東京駅と有明・東京ビッグサイト結ぶ地下鉄新線 東京都の「都心部・臨海地域地下鉄線構想」を読み解く 開業は2040年代?【コラム】

臨海地下鉄線のルートと仮称の駅名(画像は小池都知事の会見から)

東京の地下鉄プロジェクトがまた一つ動き始めました。都心と臨海部を結ぶ「都心部・臨海地域地下鉄線(臨海地下鉄線)構想」。一部マスコミが2022年11月24日に先行報道した後、小池百合子都知事が翌11月25日の会見で、都の方針を発表しました。路線は東京―有明・東京ビッグサイト間の6.1キロで、途中5駅を設けます(駅名はすべて仮称)。

都は臨海ベイエリアを、「世界から人と投資を呼び込み、東京と日本の持続的成長をけん引する未来創造エリア」と位置づけ、臨海地下鉄線に「基幹的な交通基盤で、東京の背骨になる路線」の期待を託します。

開業は2040年代を見込み、つくばエクスプレス(TX)やJR東日本の羽田空港アクセス線との接続も検討します。本コラムは、臨海地下鉄線の経緯や路線のアウトラインをご紹介。鉄道ファン目線での注目点などをまとめました。

東京と日本の持続的成長をけん引する基幹的交通機関

会見で臨海地下鉄線構想を発表する小池都知事。記者からは自然災害防止で液状化対策などの質問が出ました(画像は小池都知事の会見から)

2022年11月25日の定例会見で小池都知事は、臨海地下鉄線の路線や駅位置の概要を説明。「ベイエリアの鉄道を充実させることで、東京は持続可能な都市になる。地下鉄が開通すれば、晴海の選手村や築地の街づくりが進み、個性豊かな街の魅力が一段と発揮される。早期の事業化に向けて、さらに検討を進めていく(大意)」と述べました。

臨海地下鉄線の必要性を示すのが、都が2021年4月に策定した東京の未来を展望する都市計画「東京ベイeSGプロジェクト」です。

(資料:東京都の事業計画案)

プロジェクトは、ベイエリアの広大な用地を未来創造エリアとして整備。世界から人や投資を呼び込み、東京と日本の持続的成長をけん引します。未来創造エリアの基幹的交通手段が、臨海地下鉄線というわけです。

ちなみにeSGはenvironment(環境)、social(社会)、governance(ガバナンス、統治)の頭文字。細かいニュアンスは異なりますがSDGsの類語で、「持続可能な開発目標を持つ都市」といった意味合いです。

臨海地下鉄線の概算事業費と事業性(費用対効果)、収支採算性は別添資料通りです。開発が進む臨海エリアとあって、収支採算性の心配はなさそうです。

概算事業費や事業性など。事業スキームはあくまで現時点での想定値で、関係者によるさらなる協議・調整が必要です(資料:東京都の事業計画案)

東京駅で新幹線や在来線から乗り換える

ここから、事業計画案をもとに臨海地下鉄線のルートや接続路線をご案内します。駅名は最初に紹介した通りすべて仮称。ルートは変更の可能性もあります。

臨海地下鉄線の想定ルートと想定の駅位置(資料:東京都の事業計画案)

起点の東京駅はJR東京駅北東側に設けられます。次駅の新銀座までは、JR山手線に並行。新銀座からほぼ直角に向きを変え、南東方向の臨海部に向かいます。

事業計画案では、東京は同名の東京(駅)のほか、三越前、日本橋、大手町の地下鉄4駅に連絡。新幹線やJR在来線のほか、東京メトロ、都営地下鉄各線と接続します。

2駅目の新銀座は有楽町、東京、銀座一丁目、東銀座の4駅に連絡します。3駅目の新築地は事業計画案に記載はありませんが、メトロ日比谷線築地駅に連絡できそうです。

4駅目の勝どきは、都営地下鉄大江戸線との乗り換え駅。大江戸線の利便性向上が明記されます。5駅目の晴海は接続路線はありませんが、「鉄道空白地帯解消」の効果を強調。一部マスコミでは、地域住民から〝陸の孤島返上〟への期待が示されました。

