであふれた。

 一方、市開発審査課は「市は適法に誘導していく立場に過ぎない」と強調。「協議は続けてきたが(都市計画法に)『例外』はない。申し出があれば協議は今後も続ける」としている。

 市内の女性は「景色が良くすてきな場所で、夏場によく来ていた。閉店は残念です」と惜しむ。

 石川さんは閉店を決めたものの、常連客らの反応に心が揺れ動いているという。「この場所は唯一無二の環境。永遠にクローズという訳にはいかないと思う。何らかの形で一般に公開していければ」と未来を見据えている。

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