天国にあらず

 明治の初めに来日した米国の動物学者モースは、日本人の特色を著書「日本その日その日」に書き残している。衛生に気を配り、感染症が少ないこと。生来、道徳や品性を備えていること…▲来日した外国人の一致する見方として、日本は〈子どもたちの天国〉とも書いている。子どもはみんな〈親切に取り扱われ…自由を持ち、うるさく愚図愚図(ぐずぐず)いわれることもない〉▲モースが今の日本を見たとしたら〈子どもたちの天国〉とは形容しようにもできないだろう。静岡県の保育園で、園児の足をつかんで宙づりにしたり、頭を殴ったりした疑いで元保育士3人が逮捕されたが、その後も虐待の例が各地で明るみに出ている▲熊本市では、乳児院の職員が幼子に「顔面偏差値、低いよね」と、刃物のような言葉を浴びせていた。弱くて、あらがえない子どもだからこそ、向ける“言刃(ことば)”の切っ先が鋭さを増す。子どもには天国の対極だろう▲ともすれば密室的な保育の現場で、人権も何もない「やりたい放題」があるとすれば、そこに外部の目を光らせる策が欠かせない。「第三者機関による評価」の形づくりが急がれる▲子どもの表情を見てモースは記した。〈にこにこしている所から判断すると、朝から晩まで幸福らしい〉。言刃が心に刺さることはなかったろう。(徹)

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