晴海には東京オリンピック・パラリンピック選手村があり、「晴海フラッグ」のネーミングで分譲・賃貸マンションや商業施設に整備、人口1万2000人規模の新しい街が誕生します。臨海地下鉄線は、晴海フラッグの主要アクセス手段になります。

東京の未来を象徴する選手村跡地の「晴海フラッグ」。現在は都心の虎ノ門ヒルズとの間にバス高速輸送システム・BRTTが運行されます(写真:Jake55 / PIXTA)

オリパラのレガシーを未来につなぐ鉄道

先を急ぎましょう。6駅目の豊洲市場は都民の食卓を支える豊洲市場のほか、2022年4月には大型複合施設「ミチノテラス豊洲」が街開き、今後の発展が約束されます。事業計画案に記載はありませんが、豊洲市場にはゆりかもめの駅があります

終着駅は有明・東京ビッグサイト。近隣にゆりかもめの東京ビックサイト駅、東京臨海高速鉄道りんかい線の国際展示場駅があります。

ビッグサイトでは、多くの展示・商談会や見本市が開かれます。周辺では、オリパラのレガシー(遺産)を未来につなぐ有明レガシーエリアや有明ガーデンなどの街づくりが進みます。

駅間距離は、最長の新銀座―新築地間が1.6キロで、他の5区間は0.6キロ~1.1キロ。晴海を除いて鉄道空白地帯はありませんが、周辺住民にとって、東京駅まで乗り換えなしで出られるのは朗報でしょう。

TXやJR羽田空港アクセス線と接続!?

事業計画案のラストに、今後の検討事項として①TXとの接続、②羽田空港との接続――の2項目が記載されます。

臨海地下鉄線の計画が初お目見えしたのは、国の交通政策審議会(交政審)が東京圏の鉄道ネットワークの将来像を示した2016年の答申第198号です。答申では現在は秋葉原止まりのTXを東京駅まで延伸、東京から臨海部へ新線を整備する形で、臨海地下鉄線の計画が示されました。

臨海地下鉄線構想がはじめて示された交政審答申。TXの延伸線になる秋葉原―東京間は実線、東京―銀座―臨海部は答申時点では事業者が未定のため点線で記載されています(資料:交通政策審議会)

答申を見返すと、東京駅から先はTX(運営会社の首都圏新都市鉄道)とは別の事業者が運営すると読めます。

交政審に従えば、東京都は今回、「別の事業者」部分の整備構想を公表しました。秋葉原―東京間はTXが整備(建設)、臨海地下鉄新線は東京でTXと相互直通運転するのが自然な流れのように思えます。

2005年に開業したTXは、首都圏の鉄道新線では珍しく他の鉄道との相直なしで運行してきたわけですが、鉄道ファンにすれば臨海地下鉄線と相直するのか気になるところ。

若干マニアックな視点では、TXの守谷―つくば間は交流電化で、屋根上に交直流対応の機器類を搭載した電車が東京の地下鉄を走る可能性もありそうです。

有明・東京ビッグサイトで接続して羽田空港へ

今後の検討課題としたTXやJR羽田空港アクセス線との接続(資料:東京都の事業計画案)

ラストは、JR羽田空港アクセス線との接続。空港アクセス線は、東京貨物ターミナルから西山手、東山手、臨海部の3つのルートに分かれ、このうち臨海部へは、りんかい線に接続して向かいます。

JR東日本が東山手ルートを先行させる中では、実現はかなり先になると思いますが、つくば~秋葉原―東京―有明・東京ビッグサイト~羽田空港のルートが設定される可能性もあることは記憶しておいていいでしょう。

最後に東京都の最近の鉄道整備の考え方を考察しようと思ったのですが、スペースが尽きたため別の機会に回させていただきます。2023年に臨海地下鉄線がどのような形で進行するのか、期待を持って見守りたいと思います。

記事:上里夏生

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